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ドラマ模倣犯【後編】ネタバレあらすじ 感想批評 宮部みゆきサスペンス

   

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ドラマ「模倣犯 後篇」あらすじ&ネタバレ&感想

2016年9月22日放送のドラマ「模倣犯 後篇」より

ドラマ模倣犯 前編ネタバレあらすじはこちら

※こちらも参考にどうぞ
⇒ ドラマ模倣犯 相関図
⇒ 【映画】模倣犯 ネタバレあらすじ

売れないルポライターから、一転して注目を浴びる滋子

通称オバケビルの廃墟ホテルでロケを行うHBSテレビ。
カメラの前に立って語っているのは滋子だった。

このホテルは、バブル期に建設が始まったがバブル崩壊によって建設が中断され、そのまま放置された。
現代の四十代から二十代を、バブルにツケをまわされ格差につながれたロストジェネレーションと呼ぶ。
栗橋と高井もロストジェネレーションなので、木村庄司の遺体をここに運んだのではないか。
しかし、彼らはその途中で事故死した。
SNSの一部には、彼らに共感するメッセ―ジがあった。

その放送を見ている昭二と真一。
滋子は、「犯人の声を聞いた」ルポライターとして、雑誌「サブリナ」に載っていた。

真一は、被害者はマスコミによってプライベートをさらされているのに、栗橋や高井のプライベートを暴いていない滋子の文章に苛立っていた。
「いや、俺は嫌いじゃないよ」と滋子を擁護する昭二。

そこへ、滋子が隣の部屋からごそごそと這ってきた。
「徹夜明けご苦労さん、あんまり無理すんなよ」と声をかけ、昭二は仕事に出かけた。

滋子は、真一の批評を鋭いと言う。
確かに抽象的な表現だった。
取材していると、栗橋はともかく、高井は誘拐犯とは遠い感じがすると滋子は言う。

真一は、高井は身体的コンプレックスと知能の低さから栗橋に操られていた、不思議な点はないと言う。
「どうして踏み込まないんですか、怖いんですか?」と真一に言われ「怖くなんてないけど…」と口ごもる。

由美子に会う滋子と真一

滋子が朝食を食べようとすると、携帯に板垣編集長から電話がかかってきた。
雑誌「サブリナ」編集部に、高井の妹・由美子が滋子に会いたいと電話をかけてきたのだ。

待ち合わせの三郷のバスターミナルで滋子と真一が待っていると「前畑滋子さんですよね?」と、ピースこと網川浩一が声をかけた。
網川は、由美子の代理人で、栗橋と高井の同級生だと名乗った。

網川に促され、大きめの帽子にサングラスをかけた由美子が前に出てきた。
滋子は名刺を渡そうとするが、由美子が受け取らないので網川が代わりに受け取った。

由美子の父は高血圧悪化で入院中、母は親戚の家に避難している。
由美子は網川がホテルにかくまっていた。
「一家離散です」と言う網川に「離散したって、殺されるより全然マシです」と真一は言う。

滋子に、私の助手ですと紹介され「お手柔らかに頼むよ、塚田くん。由美ちゃんは被害者なんだから」と網川。
由美子は滋子の手をとり「助けてください、兄は無実なんです」と言った。

感情をあらわにする真一

喫茶店で由美子は兄の話をする。
高井和明には、過去の些細な事を記憶の奥から引き出す特技のようなものがあり、高井は栗橋を疑っていた。
その兄が栗橋の共犯ではありえないと言う。
暴力が嫌いで、殴るより殴られる方を選んだ。
兄は無実だと言う由美子は、そういう記事を書いてほしいと滋子に頼む。

「それ、殺された被害者家族の前でも言えますか?」と真一が言う。
死体を積んで一緒に車に乗っていたのに、無実だと言えるのかと。
「かけがえのない家族を奪われた人たちに言えますか?」と声を荒げる真一。

「兄だって私のかけがえのない家族です。兄は無実です」と由美子は言う。
その横で、網川はネットで真一のことを調べ、教師一家惨殺事件の生き残りだと知る。

全部受け入れるのが年寄りの知恵だ

有馬は、まだ目を覚まさない真智子を看病していた。

有馬が店で仕事をしている横で、木田は滋子が有馬を利用して脚光を浴びた事が許せなかった。
「それほど悪い人間じゃねえさ」と有馬は滋子をフォローする。

木田は、真智子の夫が離婚させてほしいと言ってる事にも腹を立てていた。
「どうでもいいさ、全部受け入れるのが年寄りの知恵だ」と言う有馬。

木田は有馬の背中を見つめる。
「どうでもいいよ、どうでも。けど、ちくしょー、ときどき(胸を押さえて)ここがうずく。なんでこうなった。なんで孫の鞠子まで。なんで娘の真智子まで…」
木田は「くそッ」と、滋子が載った雑誌「サブリナ」をゴミ箱に投げ捨てた。

「ごめんください」とやってきたのは、弁護士の浅井祐子(真飛聖)だった。
殺された千秋の母・日高道子が一緒に来ていた。

有馬は浅井たちを家に上げ、話を聞く。
浅井は、「被害者の会」を結成し、栗橋・高井の親族に損害賠償の集団訴訟を起こすという。
「刑事裁判が開かれない以上、民事裁判で真相究明を…」

浅井が話す後ろで、通子は仏壇の前に座ったまま動かない。
その道子を、有馬はじっと見つめる。

『被害者家族』対『加害者家族』

板垣編集長は、滋子から由美子が兄の無実を主張していることを聞き、「まだまだ事件は終わらない、臨時増刊号出しちゃう!?」と大喜びだ。
板垣は滋子に、「被害者の会」の取材を始めるよう指示する。

「『被害者家族』対『加害者家族』、残された者同士の闘い!」と滋子を盛り立てる板垣。
滋子は、塚田と由美子の言い合いに針のむしろだったと言うと、「これがライターの仕事よ~ん」と板垣は言う。

滋子は自宅で机に向かいながら、「なにこの責め地獄、そもそも何が書きたかった?」と、昔作った資料「失踪する女性たち」を引っ張りだした。
ふいにインターホンが鳴り、昭二かと思いながら立ち上がると、突然ガラス戸が開き「どうも」と言って網川が立っていた。
「差し入れです」とケーキを持ってきた。

突然、滋子の自宅に現れた網川

ケーキを「おいし~い」と言って食べる滋子に、「良かった」と笑顔を見せる網川。
「これオフレコなんだけど」と言いながら、来週、飯田橋のシークホテルで「被害者の会」の発足式があり、それを取材しろと言われて気が重いと網川にこぼす。

「『被害者家族』対『加害者家族』ですか、大変ですね」
そう言う網川を見て「網川くんの笑顔、すごくホッとする」と滋子。

「生まれつきこういう顏なんです。小学校時代のあだ名はピース。ピースマークのピースです」

「その頃の夢は物語を書く事でした」と言われ「私も小説家志望だったの」と滋子。

「なぜ人は、物語に魅せられるんでしょう?」と言われ「そこに物語、そこに人生があるからかな」と滋子。

網川は笑って「違います。現実がクソだからです」と言い、今、オリジナルの物語を創作していると話す。

「塚田真一くんは?」と聞かれ「バイト」と答える。
「食費だけは入れるって聞かないの」と言う滋子に「家族が強盗に殺されたんです、そう簡単に心を開きませんよ」と網川。

「えっ!?なんでそれを?」
「じゃあ、やっぱり本人なんだ」
「……」
「塚田くん、名字を変えてないんですね。なんでだろ、家族の事件でなんか背負ってんのかなあ」
「…網川くん、あ、あの…」
滋子が顔を上げると目の前に網川はいない。
「わっ!」と驚いたのは、網川が横にいたからだ。

「前畑さんてやり手ですね」と言いだす網川。
豆腐屋に近づいて犯人を挑発し、木村庄司が殺された。
「そのネタで連載をとって『時の人』になって、次は塚田くんの物語ですか?」
「前畑さん。滋子さん」と、どんどん近づいてくる網川に、後ずさる滋子。

「滋子さん、面白い物語を作りたいなら、作者は物語に生餌を与えないと」
「い、い、生餌!?」
「ネットに流れてました」
「ネット」
「…おじゃましました。さよなら」
滋子の呼びかけに振り向きもせず、網川は去って行った。

滋子は急いでパソコンに向かう。
「連続誘拐殺人事件 前畑滋子 木村庄司 挑発」で検索。

すると、「【悲報】例の事件で犯人を挑発して殺させた奴がいる」とあり、滋子が「男も殺せ」と挑発したと。
滋子も殺人犯だから「捜せ」「晒しまくれ」の言葉が飛び交っている。

そのころ、網川はゆっくりと前畑鉄工所の重い扉を閉めた。

突然の雷鳴に悲鳴を上げた滋子は「どうしよう」と思いつめていた。

前畑滋子は殺人ほう助

警察の記者会見。
神埼警部と武上刑事が並んでいる。
栗橋のマンションで発見された写真から、鞠子、千秋、木村ら合わせて被害者は十人だと神埼が報告。

一人の女性記者が立ち上がり、木村殺害の要因はサブリナの前畑滋子だとネットで流れていて「事実なら殺人ほう助ですよね!?」と言う。
それに対し武上は「たとえ事実でも、殺人ほう助にはあたりません」と答える。

神埼は歩きながら武上に話しかける。
マスコミは共食いを始めた。
加害者が死んだ今、誰かに責任を負わせないと世論は収まらないと。

「それが全部、前畑滋子に向かっています」と武上は言う。

「被害者遺族の会」発足式の会場

一週間後・シークホテル。午後一時。
ホテル玄関前には、「集団訴訟団体 発足式 被害者遺族の会」の看板があった。
滋子と真一は看板の前で止まる。

会場の正面に、弁護士浅井と助手の薮田がいる。
被害者家族の中に、有馬と道子の姿もあった。

「着手金はもう払われました?」と道子に言われ「着手金?」と有馬が聞き返す。
一家族、着手金が百万円だった。

浅井は立ち上がり「裁判にはお金がかかります。でも勝ったあかつきには、何倍もの賠償金がお手元に返りますから…」

滋子は真一を会場の外に待たせて、扉を開けて中に入った。
「突然すみません」と言って、深々と頭を下げる。

「サブリナの前畑滋子と申します」と言うと、会場がざわめき始める。
走って前のほうに立ち、「皆さんこれは、着手金詐欺です」と言うと、助手の薮田が飛んできた。

滋子は、浅井弁護士の取材のために日弁連にコンタクトをとった。
「浅井祐子という弁護士は、日弁連には存在しません!」
会場がざわめく。
「調べたら彼女、弁護士資格すらありません。これは、着手金詐欺です!口車に乗らないでください」

すると木村の妻・えりが立ち上がった。
「前畑滋子、あんたのおかげで主人は、木村は…」

滋子は男二人に腕を抱えられながら「詐欺です!詐欺なんです!」と叫ぶ。
有馬が「あなた、女性に乱暴、やめなさい。やめなさい!」

そこへエレベーターが開き、真一の横を通って由美子が会場の中に入って来た。
「みなさん!私は、高井、和明の、妹の、高井由美子です!」
会場がざわめく。
「兄は無実なんです!」

道子が声をあげる。
「妹!よくもここに、よくも…」
道子はプリントで由美子をたたきながら「私の娘、千秋を殺しといて、よくもぬけぬけと…」

滋子は由美子を外に出そうとする。

「お前の兄貴は腕を斬った、お前の腕も斬ってやろうか」と男が言う。
有馬は「ばかやろう、兄貴じゃなくて妹だ」と止めようとするが、飛ばされてしまう。
見ていた真一が止めに入るが、もみあって壁にぶつかり、頭から血を流して倒れてしまった。

全部君が引き受けてくれた

真一は救急車に乗せられ、有馬も共に病院に向かう。
「君、塚田くん、前畑さんの助手だそうだが…」と有馬が声をかける。
「僕も犯罪の被害者家族で、去年、強盗に家族を殺されて、一人ぼっちになりました…」
「…」
「さっき、木村さんの息子さんたちが、高井由美子の腕を折ろうとした時、『そうだ、そいつを滅茶苦茶にしてやれ』って。だって、犯人の妹だから」
「…」
「でも、有馬さんが『手荒なマネはするな』って言った時、一瞬でもそう思った自分に、僕、ぞっとして…」

「誰もケガはないですか」と有馬に聞く。
「ああ、誰もケガはない、君だけだ。あんとき、君が全部、我々の悲しみや怒りを、全部君が引き受けてくれた…」
有馬は黙って真一の肩をたたく。

由美子と話す滋子

ホテルの喫茶ルームで話をする滋子と由美子。
由美子は、兄の事を小さい時から恥ずかしいと思っていた。
「でももう、兄を恥ずかしがらないって決めたんです」
由美子が会場に乱入したのは、「兄に償いたくて」だった。

網川が由美子の隣に座った。
滋子は苛立った口調で「網川くん、今日の事オフレコだって言ったわよね」

「滋子さん、今週号のサブリナに由美ちゃんの記事、一文字もありませんでしたけど」
「あっ…そ、それは…」
もっと深く取材して、警察発表を覆せる根拠が見つかったら書くと答える。

「その頃には世間は、この事件を忘れてますよ。カズの名誉は永遠に回復できない」
網川は立ち上がり、帰ろうと由美子に言う。

「だからって、こんな事したら、被害者をまた傷つける事になるでしょう!?」
「だったら誰にも触られないように、シーツで包んでリボンをかけて、山の中に埋めればいい」

滋子は網川を見つめながら立ち上がって「どういう意味!?」

「比喩です…。行こう」
網川と由美子は去って行った。

歩道に立っている由美子と網川。
由美子は「すみませんでした」と網川に頭を下げる。

網川は腰をかがめて由美子の顔を覗き込み「好きだ」と言う。
驚いて見つめる由美子を抱きしめる網川。

「俺はあんたの連載、ずっと読んでんだ!」

滋子は車を飛ばして病院に着いた。
有馬を見つけて廊下で正座をし「ものすごく遅くなりましたが、ウソを言って有馬さんに近づいた事と、それからあの、さっきの騒動、すべて私の責任です。本当に申し訳ございませんでした」と頭を下げる。

有馬は滋子の手をとって立たせる。
真一のケガはたいした事はないが、頭を打ったので念のため一晩入院して、様子を見たほうがいいと医者が言っていると伝えた。

「事情は本人から聞きました。真一くんは良い子だ。前畑さん、あんたもその、自分で思ってるほど悪人じゃない」
「有馬さん…」

「今夜は俺が真一くんに付き添う、あんたは自分の仕事に戻りなさい」
「あ、いえ…、私もう、連載を降りようかと…」

有馬は腰かけていた椅子から立ち上がった。
「そもそも才能ないんです。こんな大事件、私じゃ無理なんです」

「俺はあんたの連載、ずっと読んでんだ!」
「…」
「俺たち家族は、大事な人間を無残に殺された理由が知りたくて、真相を知りたくて、そのために生きてる」
「…」
「いや、他は知らんが、俺は、そのためだけに生きてる」
「…」
「まあ、所詮あんたらマスコミには…他人事かっ!」
そう吐き捨てて、有馬はその場を去った。
滋子は一人、その場に立ち尽くした。

鳴り止まない嫌がらせの電話

滋子はパソコンに向かっていた。
「高井和明は、本当に犯人なのか?~このままでは終われない、連続誘拐殺人事件の謎~」と題して、由美子の証言を書き始める。

一人でビールを飲んでいた昭二は、滋子に声をかける
「なあ、滋ちゃん。やっぱ俺が、真一くんに付き添おうか?」
聞えていないのか、滋子は無言で文字を打ち込んでいた。
外は雨が降っている。

外は明るくなり、雨は止んでいた。
パソコンを開いたまま、滋子は机で寝ている。

「滋ちゃん!」と言って昭二が滋子を起こす。
「おはよう」と言う滋子に「もう昼すぎだよ」と言う。

「これ見て」と言って、昭二はタブレットを見せた。
日刊ジャパンの記事で、「一人勝ちルポライター前畑滋子、新手に出る」との見出し。
滋子が由美子を煽って被害者の会に乱入させたと。
「雑誌の売り上げを伸ばすために、被害者家族はおろか、加害者家族まで利用する前畑滋子は、実は木村庄司殺害の遠からぬ原因を作った事を、読者はご存知だろうか」と書かれている。

心配する昭二に、「でたらめよ」と滋子は言う。
すると電話が鳴り、昭二が出ると「前畑滋子、恥を知れ!」と言って切れた。
次から次へと電話やFAXで嫌がらせが続く。

「どうしよう、昭ちゃん!?」
「個人情報が洩れてる。親父んとこに避難しよう」

すると滋子の携帯に着信が。
「出るな!」と言う昭二の言葉も聞かず、滋子は電話に出た。

「出た!ほんとに?前畑滋子、ガチ最低!死んだら?ってか死ね!ははは」
中学生くらいの男子が数人で電話をかけてきたのだ。
昭二は電話を切り「相手にするな。もう連載なんか止めちまえ!」と言う。

滋子は首を振る。
「滋ちゃん!」

「連載は、絶対に止めない!い、命がけで書かなきゃ…。中途半端じゃだめなの!」
「俺と夫婦でいる事がそんなに中途半端か!?」

「だ、誰もそんな事…」
「言ってなくたって思ってたんだろ。だから殺人事件なんかにノコノコと首突っ込んだんだ!」

「…ノコノコ!?…ノコノコって何よ!」

栗橋を調べる滋子

樋口めぐみは、座ってスマホでネットを見ていた。
被害者家族の会発足式会場での騒ぎの画像が、何枚もアップされている。

滋子は栗橋のことを、小学校時代の先生に聞いている。
栗橋は問題を抱えていた事。
赤ん坊の頃に亡くなった姉が栗橋には見え、ずっと怯えていた事。
「学校では治療を受けさせようとしなかったのか」と尋ねる。

両親が無関心だった。
「それに、四年生になったらその妄想も、ぴたりと収まったので」
「四年生で!?四年生の時に何かあったんでしょうか?」

滋子は、喫茶店で働く同級生に四年生の時の事を聞く。
「しつこいなあんたも。四年生と言えば、転校性が来たぐらいだよ。金持ちの坊ちゃんで、ここら辺じゃあちょっと珍しくて、んでヒロミが夢中になって…」
「転校生に栗橋浩美が夢中に?」

「うん、名前なんだっけなあ?金持ちなんだけど、影がうっすい奴でさ、あだ名がね、ピースだ。ピースマークのピース」
「ピース?」

「そう、ピースが転校してきて、ヒロミはカズと遊ばなくなった」
「…」

「ね、こんなの記事になんの?ははは」

図書館で働く同級生に話を聞く。

「ピース、覚えています。中学二年の時、学校の図書室でヒロミがカズを絞め殺しかけた事があって…。あとで、ピースがヒロミをけしかけたって噂が広まって…。ピースはヒロミを、なんていうか、操っていたから」
「ピース…。網川浩一…」
滋子は網川の事を思い出していた。

「…オフレコならお答えします」

滋子は網川を喫茶店に呼び出し、栗橋との関係について話を聞いていた。

「小学校四年から中学時代にかけて、あなたは栗橋浩美の姉への妄想を利用して、彼をコントロールしていた。その関係は、大人になってからも続いていましたか?」
「…」

「網川くん、あなたが生餌を与えて育てている物語って何?」
「…オフレコならお答えします」

滋子は一瞬考え、ボイスレコーダーのスイッチを切った。

網川は「すべてここに」と言って、カバンから本をとりだして滋子の前に置いた。
「明日発売です」

滋子は本を手にとった。
「もう一つの殺人 連続誘拐殺人事件主犯は生きている 真犯人は第三の人物X ルポライター網川浩一」と表紙に書かれている。
「真犯人は第三の人物!?著書、網川、浩一!?」

「要約すると、真犯人Xは栗橋浩美を利用して連続殺人を起こし、カズに罪を着せて殺した。あれは事故ではなく、最初から計画された殺人。真犯人X、もう一つの殺人だった。トランクから木村庄司の遺体が飛び出すのも計算済み。オバケビルより何十倍も面白い、遺体発見の舞台」
「舞台!?…」

「そうだ、サインしてあげましょう」
網川は本をとり、カバンからペンを探す。

「いつから書いてたの?一週間やそこらで書ける分量じゃない…」
網川は本にサインをしながら話す。

「あなたみたいな雑魚ライターの空想より、僕の物語がぜんぜん大きいんです」
本を閉じて網川は言う。

「本当の悪の物語ですから」
「悪…」

網川が語る悪とは?

「そう、悪。悪とは何か?理不尽に理由も無く、善良な人間の頭の上に、突然打ち下される肉体的・精神的な暴力…」
網川の口もとはほころび、目は爛々としている。
いきなり滋子の目の前で両手を叩いたので、滋子は驚いて跳びあがってしまう。

「打ち下ろされた人間が、何故こんな目に遭うのかわからずに苦しむこと…」
網川は席を立ち、対面に座った滋子の横に座る。

「それが悪…。理由がないから苦しむ、理解できないから苦しむ…。その魅力に観客が引き込まれる」
迫ってくる網川に、滋子はたじろぎながらも身動きできない。
「魅力!?魅力って…」

「観客は考える。なぜ、どうして、真相は?観客は探し、苦悩し、知りたがって悶絶し…、やがてね、あ、ああ、そうか、俺だけは私だけは理解したぞ、謎を解いたぞと得意気になる…」
言葉が止まった網川は、ゆっくりと滋子の顔を見る。

「理解とは、打ち下ろす側に自分を置く事なんですよ。滋子さん」
「それ…」
網川は、目を大きく見開きながら言葉を続ける。

「打ち下ろす側に観客が次々と回る。そしてね、誰かの頭に、今度は彼らが…」
網川がパン!という音を立てて両手を合わせたので、再び滋子は驚いた。

「打ち下ろす!」
興奮して声が大きくなる網川。

「皆があちこちで、相手かまわず打ち下ろす。圧倒的な暴力を。理解できない頭の悪い連中に、鼻高々と打ち下ろす、はっはっは」
興奮して笑いが出てくる網川に恐怖を感じる滋子。
滋子に向かって網川は言った。

「あなたもさっそく打ち下ろされましたね」
「…」

「シークホテルの乱闘騒ぎ…」
「…」

「日刊ジャパンのサイトのスクープ…」
「…」

「この意味、わかります?」
滋子は音を立てて後ずさりする。

「リークしたの…あなたね!」
「はい」
網川は大きくうなずいた。

「理由がない。それが悪、それが僕の物語!」

「リークだけじゃない、全部…。大川公園の腕から…、全部…」
網川の笑顔が怖さを引き立てる。

「あなたが栗橋浩美を使って…全部ー!!」
「前畑さん!!」
網川は大きな声を出した。

「まだ大川公園が、僕の物語のスタートだと思ってる?」
目がさらに見開かれる網川。

「……大川公園より、前から…!?」
滋子は肩で息をしている。

「はい」
網川は即答した。

「……いつから、こんなこと…はあっ…どうしてこんなこと…」

網川は「ふっふっふ」と小さく含み笑いをし、だんだんと堪えきれない笑いになっていく。

「だから言ってるでしょ!」
網川は口を大きく広げて声を荒げる。

「理由がない。それが悪、それが僕の物語!」
滋子は、キッと網川を凝視する。

「あなたは、最高の観客……いや、登場人物です」
はっはっはっはっと高笑いする網川。

中止したら私たちの負けだ!

滋子は板垣編集長の机に、網川の本を叩きつけた。
「真犯人Xこそ、このルポを書いた網川浩一なんです!」
その言葉に、編集部の誰もが滋子の方を向いた。

「ちょっと待って、整理させて。真犯人は他にいると主張している人間が、真犯人!?」
板垣の問いかけに、滋子は大きくうなずく。

「あー、ありえない!」
板垣は席を立って歩きだす。
「編集長!」

「第一に動機は?第二に証拠は?網川に言われて録音止めたなんて、バカ正直にもほどがある!」
「自分でも嫌気が差します」

「第三に、これは勘だけど、この本は売れるわ!」
「…」

「前畑滋子が悪役になった今、世間が求めている新たな正義のヒーロー、白馬の王子様・網川浩一」
「でも、出版日から逆算すると、網川浩一がこの本を書き始めたのは、栗橋・高井が事故する前です。網川には脚本があったんです。こんな風に事件を展開させて、こんな風に予想を裏切って、こんな風に濡れ衣を着せて、この本でドカンと覆すっていう脚本が!」

「滋ちゃん、正直、理解できない」
「それでいいんです編集長。理解しちゃだめです!」

「ああッ!?」
「ああもう!とにかく、私たちは、この網川浩一の自作自演を暴かないと!」

「滋ちゃん、サブリナには連日、滋ちゃんクビにしろ、謝罪させろっていう脅迫メールや電話が入ってる」
「ご迷惑おかけして申し訳ありません。でも私はやめません!」

「あたりまえよ。その筆で暴け!中傷に逃げずに、スクープモノにしろ!中止したら私たちの負けだ!」
滋子は大きく「はい」とうなずいた。

「僕が決めたからだよ」

捜査一課で武上が話をしている。
科捜研によると、栗橋が持っていた写真はすべて同じ場所。
モニターに映し出される。
古い造りの一軒家、窓に一部二重窓あり、ゆえに、冬場の気温は氷点下に下がる土地。
東京より北側山間部、柱の形状は別荘特有の物、ゆえに、山間部の別荘の可能性が濃厚。
所有者はこの建物に全く愛着が無い。
愛着よりむしろ、強い憎しみを感じているから、監禁と殺害の場所に選んだのではないかとの分析。

別荘にいるピースとヒロミ。
顏を白く塗り、口紅を塗ったヒロミは、両脇に縛られた女性を抱え、他にも幾人もの女性が縛られ並ばされている。

ピースは「どれにしようかな?」と言って、一人の女性を指さした。
後ろからヒロミがその女性を押さえつける。
ゆっくり近づくピース。

「今まで一度も会った事ないのに、なんでなの?逃がして!」
そう叫ぶ女性に後ろから「ピースが決めたからさ」とヒロミが言う。

ピースはかがんで、女性の顔に自分の顔を近づける。
「僕が決めたからだよ」
ピースがそう言うと、ヒロミは後ろから女性の首を絞めた。

網川のインタビュー

別荘のテレビに、網川が話している様子が映し出されている。

「真犯人Xは栗橋浩美くんを操り、浩美くんを助けようとした高井和明くんを、濡れ衣を着せて殺したんですよ」
そう話す網川の前のテーブルには、花束と著作の本が立てかけられている。

インタビュアーが、木村庄司の持ち物に高井の指紋がついていた事を指摘する。
「Xの策略です。Xはヒロミとカズを、警察と世間の皆さんに生餌として差し出したんです。その証拠に、腹を空かせた皆さんは、すごい勢いで食いついた」
「…」

「Xには狂おしいほどの作家性があります。小説家はペンで物語を書く。Xは犯罪で物語を書き、皆さんを観客に見立てて楽しむ事を要求している。Xはこの瞬間にも、次の展開を考えている事でしょう」

「居場所がないんだったら、うち来るか?」

有馬豆腐店。
有馬は真一に、豆腐の作り方を教えていた。

「前畑さん、ものすごいバッシングに遭っています。朝も昼も真夜中も、家や鉄工所、鉄工所の関係先まで嫌がらせの電話がかかってるらしくて…」

昭二は、「真犯人が分かってるなら、早く書いて終わらせろ。誰か言ってみろ、俺が書いてやるから」と滋子に言う。
パソコンを取り上げようとする昭二を制し、「やめてよ、そんな簡単な仕事じゃないの」と滋子は言う。

前畑滋子の身内には仕事をやるなと、取引先が三件も縁切りしてきた。

「親父やお袋、兄貴夫婦が大迷惑してるのがわかってんのか!?」
「だったら、私を縁切りすればいいじゃない!」

「…」
「真犯人の名前言っても、証拠がなくちゃ、誰も信じないと思う。昭ちゃんだって絶対信じない!」
「だから言えよ、真犯人!」

その時、網川のインタビューがテレビに流れていて、洗い物をしていた真一はテレビを見た。

「正直、複雑な心境です。それより、皆さんにお願いがあります。前畑滋子さんをバッシングするのはやめてください。彼女は十分、社会的制裁を受けています」
その言葉を聞いていた滋子は、肩で息をしながら「絶対に言わない!」と強く言った。

「だったらもう、うちの車使うな!」と昭二は言う。
真一は気まずい顔をしている。
「…どんな意地悪だよ!」と滋子。

「居場所がないんだったら、うち来るか?」と有馬は真一に言う。

「昨日俺も前畑さんに会った。真智子の部屋、娘の見舞いに来てくれてな」
滋子は、連載を続けることを言いにきたのだ。

「前畑さんも、君がどっかに避難してるほうが安心だろ?」
「…」
「君さえ良ければ、うちはいつでも…」

「有馬さん、お世話になっていいですか?」
「えっ!?そう?来るか?」

「はい」

豆腐が固まってきた。
「温度、湿度、にがり寄せ、条件はいつも違う。けど大事なのは、毎日同じ品質の豆腐作る事だ。毎日同じ、それが大事だ」
「毎日…同じ」

「うん。毎日、同じ…」

オバケビルに来ていた滋子

滋子は、山の中のオバケビルに来ていた。
「収穫なし…はっ、バスの時間、ヤバい」

滋子は急いで走り出す。
途中、大きな穴があった。
深くて大きなそこには、バラバラになったマネキンが数体横たわっていた。
「あっ、バス!」

赤井山入口のバス停のベンチに座ってパソコンを打ち込む。
雷がゴロゴロと鳴っている。
雨が振り出し、バス停のトタン屋根が音を立てる。
滋子はパソコンを閉じ、立ち上がって空を見上げる。

滋子は近くの店に入った。
レジの上を見上げると、著書を持った網川がサインをしたポスターが貼られていた。

「アイドルか!?」とつぶやく。

滋子が長テーブルの席につこうとすると「はい、いらっしゃい」とぶっきらぼうな感じのウェイトレスが水を出した。

「あの、あの人、こちらのお店、来た事あるんですか?あそこ、サイン…」
そのウェイトレスは小躍りしてポスターの近くに行き「あはー、網川くんー」と跳びあがった。

「そうそうそうそう、この間さあ、この先のオバケビルで、テレビの収録があったんだけど、そのあと、スタッフの人たちとご飯食べに来て、はっ、私、網川くんの大っファンで、サインいただけますか?って言ったら、網川くん、『…いいですよ』うーふふふ」
滋子がバスの時刻表は最新かと聞いても、ウェイトレスは別のもう一人と話に夢中。

「あっ、それにね、氷川高原に、山荘持ってんだって」
二人は笑いながら行ってしまった。

「お金持ちの息子らしいから……えっ!?」

滋子は、氷川高原について再び聞いた。

「氷川高原、昔から高級別荘地。赤井山グリーンロード沿いの、うちの店の左に行けばオバケビル、右に行けば…」

「氷川高原!」
「イエッス!」

滋子は、女子トイレの中で電話をする。

「監禁場所、オバケビルじゃなかったら、氷川高原かも知れません。氷川高原からオバケビルまで、直線距離で四キロ…目と鼻の先です。網川浩一は、氷川高原に山荘を持っているんです、編集長」
「わかった、今まだ群馬?じゃあもう、宿をとっちゃって。朝イチで氷川高原取材して。領収書?いくらでもサブリナに回しなさい。頑張ってよ、滋ちゃん」

板垣は、網川の別荘が氷川高原にあるか、部下に裏どりをさせる。
「ただし、超秘密裏にね」

「網川浩一には世論がついてます。今戦争したら、サブリナが吹っ飛びます、編集長」
「もちろんサブリナはこれまで通り、栗橋・高井犯人説で通す」

「しかし、前畑滋子は?」
「滋ちゃんには網川を追わせる。もし真犯人Xなら、本当に網川浩一なら、この大スクープは、HBSにも日刊ジャパンにも渡さない。サブリナが抜く、抜き返す!」

「でもやっぱり、真犯人Xなんていなくて、栗橋・高井が犯人でも、サブリナの主張は正しかった事になる」と板垣は付け加えた。

板垣を有馬と真一が訪ねてきた。
有馬は、網川の本を読み、納得はしていないが由美子の言い分も聞いてみたくなったと話す。

板垣は、網川に連絡したところ「明日、十五時、赤坂メルバホテルのスイートで由美子との時間を設ける」と返事があったと伝えた。
「進展があれば、必ずうちにご連絡ください…サブリナに」と言って、板垣は二人に頭を下げた。

滋子は、宿をとって泊まる事になった。

昭二は滋子に電話をかけるが、滋子は電話に出ない。

「死刑にするなって裁判官に言えよ!」

有馬と歩いていた真一は、「先に行っててください、すぐに追いつきます」と言って道をそれた。
真一の前に、樋口めぐみが現れた。

「お前と話しているヒマ、ないから」
「強気じゃん。あんたが自分ちに大金があるって言ったから、私のお父さん強盗しちゃったんだよ。あんたのせいで人殺しになっちゃったんだ!」
大声を出すめぐみに、周りにいた人は視線を向ける。

「死刑にするなって裁判官に言えよ!」

「帰れよ」
「帰る場所なんてないもん。ふふ。塚田くんみたいに逃げる場所もない。私、必死なんだから」

「俺は絶対、お前の親父を許せない。だから減刑嘆願書にサインなんてしないし、死刑は当たり前だと思う」
「あんたのせいなのに…」

「俺を責めたら、お前は楽になるのかよ。俺だって、ずっと考えて悩んで、でもやっぱり、俺のせいって言うより、お前の親父の問題だと思う」
そう言って、真一は踵を返した。

「一人にしないで…。ねえ。一人にしないでよー!」
めぐみの声は真一には届かない。

由美子と会う有馬、真一

赤坂メルバホテル。
真一は、有馬、網川、由美子が待つ部屋にやってきた。

由美子が立ち上がり、「この前は、助けてくれてありがとう」と頭を下げる。
真一が席について、「今、話を聞き終わったところだ」と有馬が話す。

有馬は由美子に向かい、言い分は理解できるが、高井が無実だという証拠がないと言う。
由美子は網川を見つめ、網川の手を握ると、網川がもう一方の手を合わせてきた。
その光景を、有馬と真一は長々と見せつけられる。

「用事があるので、僕はここで失礼します」
「浩一さん!?」

「じゃあ」
「浩一さん!」

網川は部屋を出て、その後を由美子は追いかけるが、無情にもドアは閉められてしまった。
由美子はうなだれて席に戻る。

「お嬢さん、彼とは、網川くんとは、前からのおつきあいですか?」
「いえ、兄が事故死して、騒がれて、私たち家族は親戚の家に逃げて、父が心労で入院して、でも、母は外に出られる状態じゃなくて、それで、私一人で父の病室に通っていた時、偶然、道で会ったんです」

「偶然、道で!?」
「はい、名前を呼ばれて…。浩一さんでした。すごく親切に介抱してくれました。浩一さんは、たった一人味方になってくれたんです。前畑さんの連載を教えてくれたのも浩一さんです。被害者の会の皆さんに会う勇気をくれたのも浩一さんです」

「それって…」
「私、浩一さんに救われました。不思議なんですけど、私、今、すごく幸せです…」
涙をこらえながら由美子は話していたが、こらえきれずに泣きだす。

「…お嬢さん、幸せな人は泣かないもんです」
ハンカチを渡す。

「道で偶然出会ったっていうのは、私にはどうもね…。網川くん、あんまり信用し過ぎないほうがいいよ」

突然、ドアが開いて、カメラを持った女性と男性が入って来た。
女性はカメラで連写する。

「浩一くんのこと、好きになっちゃった?」

「なに、なに、なに?」
由美子は隣の部屋に逃げる。

追いかける女性カメラマンを「やめろ」と真一が止めようとする。
男は、日刊ジャパンの城下だと名乗る。

「網川くんの努力の成果で、被害者家族の有馬さんを、ついに高井和明無罪説に傾いたという写真を撮らせていただこうかと…」
「えっ!?」
「そんなのでっち上げです。さっき下であなたたちを見ました」
由美子が出てくる。

「網川浩一は最初から、有馬さんと高井さんの写真を撮らせるために、僕たちをここに!?」
由美子は驚く。

「写真のデータ、ください」と言う真一の言葉を無視して、女性カメラマンが由美子に声をかける。

「浩一くんのこと、好きになっちゃった?」
「…」

「データは、浩一くんと相談させて」
そう言って、女性カメラマンは部屋を出ようとする。
由美子は追いかけ、カメラを取り上げる。
次々と画像を消す由美子。
その中に、その女性カメラマンと浩一がベッドで笑って映っている写真が何枚も何枚も出てくる。
必死にその画像を消す由美子を、ニヤリと笑いながら横目で見ている女性カメラマン。
真一がとりあげ、画像を全て消去した。

「オッケー。城下さん、帰りましょ」
「はい、失礼します」
そう言って、二人は部屋を出た。

有馬は思わず座り込む。
真一は由美子に話しかける。

「被害者の会の時もそうだった。日刊ジャパンのでっち上げのスクープ…。網川は、あなたを利用してます」
「真一くん!」

「あなたは、網川にマインドコントロール……」
真一の言葉が終わらないうちに、由美子は真一の頬を平手で叩いた。

「僕と別れたいってこと?」

ホテルの部屋で食事をする、網川と由美子。

「由美ちゃん、さっきから何を考えているの?」
「…帰りたい…」

「どこに?」
「商店街…うちのそば屋…増田屋…お父さん…お母さん…お兄ちゃん…帰りたい…」

「僕と別れたいってこと?」
網川は由美子を見つめたまま、赤いワインをゴクゴクと飲む。

網川は、鏡の前に立つ由美子の後ろに立っている。
「由美ちゃんを苦しめるあの女、カメラマンの名前は香西美香子。言ってごらん」
「私を苦しめるあの女、カメラマンの名前は、香西美香子」

網川は由美子の両手を持つ。
「肩幅はこれくらい…これが鼻…これが唇…」
「唇…」

鏡の中に香西美香子が映っている。
「あごの下に、白くて柔らかくて細い首がある」
「首!?」

「親指と親指を重ねて、へし折れ!へし折れ!殺せ!殺せ!殺せ!」
「嫌…、助けてー、お兄ちゃーん!」

「殺せ!へし折れー!!」
「嫌だー!こんなこと、違う!」

由美子は網川を押しのける。
床に這いつくばる由美子に近づく網川。

「だめだなあ。カズはやれたのに…」
頭を上げる由美子。

「カズにはね、好きな女性がいたんだよ。でも相手にされなくて、カズはイメージの中で彼女を殺した」
「…」

「そのあとは現実でも殺せるようになった」
「…」

「ヒロミがカズを教育したんだよ」
「…」

「カズはたくさんの人間をヒロミに操られて殺した」
「…」

「僕はそれを伏せて、君のために本を書いてあげたのに…」
「…」

「君は台無しにした…」
網川はカプセルを開ける。
中には白い薬が。

「世間とマスコミは、今度こそ君を八つ裂きにする…」
「…」

「君にはうんざりだ」
「…お兄ちゃんが殺した…私にはうんざり…」
下を向く由美子にゆっくりと近づく。
網川は由美子の前でしゃがみこみ、左手をとって薬を渡した。

「一瞬で死ねる」
「…」

「苦しくはない」
「…」

「さよなら」
「…」

「高井由美子」
そう言って、網川は手を放した。

由美子は泣きながら「さよなら…浩一さん」と言う。
そして薬を飲みこんだ。
苦しそうに絶命する由美子を、網川はじっと見ていた。

「ウソだよ、由美ちゃん。カズは誰も殺さない。殺したのは…ヒロミだ」

「ヒロミが最初に殺したのは、ヒロミの姉ちゃんの幽霊。ヒロミを教育したのは…僕だよ」

網川はゆっくりとその部屋を出た。

「俺たちもう限界だ。…別れよう」

滋子は板垣にメールを書いていた。
丸二日、網川の別荘を探したが見つからなかった。

テレビで速報が流れた。
由美子がホテルで亡くなっているのが発見されたのだ。
死因は毒物で、発作的な自殺の可能性が高いとのこと。

「自殺…」

滋子は自宅に帰ってきた。
「昭ちゃん…」

「どのツラ下げて帰ってきた、親父が倒れたってのに」
「お義父さんが!?」

「脳卒中。今、病院。意識不明で、お袋と兄貴夫婦が付き添ってる」
昭二はカバンに下着を詰め込んでいた。

「お義父さんの…袋から出したほうが良くない…」
昭二はカバンを取り上げる。

「私のせいじゃないでしょ!」
カバンをとろうとする滋子からカバンを取り返す。
「やめろ!俺がやるからいいよ!」
「…」

「倒れたのはおとといだ。携帯に何度も電話した。留守電にも入れた、メールもだ!どうして折り返してくれなかったんだ、親父や俺より、取材の方が大事か!?」
「…なに言ってんの!?昭ちゃんから電話なんか一度も…」
背負っていたリュックから電話を取り出すと、あわてて机の中から別のスマホを取り出す。
昭二からの着信ばかりだった。

「家に…」
「…私の携帯番号、外に漏れて嫌がらせの電話がひっきりなしだから、仕事にならなくて…。それであの、サブリナが新しい携帯持たせてくれて…。そっち持って取材に…」
留守電に昭二の声が入っていた。

「昭ちゃんごめん…。うっかりしてた…」
「冗談じゃねえぞー!」
昭二は大声を出す。

「大事なのは仕事の電話だけか?俺や家族は机の中か!?」
「…だから、ごめんって謝ってるでしょー!」
大声を出したあと、滋子は涙声になる。

「私だってへとへとなの…」
「それがどうした!?こっちは親父が死にかけてんだー!」

「…悪かったけど…悪かったけど…」
「俺たちもう限界だ。…別れよう」
そう言ってカバンに荷物を入れる昭二。

「なんで…!?」
「…」
「なんで今そんな事言うの?」

「お前が家の事を気にかけないのは、外のが面白いからだ」
「…」

「お前は大卒、俺は工業高校。お前は物書き、俺は鉄工所。お前は有名人、俺はしがない庶民」
「怒るよ昭ちゃん…そんな、くだらないこと…」

「俺はなあ、どんな立派な仕事してる女房よりも…。教養なくても、学歴がなくても、家族が病気の時には、つきっきりで看病してくれる、やさしい世話女房のほうが良かった…」
「…」

「親父が倒れて気がついた。今までお前の事を応援してきたのは、俺の綺麗事だ。俺はもう…俺をごまかしきれない。滋ちゃんの生き方に…合わせられない。…ごめん」
「…昭ちゃん…」
滋子は、涙をこらえて立ちあがり、カバンを持って外にでた。
振り向いた昭二は追いかけなかった。

滋子が向かったのは、有馬豆腐店だった。
店先に立っていると、中から真一が出てきた。

「前畑さん…!?」

「…来ちゃった…」

「有馬さん、なんでそんなに強くいられるんですか?」

滋子は有馬の家にあげてもらった。
有馬は鞠子の遺影の前に座っている。

「いつになったら、《人死に》が終わるのか…」
有馬の言葉に、滋子は何も言えない。

「昨日、網川と由美子さんに、メルバホテルで会いました」
真一が口を開く。

「由美子さんはどんな様子だった?」
「…人形みたいになってました。網川は、由美子さんをもて遊んでるみたいな…」

「真犯人Xは……網川浩一なの…」
有馬は滋子を見たあと、ぐっと拳を握った。

「大豆、仕込んで来る」
そう言って、有馬は立ち上がった。

「前畑さん、あなた、しばらくここにいていいから。困った時はお互い様だ」
「有馬さん、なんでそんなに強くいられるんですか?」

「強い、俺が?」
滋子は立ち上がった。

「教えてください!このままじゃ私、網川のどす黒い物語に飲み込まれてしまう…」
「…ふう…」

「怒り、恐怖、憎しみ、得体の知れないどす黒いものに、あいつの物語に飲み込まれてしまいそうです」

「前畑さん、俺は強くなんかない。けど、人にはそれぞれ、自分の心の守り方ってのがあるように思う」
「自分の心の守り方?」

「そいつは、生活だと思う。日常だ。歯を食いしばっても、日常を繰り返す。はらわたが煮えくりかえっても、足元が崩れ落ちても、日常を繰り返す。俺は豆腐職人だから、豆腐を作るのが日常だ」
「…」

「真っ白い豆腐を、作る。毎日、毎日。そして、店を開ける。それだけだ」
「…」

「有馬さん、僕も、大事な仕込み、手伝わせてください」
有馬は、黙って真一の肩を叩いた。

「私の、日常は…」
そういう滋子の前に立ち、だまって二度頷いて、有馬は店に向かった。

「書きます。死に物狂いで書いて、網川の物語を…この《人死に》を…終わらせます」
滋子は、鞠子の遺影に誓った。

網川浩一の過去

朋憂出版社、サブリナ編集部。
板垣が滋子に説明する。

網川の別荘が氷川高原にあるか裏どりしていたら、妙な事実が出てきた。
網川は千葉県市川市の出身。
父は網川啓介、母は聖美。一人っ子。
夫婦は、浩一が生まれた翌年に離婚。

「離婚!?網川が生まれた翌年に?」
「父親がね、この赤ん坊は自分の子どもじゃないって言いだした。母の聖美は以前、世田谷区の資産家・天谷英雄の愛人だったのよ。それがバレた。離婚成立後、聖美は赤ん坊の網川を連れて、天谷の屋敷に押しかけた。聖美は当時二十三歳。天谷は当時、八十歳。天谷と聖美はあっという間に愛人関係に戻った。天谷は網川を認知して養子縁組をしようとした。けど、本妻と子どもたちが大反対。そりゃそうよ、財産の分け前が減るんだもん。本妻の画策で、網川と天谷は親子かどうか、DNA鑑定が強引に行われた。結果、網川は、天谷の子どもでもなかった。網川浩一は、天谷の屋敷で、誰の子どもでもない厄介者として十年間過ごした。十歳、網川が小学校四年生になった時、聖美は練馬区のマンションに引っ越した」

滋子は、江崎不動産社長(森本レオ)を訪ねた。

「そうなんですよ、聖美はんとなあ、練馬のマンションに追い払うたんは…本妻さんなんですわ。けどまあ、聖美はんもなあ、転んでもただでは起きはらん方で、天谷家の遺産相続を放棄する代わりに、生前贈与の形で、株券やら別荘やらをしっかり受けとらはったんですわ」
「別荘?」

「はい」
「もしかしてその別荘あの、氷川高原の!?」

「そうそうそう、群馬の。氷川高原の。で聖美はんがその別荘、えらい気にいらはって、すぐ、住民票もそっちへ移してさっさと引っ越さはったんですわ。それも自分、一人で」
「一人で?」

「はい」
「じゃあ、子どもは?」

「彼だけ置くって。練馬のマンションに放置ですわ。今で言うたら完全な…育児放棄ですわなあ」
「どんな過去があっても、言い訳にはなりません…」

「はっ!?」

滋子は板垣に、別荘の名義は網川浩一ではなく、天谷聖美だったと報告。

「網川で探しても見つからなかったはずです。別荘の住所も入手しました。これから氷川高原で裏をとってきます」

氷川高原の別荘

滋子は氷川高原駅を降り、「氷川高原グリーンヒル」に着いた。
森の中を歩いていると、つまづいて転んでしまった。

辺りはすっかり暗くなり、懐中電灯を照らしながら進む。
ようやく、別荘が見えた。

外から中を見てみる。
鍵がかかっていてドアは開かない。

滋子が窓を破ろうとした瞬間、後から腕をつかまれた。
「キャー!」っと、思わず悲鳴をあげる。

「前畑…」と声を出したのは武上刑事だった。
後ろにいた篠崎が、「前畑さん、捜査中ですので静かに」と声をかける。

「どうしてここに?」
滋子と武上の声がシンクロした。

「そうだ。大川公園の事件の…前だ」

車の中で、武上は滋子の話を聞いた。

「なるほど…。たった一人でやるもんだ」
「武上さんは、どうしてここに?」

「…オフレコだぞ」
「ガミさん…」と篠崎があきれる。

「監禁場所の写真を、科捜研で分析した。東京以北の山間部のロッジ。おそらく、別荘だと見当つけた。栗橋・高井が事故死した赤井山グリーンロードの東側には、高級別荘地の氷川高原がある。事故の前日、高井の車が氷川高原方面に向かった事が、Nシステムの結果わかった」
「捜査は続いていたんですね」

「犯人捜査は終わった。捜査本部も縮小されたが、警察にも良心と意地がある」
武上の上着の下から、拳銃が見えた。
「…はい」

「だが、栗橋・高井と氷川高原には接点がなかった。奴らと氷川高原とを結ぶ第三の人物がいる。氷川高原の住人を、洗った。すると…」
「網川浩一の母親の天谷聖美の別荘があった」

「そうだ。網川が、栗橋・高井と氷川高原の接点だとしたら…。即座に別荘の確認に向かった。すると、怪しい女が、窓ガラスをぶち割って侵入しようとしていた」
「…」

「間に合って良かった」
「…」

「我々は今、網川が関与した証拠を集めてます。まあ、状況証拠ばかりだけど…。積み上げればきっと、家宅捜索の礼状はとれます。そうですよね、ガミさん」
篠崎は持っていたパトライトをつけてしまった。
「おい!」
「すいません」

「あの別荘にガサ入れ出来れば、必ず物証も出る。だが、網川に気づかれてはまずい。なので、この件は一切、書かないでもらいたい。書くどころか、誰にも言うな」
「…」

「嫌なら、住居侵入の現行犯であんたを逮捕する」
「…見損なわないでください」

「前畑さん…」
「死んでも書きません!」

「…」
「網川浩一を逮捕出来るなら、この《人死に》を終わらせる事が出来るなら、高井由美子さんや被害者の仇を討てるなら…。少しでも償えるなら、殺されたって誰にも言いません」

「…」
「ですが、あと一つだけ…」
「ですから…」

「網川は私に、一連の事件は、あいつの真っ黒な物語は、大川公園の腕のもっと前から始まっていると匂わせました」
「…」

「武上さん、警察の見立ては…」
「…」

武上は車を降りた。
滋子も続いて車を降りる。
武上はタバコをくわえた。

「栗橋浩美の女、二年前、岸田明美という女性が行方不明になった。彼女は当時、心霊スポットのオバケビルに興味を持っていた事がわかった」
「オバケビルに…」

「そこで敷地内を、徹底的に調べた。前庭の廃材投棄の穴、その底に、女ものの片方のヒールを発見した。DNAは、岸田明美と一致。栗橋浩美と網川浩一は…」
「二年前、岸田明美さんから、連続殺人を始めた…」

「そうだ。大川公園の事件の…前だ」

「生放送で事件の総括ですか?」

HBSテレビの会議室で、浅川ディレクター、増岡プロデューサーと話す網川。
網川が、生放送で事件の総括をしたいと提案する。

「生放送で事件の総括ですか?」
「ええ、サブリナの前畑滋子さんをゲストに」
そう言って、網川は滋子が表紙の雑誌「サブリナ」を二人の前に置いた。

「途中のCMはなし。サッカーの中継方式です。カズは犯人か無実か、前畑さんと僕のサドンデスだよって」
「論客二人の一騎打ち!」

「いや、でも、世論は今や、圧倒的に網川さんです。高井由美子さんの自殺も同情を集めている。そこに、いまだに栗橋・高井共犯説を唱えてバッシングされている前畑滋子が出演するとは、ちょっと思えません」
「だよな~」

「出ますよ」
「あ!?」

「前畑さんに伝えてください。網川浩一は次回作を準備している。それはある少年の物語。家族が強盗に皆殺しにされた物語。世間の同情は少年に集まった。でも真相は?事件の責任を負うべきは少年のほうで、悲劇の主人公は強盗犯の一人娘。実はね、もう取材も始めてます。これもまた、たくさん死にます」
「…」

「前畑さんが出演して僕を論破しない限り、次の物語もたくさん売れるでしょう。そう伝えてください」
網川は嬉しそうに話す。

「俺の心、あんたに託す」

サブリナ編集部。
板垣編集長のデスクの前に立って電話をしている滋子。
板垣は「滋ちゃん」と言って首を横に振る。

「わかりました。出演すると網川さんに伝えてください」
そう言って、滋子は受話器を置いた。

「サドンデス…」

有馬の家で、鞠子の遺影が飾られた仏壇に線香をともす滋子。

「なんで出るんですか?網川の狙いは滋子さんの事をテレビで袋叩きにする事です。今度は滋子さんの事を、由美子さんみたいに追いつめるつもりであいつは…」
「塚田くん、おおげさね。それに私は、これ以上失うものは何にもない」

「公開処刑です。血祭りにされます」
有馬は黙っている。

「有馬さん、放送後はここにも脅迫電話が殺到すると思うので、今日から私、サブリナの編集部で寝泊まりします」
有馬は黙ってうなずく。

「本当に、お世話になりました。有馬さんのお陰で私、一回り大きくなった気がします。…『自分で言うか』ですけど」
「滋子さん!」

滋子は立ち上がり、真一と有馬も立ち上がる。

「何か、考えがあっての事か?」
有馬は滋子に尋ねた。
滋子は一瞬考えたあと、言葉を出す。

「いえ、売られたケンカを買いにいくだけです」
有馬は何度もうなずく。

「俺の心、あんたに託す」
「…」

「ケンカなら、ただやられるだけじゃ許さねえぞ。火だるまなっても、網川みたいな奴に負けるんじゃねえ。日本中が敵に回っても、俺たち二人はあんたの味方だ」
「…ふっ、有馬さん…」

「終わったら、胸張って帰って来い。ここへ。いいな」
「…はい」

「何をする気だ、前畑?」

捜査一課。
神埼警部が新聞を叩きつけ、「ふざけんなよ」と吐き捨てる。
武上がその新聞を手にとって見る。
午前十時のテレビ欄に「緊急生特番。激論!網川浩一VS前畑滋子 真犯人は存在する?高井和明は無実なのか?連続誘拐殺人事件の真相はこれだ!事件を振り返る…巻き込まれた被害者の人々」と書いてある。

「ガミさん、前畑大丈夫だって言ったよな!?生放送で網川と対決だとよ。マスコミは大嘘つき野郎ばっかりだ!」
神埼警部は憤る。

「確認します」と言って、武上は電話をかける。

「前畑か?警視庁の武上だ。今どこにいる?」
「HBS局の控室です。武上さんごめんなさい。これにはいろいろ事情が…。もちろんです。捜査の事は一切しゃべりません。約束は絶対守ります」

「しゃべらないのに何で出る?ボロボロにされるぞ。社会的に抹殺される。あんたそれでも良いのか?」
「はい。火だるまになる覚悟です。でも、どうせ抹殺されるなら、網川に一矢むくいてやろうと思います。『窮鼠猫を噛む』です」

「何をする気だ、前畑?」
「約束は守ります。殺されたってしゃべりません」
そう言って、滋子は電話を切った。

「女は怖い」とつぶやく武上。

「神埼警部。前畑を見殺しには出来ません。氷川高原の別荘のガサ状を請求します」
「今の段階じゃ五分五分だなあ。…わかった。佐々木、ガサ状の書類、用意してくれ」
「はい!」
「秋津と篠崎は、群馬で待機。ガサ状が出たら、群馬県警と合同でガサ入れだ」
「はい!」
「ガミさんは、俺と一緒にHBSへ。不測の事態へ備えよう」
「恩に着ます、神埼警部」

控室でうつむいている滋子に声がかかった。

「前畑さん、スタジオまでお願いします」
「……はい」

滋子はゆっくりとスタジオまで歩いていく。
真暗なスタジオに照明が入り、滋子は思わず顔を手で覆った。
真暗なスタジオで、滋子にスポットライトが当たっている。

正面には、事件の関係者の顔写真が飾られていた。
息を荒くしながら佇む滋子。

すると、右手のドアが開き、網川浩一のシルエットが見えた。
網川は目を合わせる事もなく歩いていく。

「緊急生特番 激論!網川浩一VS前畑滋子」

「では、本番まいります。十秒前、八、七、六、五秒前、四、三、二、一、スタジオ!」

音楽と共に、「緊急生特番 激論!網川浩一VS前畑滋子」のタイトルが映し出される。

「HBS緊急生特番、真犯人Xは存在するか?高井和明は無実か?本日は、網川浩一さんと前畑滋子さんの論客お二人に、サドンデス方式で持論を戦わせていただきます」
そして、網川にカメラが回る。
網川は一礼して「網川浩一です」と挨拶する。
続いて滋子にカメラが回り、「前畑滋子です」と弱々しい声で挨拶する。

街の大型ディスプレーで生放送が流され、多くの通行人が見ている。

「じゃあ前畑さんは、木村庄司さんが犯人たちの手にかかったのは、自分の責任だと認めるんですね?」
滋子は一瞬間を置き「はい…私の責任です」と答える。

「由美ちゃんを使って被害者家族の会を掻き回し、結果的に由美ちゃんが世間に直接訴える機会を奪った…これは認めますか?」
滋子は驚いた表情で反論する。
「それは違います。認めません!」

街頭の男が「ウソつけ!日刊ジャパン見たぞ!」と言う。

「でも、日刊ジャパンにスクープされたじゃないですか?写真も載ってる」
「…」

「前畑さん、はっきり言って由美ちゃんは、あなたに殺されたようなもんなんですよ」
滋子の表情が明らかに困っている。

「由美ちゃんはあなたを頼ってた。でもあなたは、カズが無実だって事…これまで一度でも記事にした事ありますか?」
答えられない滋子。

「ないじゃないですか……。僕はくやしい」
滋子は下を向いたまま。
網川は滋子を見つめる。

「なんとか言ってください」
滋子は言葉を絞り出す。

「由美子さんの死には…責任を感じています…」

自宅でテレビを見ている有馬と真一。

「ですよね。前畑さん。あなたの良心にお尋ねしたい。今もあなたは、カズが犯人だと思っていますか?」
「…それは…警察の判断でする事ですから」

「警察!?はっはっは。サブリナは警察の広報誌ですか?あなたにプライドはないんですか?」

自宅でテレビを見ていた昭二は、網川の言葉に立ち上がり、肩を震わせる

「正義はないんですか?あなたは人の不幸を書きたてて、お金になればそれでいいんですか?」

昭二はテレビに向かい「バカヤロー!」と叫ぶ。
「言ってやれ!言い返せ、滋ちゃん!」

「どう思ってるんです?」
網川は自分の後ろに飾られた由美子の写真を指差し、「由美ちゃんの目を見て、ちゃんと話してください」と言う。

滋子は由美子の写真を見つめ、言葉を絞り出し、「私の連載は…誤報でした」と答える。
網川は少し間を置き、「誤報!?」と叫ぶ。

「高井和明さんは、今では私も、無実だと思います」
その言葉に、思わず興奮する網川。

「ちょっと待てよ。今週号の記事でもあなた、栗橋・高井の共犯説で書いてんじゃないですか!?」
「…」

「デタラメ過ぎだよ、前畑さん!」
「…」

「あんたのデタラメな記事のせいで由美ちゃんは自殺したんだ!由美ちゃんは……」
そう言って、涙声になる網川。

「由美ちゃん…ううっ…由美ちゃんは…うううっ」
手で顔を隠しながら、時々指を広げて滋子を見る網川。

サブリナ編集部全員で放送を見ている。
「もうダメ!サブリナ吹っ飛んだ~」とつぶやく板垣。

受話器を置いた増岡プロデューサーは「反響すごいぞ」と喜ぶ。
「『前畑滋子を映すな』『前畑滋子に鉄槌を』だとさ」

「もっと反論すると思ったんですけど」と浅川ディレクターが嘆く。
「これはこれで、《見世物》としちゃあ、なあ」と言って、増岡は浅川の背中をたたく。

「残り三分でCMに入ります」と女性スタッフが言う。

真犯人Xについて語りだす滋子

「放送時間が少なくなってきました。前畑さん、反論はありませんか?」
「…」

「前畑さん、大丈夫ですか?」
司会者の言葉に答える滋子。

「反論はありません。ですが、網川さんの言う真犯人Xについて、私も取材を始めました」
その言葉に、泣いていた網川は顔を上げ「へー…」と言う。

「その子どもは、父親に拒絶され、母親に捨てられ、自分を憎む人間たちに囲まれて生きてきました」
「子ども?Xは未成年ですか?」と司会者が聞く。

「物心つくかつかないかの頃、その子どもは、広ーいお屋敷の古井戸に、いたずらを装って何度も突き落とされたそうです」
網川はボーっと滋子を見つめている。

「誰が彼を突き落としたのか?本妻か?本妻の子どもたちか?…母親か?その愛人か?…」
滋子は網川に向かって語りかけ、網川はじーっと滋子を見つめている。

「みんながその子に思っていた、『事故で死んでくれたらいいのに…』『生まれる前の闇に戻ってくれたらいいのに…』心は耐えられず、井戸の闇で死んだ…。体は生き残って…」
滋子は宙を見上げる。

「物語を作った…」

網川は口を開く。

「それがXの動機ですか?」
「わかりません。ですが、推察は出来ます。Xは、自分の悲劇の少年時代を文豪のそれに重ねあわせ、『自分には才能がある。作家性がある』と思い込んだ…。私に言わせれば、それこそ正に《Xの一番の悲劇》、いえ、《喜劇》です」
その言葉に、網川は食いつく。
「喜劇!?」

「前畑さん、喜劇というのは?」と司会者が質問する。

「これです」と言って滋子は、「JUST BECAUSE」と言う題名の本を手に掲げた。

「最近発見して驚いています。十年前、アメリカで出版されたノンフィクション。日本に入っておらず、日本語訳もない。ですが、この中の犯罪が、今回の連続誘拐殺人事件にそっくりで、女性ばかりが拉致され、殺害され、その家族へもてあそぶような電話がかかります。この本では単独犯なのですが、その犯人は、捜査の途中で事故死までします」
網川は唾を飲み込んだ。

「警察は、被疑者死亡で彼を送検。すると、その犯人の友だちだと名乗る男がマスコミメディアに登場し、こう訴えます。『真犯人は別にいる』」
網川は、再び唾を飲み込んだ。

「男は全米の注目を浴び、マスコミの寵児となり、世論は動き、警察も再捜査。その結果、友だちは無実だと主張したその男こそ、真犯人だったと言う、実に面白い傑作のノンフィクションなんです」
網川の目が泳いでいる。

「男は逮捕されました。その時、警察とマスメディアに『なぜ、こんな事をしたのか?』と問われてこう答えます。『だって面白かったから…。みんなも楽しんだだろう?』」
網川は目を伏せながら言葉を出す。

「デタラメを言うな…」

滋子は立ち上がり、強気に話し出す。

「デタラメではありません。この本のタイトルは『JUST BECAUSE』、直訳すると『なぜかと言えば』…。十年前、アメリカのメリーランド州で実際に起きた事件です。今回の、私たちの、この連続誘拐殺人事件の真犯人Xは……」
滋子は網川をじっと見つめ、網川も滋子の言葉を待っている。

「この事件が日本で知られていない事をいいことに、真似しちゃったんですよ~」
網川は目を見開く。

「真似た!?」

「ええ!まさに猿真似。……犯罪に著作権があるのかどうか知りませんが、真犯人Xは盗作をした!」
網川は目を見開いたまま、顔を横に震わせる。

「この物語は…Xのオリジナルじゃなかった…」
網川は顔を振る。

「真犯人Xは、このメリーランド州の誘拐殺人事件の、《模倣犯》に過ぎません!」
すると間髪入れず、網川は叫ぶ。

「盗作なんかじゃない!」

怒りに震え、立ち上がって滋子に食いかかる。

「全部、僕のオリジナルだ!全部僕が考えて、生み出した物語だ!」

「全部、僕のオリジナルだ!全部僕が考えて、生み出した物語だ!」

滋子は悠然と網川を見つめている。(あるいは見下している?)

「模倣犯だって!?」
網川は笑い出す。

「ふざけんなー!」

見ていた人たちの時が止まり、時計の秒針は十二を越えた。

「CMに入りました!」という声がスタジオに響く。
網川は呼吸を荒くしている。
滋子はゆっくりと腰掛け、網川に話しかける。

「網川くん。今の発言てまるで、自分が犯人だと認めたようなものだけど…」
唾を飲み込む網川。

「私たち…そう受け止めても良いのかな?」

網川は呆然としたまま、立ち尽くし、しばらくしてゆっくりと歩きだした。
途中、滋子の方を向いたが、再び呆然としながら歩き始める。
滋子も、スタジオの誰もが、網川の背中を見続けた。

増岡プロデューサーはあわてて受話器をとり、「カメラ回せ、網川追っかけろ!…バカヤロー!テレビ屋だろう、動けー!」と叫ぶ。
浅川ディレクターが走りだし、その後を増岡も追いかける。
スタジオにいたスタッフも走り出す。

武上が「出入り口を封鎖して網川を同行かけろ。あれは自白だ」と部下に指示する。
神埼警部が「応援を要請する。網川の現在地の至急確認。俺は防犯カメラのある警備室に行く。ガミさんは網川を」と指示し、武上は「了解」と言って走り出す。

スタジオに残っていた滋子は、力が抜けたのか、床に滑り落ちてしまった。
ハアハアと大きく息をする滋子。
廊下を歩くのもままならない。

「昭ちゃんだけを…待ってる」

滋子は、やっとの思いで控室に戻ってきた。
手に持っていた『JUST BECAUSE』の本をテーブルに置き、椅子に座ると携帯に電話がかかってきた。
昭二からだった。

「はい」
「滋ちゃん!ああ、良かった。無事だったんだな。今どこ?安全な所?…控室に一人?ダメだ!網川がその局にどこかにいるらしい」
昭二が見ているテレビには、「速報!網川浩一氏逃走 番組内で犯行自白の疑い」とのテロップがあり、武上らが廊下を走る姿が映っていた。

「俺、今からそっちに行くから、俺が行くまで誰が来たって絶対ドアを開けんな!…もしもし、滋ちゃん、聞いてるか?」
「う…うん…聞いてる」
滋子は立ち上がり、ドアの鍵を内側からかけた。

「昭ちゃん…昭ちゃん…は、早く来て~」
「今、玄関出るとこだ。すごいぞ滋ちゃん、よくあんな本、見つけたよ。…えっ!?ウソー!?」

「そう。ウソ。あれはウソ。全部嘘っぱち。思い出したの。うちの編集長、外国ミステリーのコレクションが趣味で、それでね…」

「夜分遅くすみません編集長、本を貸してください」
「本!?なんの?」

「犯罪を匂わすようなタイトルで、日本に入ってない、一般に知られてない古い洋書なら何でも…。内容は問いません。…すいません、理由は言えません。網川に一矢報いたいんです」

「網川の物語をね…盗作だって言ってやったら絶対に怒る…。あのニコニコ顔、少しでも崩してやろうと思って…。まさか、自白するなんて思わなかったよ…(涙声)。昭ちゃん…」
「滋ちゃん。良くやった、滋子は偉い!すごく頑張った!」

「昭ちゃん…。ぐすん…。昭ちゃん…」
「まだ、気を緩めちゃダメだ。俺が行くまで待ってろ!」

「(声にならないでうなずく)…」
「誰かに呼ばれても絶対ドア開けんな。俺が行くまで待ってろ。いいな、滋子!」

「…うん…待ってる…。昭ちゃんだけを…待ってる」

「僕は書き続けるよ。今度は君の物語を……」

神埼警部が警備室にやってきた。

網川はマネキンが立ち並ぶ部屋に入り、中から鍵をかけた。
警報が鳴り響く。
網川のいる場所にもカメラはあった。
神埼警部がマイクで指示を出す。

「ガミさん、網川は美術倉庫だ。美術倉庫の中に網川はいる。第一班は美術倉庫へ迎え。第二班は、フロアを全て封鎖して、誰も近づけるな!」

武上たちが美術倉庫に到着、しかし鍵がかかっていてドアは開かない。
神埼警部は機動隊の応援を要請する。
「扉を焼き切るぞ」

有馬は縁側に腰掛けて前を向いていた。
真一は電話の受話器を置いた。

「通話中です。僕、HBSまで行ってみます」
「うん。気をつけてな」

すると、電話がかかってきた。
真一が受話器をとる。

「滋子さん、無事ですか?」
「僕は書き続けるよ。今度は君の物語を……」

「……網川…」

その言葉に、有馬は鋭い眼光で振り向いた。

お前はな、《人でなし》だ。《人でなし》の《人殺し》だ

網川は、マネキンに囲まれながら真一と話をする。

「君の家族が強盗に惨殺される物語。樋口めぐみからオファーがあってね、書く事にしたよ。前畑さんが番組に出たのは、それを阻止するためだったんだ」
有馬は真一の横に来て、一緒に受話器に耳を近づける。

「僕はもうすぐ逮捕される。たぶん、死刑だね。でも、結審までは十年、十五年!?その間に拘置所で書くよ。樋口めぐみをヒロインにして。君は仇役、だって、君が軽口さえ叩かなければ、誰も死なずに済んだんだからね」
その言葉に、真一は苦しくなる。
網川は、マネキンの手を口元に添えながら話している。

「樋口めぐみは今、大川公園にいるよ。放送の後、そこで取材をする約束をしていたから。ほら、最初に腕が出たゴミ箱の辺りだ。会いに行って、本を出さないように、土下座でもしてみたらどうかな!?」
網川は楽しそうに話し、目が何とも怖い。

「樋口めぐみを殺したっていい。君には…その権利がある。…殺さなきゃ終わらない。君は一生、あの子につきまとわれる…」
網川はいきなり、目の前のマネキンの首を左手で掴んだ。

「樋口めぐみを殺せ!そうしたら君も…楽になる」
網川は目をつぶり、恍惚の表情で話す。

「……塚田くん、僕は…何者なんだろう……」
有馬は塚田から受話器をとり、網川に話しかける。

「俺が答えてやる。網川、お前はな、《人でなし》だ。《人でなし》の《人殺し》だ」
網川は言葉に詰まる。

「お前、たくさんのウソをついた。けどな、お前のウソはバレた。全部バレた」
網川は頭を掻き毟る。

「いいか、本当の事っていうのはな、お前がどんなにウソをついても、どんなに遠くまで捨てに行っても、必ず帰り道を見つけて、お前の所に戻ってくる。ブーメランのようにな」
動揺した網川は、大きな音を立てて、その場に尻もちをついてしまう。
そして、受話器を当てていない方の耳を手でふさぐ。

「絶対、お前に返ってくる」
「う、うそつきは前畑滋子のほうだ、僕は模倣犯なんかじゃない!僕は…」

「黙って聞け、バカヤロー!!!」
網川の動きが止まる。
有馬は立ち上がった。

「お前はな、どうあがいたって、どんな理屈をつけたって、歪んで壊れてからっぽの、他人を傷つけて偉ぶってるクズ野郎だ」
息が荒くなる網川。

「世間てのはなあ、お前のような奴がもてあそべるほど、単純なものじゃねえんだ。おい、聞いてんのか!?」
頭を抱える網川。

「このクソ野郎ー!!」
身もだえする網川。

「俺たちはタフだ。助けあって生きてんだ。こんな強い事はねえ。なめんじゃねえぞ!!この人でなしのろくでなしのクズ野郎!!!」
声が出ない網川。

「二度とここへかけて来んじゃねえ、いいな!!!!!」
そう言って、有馬は受話器を強く置いた。
ゆっくりと歩く有馬。

「有馬さん…」
有馬は黙って真一の頭をなで、真一を強く抱きしめた。

美術倉庫の中の網川は、苦しそうに動き回り、マネキンが次々と倒れていく。

「まだお母さんがいるだろ。早く家に帰れ」

HBSテレビに、パトカーが次々と到着する。
機動隊員たちが美術倉庫に向かう。

大川公園のごみ箱の近くで、樋口めぐみは座っていた。
携帯のワンセグでテレビを見ている。

足音に気づき、めぐみは後ろを振り返って駆け上った。

「お前も犠牲者だって事、ちょっとだけわかった」
「…」

「でも俺には、お前を助ける事なんて出来ない。だからお前は、俺や網川以外で、助けてくれる人を探せ」
「私は絶対にあきらめない。お父さんを死刑になんてさせない、網川さんに本を書いてもらうの!」

「ああ、俺は構わない。本当の事は、どんなに遠くに捨てたって、帰り道を見つけて、必ず戻ってくる。網川に書かれるのは怖いけど…。でも俺は、どんな本が出ても、耐えられると思う。俺には、助けあえる人がいるから。まだ助けてもらってばっかりだけど…。いるから…」
「……私には…いない」

「まだお母さんがいるだろ。早く家に帰れ」
「(首を横に振り)お金ない…」
真一は財布を取り出し、お金をめぐみの前に差し出した。

「有馬さんから。早く家に帰って、まずお母さんの事、安心させてやれって」
めぐみは下を向いたまま、そのお金を受け取った。
真一は振り返って歩きだす。
めぐみは地面に突っ伏して泣きじゃくる。

俺たちはもうお前に、うんざりだ

武上、神崎警部たちが美術倉庫に集まっている。
機動隊が間もなく到着するとの連絡が入った。

武上の携帯に電話が入り、「わかった」と答えて電話を切る。
武上が網川に話しかける。

「網川よ、氷川高原の別荘に、家宅捜索の礼状が出てな。ガサ入れして、監禁と犯行の部屋を特定した。裏山からは、俺たちが把握しているより多い人骨が出てる」

機動隊が到着した。

「出てこい、網川!お前にはうんざりだ!二年前、お前と栗橋浩美が、岸田明美さんをオバケビルで殺して始めた物語は、もう終わりだ。わかるか?ジ・エンドだ!!」

しばらくして、鍵が外れた音がした。
ゆっくりと扉が開き、網川が外に出てきた。
ライトがたかれ、網川が顔を覆う。
眩しさを堪えながら、武上の顔を見る網川。

「二年前じゃない。正確には二年と四ヶ月前だよ、刑事さん。この物語の始まりは…。浩美が岸田明美を殺すよりも前…。(ニッコリ笑って)僕が、母を殺したところから…」
森の中で穴を掘る網川の映像。

「木を隠すには、森の中…。死体を隠すには死体の中…。死体が…足らなかったのかな?(笑う)」
「確保」の掛け声と共に、網川は抑えられ、武上が手錠をかけた。

「話は後で聞く。それが俺の仕事だからな…。けどな、俺たちはもうお前に、うんざりだ」

「やっと終わった!」

テレビの速報で、網川の逮捕が流れた。
滋子と昭二は、テレビ局の控室のテレビを見ていた。
滋子は立ち上がり、昭二と向き合う。

「やっと終わった!」
滋子は昭二に抱きついて泣いている。

「滋ちゃん!」
昭二も感無量だった。

「鞠子…鞠子はどこ?」

有馬は、網川逮捕のニュースを、鞠子の遺影の前で聞いていた。

真智子の病室で、事件解決の報告をする有馬。

「事件、解決だとよ…真智子」
真智子は目を閉じている。

「解決だとさ…」
真智子は目を開いた。
有馬は驚いて身を乗り出す。

「真智子!俺がわかるか?真智子!」
真智子は宙を見ている。

「鞠子…鞠子はどこ?」
有馬は固まってしまった。
そして、ゆっくりと椅子に座った。

「鞠子返してくれよー!」

有馬はビール瓶を持って、夜の公園を酔っ払いながら歩いていた。

「何が解決だ!事件は終わった、べらぼうめ!ふざけんじゃねえぞ!終わっちゃなんかいねえぞ!なんも…終わってねえぞー!!
立ち止ってビールを飲む。

「鞠子ー!!帰って来い!!…母さんが呼んでんぞ…」
有馬はビール瓶を投げ捨てた。

「帰って来いよ、鞠……」
有馬は地面に膝をつき、「帰ってきてくれよー!」と言いながら倒れ込んだ。

「鞠子返してくれよー!」
有馬は起き上がって座り込んだ。

「俺の初孫なんだよぅ……。たった、たった一人の…孫なんだよぅ…」
有馬は再び立ち上がって歩きだす。

「とびきり優しくて……豆腐好きの……良い子なんだよぅ…」
途中、木にぶつかり、その場に座り込む。

「返せよぅ……返してくれよぅ……」
大きな口を開け、嗚咽しながら、頭を抱え込んで横になってしまった。

「すいませ~ん。お豆腐くださ~い」

有馬豆腐店の前に木田が立っている。
娘と一緒に豆腐を買いにきた女性が「とうとう閉店ですか?」と聞く。
閉店の張り紙が貼ってある。

「おいしいお豆腐だったのに…」
娘が「豆腐食べたい」と言う。

木田が声をかける。

「お嬢ちゃん。ここのおじちゃんね、『何が何でも仕事は続ける』って言ってたんだけど、事件が解決して、まあ、疲れがどっと出ちゃったのかな。心臓発作で入院しちゃった」
「はあ…」

「うん。でも、幸い、側に居候の少年がいたんで、大事には至らなかったんですけどね。まあ、義ちゃんももういい歳だし……。うまかったなあ、ここの豆腐…」
そう言って、有馬豆腐店の看板を見上げる木田。

母娘は帰り、木田も帰っていった。
風が吹いて、閉店の張り紙が飛んでいってしまった。

滋子が有馬豆腐店に来た。
店のカーテンが開けられた。

「すいませ~ん。お豆腐くださ~い」
滋子はにっこりと笑った。

(了)

 

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総括&感想

原作、映画、ドラマ、それぞれが全くの《別物》ととらえ、楽しむ事ができれば幸せだと思う。
原作ファンにしてみれば、原作に忠実であってほしいと思うだろうし。
映画で網川浩一を演じた中居正広のファンであれば、彼のイメージが強いだろうし。

原作小説であれば、キャラクターの容姿を自由にイメージできる。
それは、作者にしてみれば「どうぞ、ご自由に」なのだ。
自分の頭の中で、好きな役者さんに演じてもらえば良いのだから。

今回のドラマは、制作発表の段階から注目されていた。
それは、宮部みゆき作品だからと言う理由もあるが、映画の存在も大きいと思う。
映画で網川浩一を爆死させた事で、良くも悪くも注目される作品になったのだ。
ドラマの結末はどうなるのか?そう期待させただけでも、映画が果たした役割は大きい。

私は原作は読んでいないので、原作との比較は出来ないが、人物設定などにおいては、映画よりも原作に忠実だったと伺える。
ドラマにおいて特異だった感じたのは、それぞれのキャラクターの主張が強すぎた点だ。
それは演じる役者のせいなのか、それとも演出を手掛けた人のせいなのかはよくわからない。

前篇においては、ヒロミこと栗橋浩美と、カズこと高井和明。
後篇においては、ピースこと網川浩一。
この三人のキャラクターの主張が強すぎた感が、後味として残っているのは私だけだろうか?

映画での三人は、とても落ち着いていて「楽に見られた」のだが、ドラマでの三人は「見ていて疲れる」というか、情報が多すぎるというか…。
それが監督の狙いだったとすれば、私はまんまと乗せられたわけだが…。

網川の狂気性を演出するのに、あんなに極端にしなくても良かったのではと思ってしまう。
映画の中居正広くらいが、腹八分でちょうど良い。
彼に爆死させないで今回演じさせてあげたかったが、年齢的に無理があるのだろう。

有馬義男役の橋爪功にしても、公園で酔っぱらって歩くシーンが長すぎた気がする。
あんなに長く撮らなくても、観ている人は十分に心情が読み取れるのだから。
もっと視聴者を信頼しても良いのではないかと、制作側に言いたい。

でも、もし可能なら、いろんな人に網川の狂気性を演じてもらいたいという気もする。
たとえば、藤原竜也なら、どんな演技で心を揺さぶってくれるだろうか?
あるいは、山田孝之は!?
同じ脚本、同じ演出で、いろんな役者が演じて、それを観る事ができるのであれば、それは面白いのではないだろうか。(S.A.)

ドラマ模倣犯 前編ネタバレあらすじはこちら

ドラマ模倣犯 相関図

【映画】模倣犯 ネタバレあらすじ

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Comment

  1. 匿名 より:

    後編で分からないことがあります。
    ピースが前畑滋子の挑発に乗り自白した後に呆然と歩き出した途中で前畑滋子を見ている描写。
    あれはどういう意味があったんでしょう?

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