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湊かなえ望郷【雲の糸】 ネタバレあらすじ&感想

   

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「望郷【雲の糸】」あらすじ&ネタバレ&感想

ドラマスペシャル 湊かなえサスペンス

【雲の糸】

白綱島出身の人気歌手・黒崎ヒロタカ(濱田岳)は、7年ぶりに帰ってきた故郷で海に落ち、意識不明に陥った。
有名になったヒロタカにとって、故郷は知られたくない過去だった。
赤ん坊の頃に母の磯貝律子(麻生祐未)が事件を起こし、辛い少年時代を送った場所だったからだ。
同級生の強引な誘いで島に戻ったヒロタカは、盛大な拍手や歓声に迎えられながらも居心地の悪さを覚えていた。
彼はなぜ海に落ちたのか…?

【雲の糸】
黒崎ヒロタカ……濱田岳
母が起こした事件のために辛い少年時代を送り、今では出身地を伏せて活動する人気アーティスト。

磯貝亜矢……内山理名
ヒロタカの姉。白綱島で働いている。律子が犯した罪の真相を知っている。

的場裕也……大野拓朗
的場鉄工所社長の息子。
ヒロタカの同級生。
会社の50周年記念パーティーのため、ヒロタカを強引に島へ呼んだ。

磯貝亜矢(回想)……井頭愛海
亜矢少女期。

的場社長……西岡德馬
的場鉄工所の社長。会社創業50周年の記念パーティーを開く。

磯貝律子……麻生祐未
ヒロタカの母。過去の罪を島で償い続けている。出所してからずっとフェリー乗り場で掃除の仕事をしている。

真知子……渚あき

渚社長……河西健司

「的場とは仲良くない…」

白綱島で、人気歌手の黒崎ヒロタカ(濱田岳)が防波堤から海に転落し、救急車で搬送されたが意識不明の重体とのニュースが流れている。

一ヶ月前。
東京。

「もしもしヒロタカ?俺、誰だかわかる?」
驚いて声が出ないヒロタカ。

「おいおい、故郷の親友忘れたのかよ!?的場だよー。大活躍じゃないかヒロタカー。俺たちとは違うと思ってたけど、やっぱりすごいなあ。」
電話の主は同級生の的場裕也(大野拓朗)だった。
的場鉄工所社長の息子だ。

「お前とはいろいろあったけどさ、悪かったな、ほんと。これからは反省の意味も込めて、応援してくよ。そうそう、《空の果て》、あの曲いいよな」
「…ありがとう」

「で、ちょっとお願いがあるんだけどさ。来月、こっち帰ってこられないかなあ?うちの会社の五十周年記念パーティーやるんだよ。ゲストとして来てほしくてさあ。日程もお前に合わせるし、都合のいい日ないか?」
「…申し訳ないけど、そういうのは事務所を通してもらわないと…」

「おいおい、なんだよ、冷たいなあ。そんなこと言って、事務所に断らせるつもりだろう」
「いや…そういうんじゃないよ」

「なんだなんだ、スター様は不自由だなあ。日程まで合わせてやるっつってんのに。一日も休みないのか?」
「いや、だからさ!」

「おばさんも来ることになってるぞ」
その言葉に、ヒロタカは反応する。

「それに、お前が来たらみんな喜ぶし、おばさんも鼻が高いんじゃねえの?」
「…」

「それにお前、プロフィール、出身地伏せてんだろう。最近、週刊誌の記者が、お前のこと調べに島に来てるらしいぞ」
ヒロタカは唾を飲み込む。

「ま、とにかくまた、連絡するわ。じゃあな!」

電話が切れたあと、ヒロタカは母・磯貝律子(麻生祐未)に電話をかけた。

「もしもし」
「母さん!?」

「ヒロ!?帰ってきてくれるの?」
「うん…あのさあ、勝手に僕の番号教えないでよ」

「あら、知らない人には教えないわよ。仲の良い人にだけ」
「的場とは仲良くない…」

「なに言ってるの。的場くんはヒロのことすごく応援してくれてるのよ。他のみんなも会ったらていねいに挨拶してくれるし。母さんすごく嬉しいの。ヒロのおかげね。ありがとう」
「…」

「魚の煮付けね。任せといて…うん、じゃあまた」

「帰ってくるって?」と、ヒロタカの姉・亜矢(内山理名)が律子に聞く。

「…うん」
「七年ぶりだね…」

「堂々としてりゃいいのよ」

ヒロタカは、フェリーで白綱島に帰ってきた。

”母さん、姉さん、僕。僕たち家族は島の人たちから無視され続けた。それには理由がある。”

ヒロタカが実家の前に着くと、ちょうど亜矢がキャリーバッグを引いて玄関を出てきた。
ヒロタカに気づき、お互い気まずい二人。

「おかえり…」
「…ただいま」

「…がんばってんじゃない。テレビでは見てるけど、やっぱ垢抜けたね」
首をひねるヒロタカ。

「えっ、出張?」
「…うん」
亜矢はヒロタカに強く言う。

「堂々としてりゃいいのよ」

亜矢が行こうとすると、玄関が開いて律子が顔を出した。
亜矢は笑顔を向けて、歩いて行った。

「おかえり」

”僕たちが島の人たちに無視され続けたのは…”

「ただいま」

”母さんが父さんを殺したからだ。”

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「たくさんの人の支えがあって今のあんたがあんのよ」

”毎晩、大酒をくらって暴力をふるう父さんの背中を、母さんが包丁で刺したのだ。当時、僕は一歳。事件に関する記憶は何もない。あれは仕方なかったのだと、姉さんは受け入れた。だけど、僕はそうは思えない。その罪を、僕たちは背負って生きることになったのだから。”

「もうちょっと早かったら、亜矢も一緒に食べられたのにね」
律子が料理をし、ヒロタカは食べている。

「明日、パーティー、二時からよね。けど午前中、真知子ちゃん(渚あき)のところに挨拶に行ってきてくれないかしら?」
「…真知子おばさん!?…なんで?」

「なんでって…。ヒロにとって、親みたいなもんでしょ!?…五分だけでいいから、ね。いつも応援してくれてんのよ。ありがたく思わなきゃ…」
「じゃあ、挨拶だけね」
律子は、背中越しに頭を下げる。

真知子の家には、たくさんの女性たちが集まっていた。
ヒロタカはサインを書き続けている。

「はい、ヒロちゃん。ちゃんと挨拶してね」
真知子に言われ、ヒロタカは口を開く。

「あのぅ…いつも、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

サインを書いてもらった主婦が、《杉田大作様》と書いた封筒を差し出した。
「杉田大作、同じ事務所でしょ。渡しといてくれないかしら?」
「…はい」

別の主婦が、作詞家を目指しているという自分の娘の詩をヒロタカに見せる。
「どう、才能ある?」
「…そうっすね…」
「でしょー!?次の曲にどうかしらー?」
「…そら…」
「じゃあ、マイコはー!?彼女にはぴったりじゃなーい?一度聞いてみてくれないかしら、感想だけでもいいから」
「…いや、あのね…ちょっともう…」

「渡してあげればいいいじゃない」
真知子が口をはさむ。

「たくさんの人の支えがあって今のあんたがあんのよ」
「…」

「あんたと亜矢ちゃんを引き取って、私はほんとに辛い思いをしたの。あの事件のせいで婚約が破談になって、自殺まで考えた。そんなときに支えになってくれたのが、ここにいる《わたぼうしの会》の人たちなの。あんたが大きくなれたのは、みんなのおかげでもあるのよ」
「……はい」
ヒロタカはうなずいた。

真知子の家を出るヒロタカ。
車に乗ろうとすると、空に飛行機雲が見えた。

小高い山に車を停め、木の柵に腰かけたヒロタカは、空に残る飛行機雲に手を伸ばした。
そこは、十五年前と同じ場所だった。

「蜘蛛の糸、みたいだね」

十五年前。
空に手を伸ばすヒロタカ(回想:吉田騎士)は、顔や手に傷をつけている。

「やっぱりここか」と、亜矢(回想:井頭愛海)が近づいてきた。

「なにしてんの?」
亜矢はヒロタカの横に座る。
目の下の傷に触ろうとする亜矢の手をヒロタカは拒む。

「あの雲、ロープみたいじゃない?」
「雲?」

「どっかへ連れてってくれないかなあ…。なあーんて」
ヒロタカをじっと見つめた亜矢は、空を見上げて言う。

「蜘蛛の糸、みたいだね」
「なんだっけ、それ?」

「小説。良いことしたら、天から蜘蛛の糸が垂れてきて、それを登れば地獄から抜け出せるって話」
「地獄かあ…。でもそれ、生き物の蜘蛛じゃない?」

「…まあ、なにか良いことしたら、なにかが助けてくれるかもしれないってこと!」
ヒロタカは、それを聞いてニッコリ笑った。

蜘蛛の糸が、僕に降りてきた

ヒロタカは実家に戻ってきた。

「ごめんヒロ、母さん行けなくなっちゃった。仕事、急に変わってあげることになって」
「なんだよ、じゃあ、僕も行かないよ」

「ダメよ!みんなに迷惑かかるでしょ!?」
「そんな義理立てする必要なんてないんだってー。ずっと嫌がらせを受けてきたんだからさ。ドタキャンしてやるぐらいがちょうど良いよ」

「……なんてこと言うの、仕返しするために歌手になったわけじゃないでしょ」
「…」

「じゃあ、先出るけど、いつも世話になってるんだから、くれぐれもよろしくね」
そう言って、律子は家を出た。

ヒロタカは、律子が作ったスクラップブックを開く。

”高校を卒業した僕は、すぐに家を出て大阪で就職した。そこで会った先輩が、音楽の楽しさを教えてくれた。”

先輩は山崎まさよし。
ヒロタカにギターを教えている。

「そう、なかなかセンスあんな」
「ほんとですか?」

「そうだ、歌とか歌ってみ」
「えー…」
ギターを弾きながらハミングしてみる。

「いいねえ」

”人から初めて褒められた僕は、夢中で練習した。ギターを弾いて歌っていると、空の果てまでも、身も心も解放されるようだった。歌っている間は、嫌なことも思い出さない。生まれて初めて、夢中になれるものを見つけた。”

路上で弾き語りをするヒロタカ。
スーツを着た男性に名刺を渡される。

”空の下で歌うのではなく、空の上から歌ってみないか?…蜘蛛の糸が、僕に降りてきた。”

サイン書いてもらおうと思って、一時間前に呼んだんだ

パーティー会場に着いたヒロタカ。

「おお、久しぶり!」
的場が握手を求めてきた。
ヒロタカは的場と目を合わせない。
的場は「おい」と言って、強引に握手した。

「こっち!」
「うん…二時からじゃなかったの?」

「ああ、サイン書いてもらおうと思って、一時間前に呼んだんだ。来場記念に全員に配ろうと思ってさ。それよりほら、見てくれよこれ」
ヒロタカのポスターが貼られてあり、マイコや杉田大作からの花輪が届いていた。

「なにこれ?」
「お前の事務所にファックス送っといたんだよ、メッセージお願いしますって」

「…」
「そしたら、メッセージ無理だけどって、これ送られてきた」

「いや、なんでこんなこと…」
「へへへ、いや、これ見たら、みーんなお前のこと、すごい奴だと思うって。おっさん連中は杉田大作のファン多いからなあ」

「あのさ、こっちのこと、僕に言ってくんないと」
「こっちのこと?なんだよそれ、大丈夫だってさ」

「…」
「ま、マイコは俺がファンだから便乗したんだけど」
歩きだした的場の後をついていくヒロタカ。

「あ、あとさ、歌もお願いしていいかな?」
「ううん、それは、事務所と契約違反になるから、無理…」

「バレないって」
「いや、ギターもないし、喉の準備だってあるし…ほんとに無理なんだよ」
的場はしばらく考えた。

「じゃあ、しかたないな。来てくれただけでありがたいよ。その代わり、サインはよろしくな」
目の前のテーブルには、たくさんの色紙が置いてあった。

「白綱島の住民は、みんな家族なんです!」

株式会社的場鉄工所 創立五十周年記念パーティー。

的場社長(西岡徳馬)が挨拶のスピーチをする。
的場社長に紹介され、的場に手を引かれて壇上に上がるヒロタカ。

「思い起こせば二十年ほど前、ヒロタカくんの家は大変なことになってしまいました。本来ですと、ああいう事件が起きれば、住民たちはヒロタカくん一家を追い出そうとするところです。しかしながら…我々は、ヒロタカくんに手を差し伸べ、できる限りの援助をしてまいりました。それは、ヒロタカくんが我々の家族だからです」
そう言って、的場社長はヒロタカの肩に手を載せた。
ヒロタカは小さく頭を下げた。

「白綱島の住民は、みんな家族なんです!」
手を振り上げる的場社長に、会場中が拍手する。

「だからヒロタカくんも、いつでも帰ってきて、みんなに甘えればいい。そうですよね、皆さん?」
「そうだ」という声とともに、拍手。

「では、ヒロタカくんと、私ども的場鉄工所を、この島の二本柱として、これからますます大いに、盛り立てていこうではありませんか」
ヒロタカの横で、的場が肩に手をおいてうなずいている。
会場が拍手する。

「では、カンパーイ!」
ヒロタカは、終始下を向いていた。
席に戻るヒロタカに、「おい、ヒロタカ!」と、的場が声をかける。
ヒロタカが振り向くと、渚社長(河西健司)が立っていた。

「覚えてるか?」

ヒロタカは的場のほうを向く。
的場は、「ほら、おばさんが出所してからずっと仕事の世話になってる社長さんだろ」と教えた。

「どうも」と頭を下げるヒロタカ。

「お母さん、今でも頑張ってくれてるよ。親孝行してやらんとな」
そう言って、渚社長はグラスを合わせてきた。
渚社長が行った後、的場はヒロタカの肩に右手を回してきた。

「母さんにも、ジュース飲んでほしかったな」

ヒロタカは、小学生時代のことを思い出していた。
今と同じように、的場に肩を組まれて、律子の仕事している様子を見せられていた。

「お前んち、おばさんが掃除してることでご飯食べてるんだろ。」
的場のほかにも、二人のいじめっこがそばにいる。
三人から代わる代わる、殴られたり蹴られたりするヒロタカ。

「なにやってんの!」と亜矢が止めに入った。
「わ、来た。クソ女」と言って、三人は帰っていった。

「大丈夫?」と聞く亜矢に「うん」と答える。

亜矢はヒロタカと一緒に、律子の仕事を手伝った。
その後、律子は二人にジュースを買うが、自分の分は買わない。

「大人はそんなもの飲まないのよ」

そう言って、仕事に戻る律子。
亜矢は後ろ姿を見ながら、「母さんにも、ジュース飲んでほしかったな」とつぶやく。

応援ソング作ってやるんだろ?

ヒロタカが昔のことを思い出していると、初老の男性が声をかけてきた。
男性は、少しは的場を見習えという。

「裕也くんの今度の市議選、応援ソング作ってやるんだろ?」
「…なんすか、それ?」

的場社長が「みんな楽しみにしてるよ」と声をかけてきた。

「あ、そうだ、その曲、選挙カーの上で歌ってみたらどうだ?みんな喜ぶよー」
そこへ的場がやってきた。

「先生、先生、ちょっとヒロタカをお借りします」
歩きながら的場に聞く。

「市議選ってなに?そのために今日、呼んだの?」
「勝手に言ってるだけだろ。よし、みんなで写真撮ろうぜ」

「いやいや、ちょっとそれは…」
「肖像権か!?心配すんなって、ちゃんと注意するから」
的場に肩を組まれて、ヒロタカは連れていかれる。

スマホで写真を撮る、大勢の出席者たち。
「はい、ここまでです!」と言って、的場がみんなを席に戻す。
ヒロタカがもう帰ろうとすると、「あとは万歳三唱だけだから」と手を引っ張っていく。

君のお母さんやお姉さんも、困らせたくないだろ!?

司会者が「万歳三唱といきたいところですが、せっかくなので一曲、披露していただきませんかー?」と言って、ヒロタカを指差した。
スポットライトが当てられ、拍手と歓声が響く。
嫌がるヒロタカを、的場が無理やり引っ張る。

「最初に言ったよね!?」
「いやいや、やるしかないでしょ!?」

ヒロタカは的場社長に、契約違反で歌えないと言う。

「私を困らせないでくれよ。…君のお母さんやお姉さんも、困らせたくないだろ!?」
笑っていた的場社長の顔が真剣になり、ヒロタカは固まる。

カラオケが始まり、マイクを持たされたヒロタカは、拳を握りしめて歌い始めた。

帰る出席者を、一人一人見送るヒロタカ。
男性に「売れない演歌歌手みたいだったな」
別の男性が「(サインを受け取らず)何歌ってんだかさっぱりだよ。あんなんじゃ、故郷に錦なんか飾れないよ、ヒロタカくん」
そう言われ、背中を叩かれたヒロタカは、それまで我慢していたものを、我慢しきれずに吐いてしまった。

「すいません。今日、体調悪かったんですよー。ほんと申し訳ないです」
男性に謝りながら、的場は小声で「もう帰っていいよ」とヒロタカに言った。

ヒロタカが会場の外に出ると、乗ってきた車のワイパーに封筒が挟んであった。

「僕が…母さんを苦しめてたの?」

実家に戻ると、「おかえり。ご飯食べてきた?お刺身買ってきたけど」と律子が声をかけた。

「いらない。具合悪い」
「あら、昨日食べたお魚かしら?」

「そういうんじゃないってば!」
ヒロタカは声を荒げた。

「ねえ、母さん。これ、なに?」
テーブルの上には、大量の色紙が置いてある。

「ああ、みんなに頼まれちゃって。楽になってからでいいから、サインお願いでき…」
「いい加減にしてよー!!!」
大声を出すヒロタカ。

「…どうしたの?…」
「…ねえ、みんなってさ、母さんそんな、親しい人いる!?ねえ、誰!?」

「…お世話になってる人たちよ。みんな、応援してくれてるんだから」
「いや、二十年間無視され続けて、お世話になったもなにもないよね!?もう、断ってきてよ、あんなの!」

「…いいじゃない、サインぐらい。ありがたいと思って…」
「いや、ありがたいなんて思ったことないよ!」

「…じゃあ、なんて断ればいいの?」
「いや、預かれませんでしたとか、いろいろあるでしょ、そんなの」

「…そんなことしたら…」
「なによ?」

「ヒロが…、嫌がらせされるかもしれないでしょ」
「…」

「人殺しの子って言われて…それで迷惑かけたら母さん、どうして謝ればいいのか…ごめんなさい!」
律子は床に頭をつけて、泣いて謝った。

「母さん、ねえ、やめてよ」
「母さんは何百回だって、人殺しって言われてもいい、でも、ヒロには、ヒロにはキレイなとこにいてほしいの。自分がうんと汚れてたら、ヒロと亜矢はキレイなとこにいられるんじゃないかなって…。神頼みみたいなことしかできなくて…。バカな母さんでごめんね!」

「ねえ、母さん。なに言ってんのもう。やめて、いいよ。ね。ほら、母さん!」
ヒロタカは、律子の左手首に、リストカットの痕があるのを見つけた。

「…ねえ…母さん…これ、これなあに、母さん!」
必死に隠そうとし、ヒロタカから離れる律子。

「ねえ、なあに、母さん、それ!?」
「……」

「いつやったの?」

ヒロタカは、的場が電話で、週刊誌の記者が調べに来てるらしいと言ってたことを思い出した。

「記者に…会ったの?」
律子は震えている。

「あの日のことがバレる前に、死のうと思ったの?」
「…」

「僕が…歌手になったせい?」
「…」

「曲がヒットしたせい?」
律子は激しく頭を横に振る。

「僕が…母さんを苦しめてたの?」
「ちがう!ちがう、母さんが悪いの!ごめんなさい!」
再び床に頭をつけて謝る。

「ごめんなさい…」
何度も謝る律子をおいて、よろめきながら立ち上がったヒロタカは、外に出た。

「来るなーーー!!!」

トボトボと暗い夜の海岸沿いを歩くヒロタカ。

”ヒロタカ!”

その声に立ち止まったヒロタカ。
的場の声のように聞こえたが、振り向いても誰もいない。
ヒロタカは再び歩き始める。

ヒロタカの頭にいろんな”声”が聞こえてくる。
的場の声、的場社長の声、真知子の声、真知子の友人の主婦たちの声、酔っぱらった男性の声…。

「うるさーい!!!」
ヒロタカは振り向いて叫んだ。

「来るなー!来るな!」

ヒロタカは防波堤の真ん中で、”声の主たち”に向かって叫ぶ。

「この空から、蜘蛛の糸が下りてくるのを、ずっと待ってたんだよ!やっとつかんだ蜘蛛の糸…必死に上っただけだよ!…僕の糸に群がって来るな!!」
ヒロタカは後ずさっていく。

ヒロタカは、頭に聞こえてくるいろんな”声”に向かって叫んだ。

「来るなーーー!!!」

そのとき、足を滑らせて海の中に落ちてしまった。
伸ばした手が、蜘蛛の糸を掴もうとするかのように見える。
ゆっくりと沈んでいくヒロタカは、律子の姿を思い出していた。

「母さん……」

「…ニュースになったんだ…。母さんのことも?」

ヒロタカは、病院のベッドで目を覚ました。
体を起こそうとしていると、亜矢が病室に入ってきた。

「ヒロ!」
体を起こしたヒロは「母さんは?」と尋ねる。

「今、ナースステーション。お見舞いのお花とか手紙、全国から届いてるから、どうするか相談してる」
「…ニュースになったんだ…。母さんのことも?」
亜矢は椅子に座った。

「…うん。……いいじゃない、別に。母さんは罪を犯した。でもちゃんと償ってきたし」
「…」

「今でも償いだって言って、仕事以外でも島中掃除してるの」
「…」

「あんたのためよ!」

ヒロタカを車いすに乗せ、亜矢が廊下を押していく。

「パーティーのことは聞いた。写真も一緒に撮ってもらったし、歌まで歌ってサインもくれたって、みんな喜んでたよ」
「…」

「あと昨日、的場くんが謝りに来た。海に飛び込むほど追い詰めたのは、自分だって…」
「いや、責められないよう、予防線張ってるだけでしょ」

「そうかもね。でも、あんた応援する気持ちはみんなちゃんとあるんだよ」
「なんだよ、あっちの味方かよ」

「はあっ。あんたは卑屈にならず、堂々としてりゃいいって言いたいの」
「人の成功、妬む人なんかどこにでもいるんだから。そんな声も届かないくらい高いところまで行けばいいじゃない!」

「だから、それはもう、無理なんだって。全部終わったの!」
亜矢が車いすから手を離した。

「母さんのことがバレたから?」
「…」

「それでもいるじゃない…。身内の過去なんか関係ない、黒崎ヒロタカの歌が聞きたいって人が。…ほら!」
亜矢は封筒を渡した。

「車に捨ててあったそれだって、あんたへのお礼の手紙だったのよ」
ヒロタカは封筒を開けて手紙を見た。
亜矢は、いきなり部屋の扉を開けた。
窓際のテーブルには、全国から届けられた花束や折り鶴、手紙などが飾られていた。

「ネットですごい騒ぎになってるからね。まだどんどん来るんじゃないかって」
「こんなに…」
”HIROTAKA”と真ん中に書かれた白い布には、たくさんの応援メッセージが書かれていた。

さっきの封筒の手紙を投げたヒロタカに声を荒げる亜矢。

「もういい加減、気づきなさいよ!母さんのこと一番許せてないのは自分だって!」
「気づいてるよ、そんなこと、ずっと前から!…母さんは父さんを殺したの。いくら暴力振るわれてるからってさ、殺す必要なんてあった?…」

「あんたのためよ!」
「…はあ?」

「あんたは、産んでもらった瞬間から、守られてんの!」

「…母さん、自分への暴力にはずーっと耐え続けてたのよ。でも、あの晩、ヒロは母さんが浮気してできた子どもだって被害妄想にかられて、酔った父さんは、ヒロの首絞めてきたの」

ヒロタカの首を絞める夫を、背中から包丁で刺す律子を、亜矢は見ていた。

「…なんで…なんで言ってくれなかったの?…」

「母さんが…『言わないで』って言ってたの」
「…僕が生まれてこなかったら……母さん人殺しにならなかったってこと?」

「バカ!そう考えるだろうから、母さんは『言わないで』ってずーっと言ってたの!」
「…」

「生まれてこなきゃよかったなんて、何様のつもり…」
「…」

「あんたは、産んでもらった瞬間から、守られてんの!」
「…」

「それを恥じる必要なんてどこにもない。卑屈になんてならなくて良いの!」
「…」

「それがわかんないなら……もう帰ってくんな…」
亜矢は、下を向いて泣いていた。

「くそっ…くっそー…」
ヒロタカは自分の足を殴った。

「僕はバカだよ……。帰ってくるよ…」
笑顔になる亜矢。

「帰ってくるよ…」
亜矢はうなずく。

「堂々と胸張って帰ってくる!……だからさ、母さんとお姉ちゃんのさ…いっちばん良い席用意して…」
「…」

「みんなの前で歌うから…」
亜矢は笑顔でうなずく。

「もう母さんが下向かなくて良いようにさ……僕が守るから…」
「うん……」

泣き声に気づいて、二人はドアのほうを向いた。
ドアの外で、律子が声を殺して泣いていた。

”蜘蛛の糸……ある日、天から蜘蛛の糸が降りてきた。ずっと不思議に思っていた。なぜ、僕に降りてきたのか…。ひょっとしたらあれは、僕に降りてきた糸じゃなくて、母さんの、僕たち家族への糸だったのかも知れない…。”

亜矢はドアを開け、座り込んで泣いている律子に寄り添う。
車いすで、ヒロタカもやってきた。

総括&感想

「みかんの花」「海の星」「雲の糸」、全部同じ場所で撮影された。
ヒロタカが海に落ちた防波堤は、「みかんの花」では、最後に美里が笙子を見送った場所だったし、「海の星」では、洋平がおっさんと釣りをした場所だった。

三つのドラマの中では、最後の「雲の糸」が、前の二作以上に重苦しい内容で、見ていても辛かった。
三作で共通しているのは、家族の中で父親が二十年前に亡くなること。
父親として、《家族を守る》という責務を果たせなかったが故に、三家族がみんな二十年間苦しんだ。

「みかんの花」では、父親は部下の若い女性を乗せて行楽地に向かう途中で事故死している。
不倫の関係と憶測されても仕方のない状況だった。

「海の星」では、タバコを買いに行った父親が海で亡くなった。
この人の場合は、なぜ死んだのかはわからないが…。

「雲の糸」では、酒乱でDVの末、赤ちゃんに手をかけようとして妻に殺された。
この父親が一番許せない。

父親が父親としての責任を果たさないと、残された家族は不幸になるというメッセージを感じた。
私も一家の父親として、この教訓を胸に刻もうと思う。

人は誰でも心の中に、納得できていない過去があるものだろう。
心の奥底の箱の中に封印しているものが…。
その箱を開ける鍵が見つかれば、苦しみから解放されるのだが、あきらめて自ら命を絶つ人も少なくない…。
けれど、小説やドラマの中だけは、ハッピーエンドを見たいと願うのは、きっとみんな同じではないだろうか。

面白いことに、子どもの頃にヒロタカをいじめた的場が、島に無理やり帰ってこさせたおかげで、ヒロタカは二十年間苦しんだことから決別できた。
的場の意図したことではなかったにせよ、的場のおかげでヒロタカ家族は救われた。
そう思うと、的場も良い奴に思えてくる。

望郷【みかんの花】 ネタバレあらすじ

望郷【海の星】 ネタバレあらすじ

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