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米国スーパー「マーケット・バスケット」の奇跡(アンビリバボー)

      2018/01/11

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アメリカのスーパー「マーケット・バスケット」の奇跡

立ち上がった周辺住民200万人

今から3年前のこと、アメリカ・ニューハンプシャー州を中心とする地域で、ムーブメントが巻き起こりました。
周辺住民200万人が立ち上がり、あるスーパーマーケットチェーンへの抗議活動で、彼らの要求はただひとつ、 クビになったスーパーマーケットの「元社長」の復帰でした。
 
物語の舞台は、アメリカ北東部マサチューセッツ州を中心に72もの支店を持つスーパーマーケット「マーケット・バスケット」で、一大チェーン店にも関わらず、ウェブサイトはなく、商品をきれいな状態で持って帰って欲しいとの思いから、あえて人件費をかけて、袋詰めを行う店員を置いています。
営業推進アドバイザー スティーブ・ボーレンカさんによれば、「社長には何度も叱られました。『まずは人が大事だ、商売は二の次だ』」と。
 

まずはお客様、その次が商売

スティーブは業者に相談したところ、仕入れ値を今より10%下げることに成功しました。
仕入れの値段が下がった分、定価はそのままで儲けが増えます。

しかし、マーケット・バスケット社長のアーサー・T・デモーラスは「よくやった。お客様が喜ぶぞ。これで明日から値下げができる、10%も」と一言。
会社の利益になればと苦労したのに、その分、販売価格を下げてしまったら全く意味がなくなります。
スティーブは何も言えませんでした。
しかし、お客さんはこう言いました。

「ただでさえ安いのに、また10%も下がるの?」(客)
「ええ、まあ…」(スティーブ)

「ほんと助かるわスティーブ、あなたのお陰よ。感謝してるのよ、ありがとね。一つ頂こうかしら。安いけど美味しいのよ、これ。じゃあね、また来るわ」(客)
「どうも」(スティーブ)

「スティーブ、これがウチのやり方なんだ。まずはお客様、その次が商売だ。それを忘れないでくれ」(アーサー・T)
「ええ」(スティーブ)

アーサー・T・デモーラス、通称(A・T・D)の原点

アーサー・Tの「お客様を第一に考える」その経営哲学の原点は、100年前にさかのぼります。
今から100年前の1917年、ギリシャ移民だったアーサー・Tの祖父が、マサチューセッツ州に小さな食料品店を開店しました。
当時この地区には貧しい移民が多く、大恐慌もあって、誰もが食うや食わずの生活を送っていましたが…

「さあ、新鮮なハムと焼き立てのパンですよ、どうぞ」(アーサー・Tの祖父 アサナシオス)
「本当にタダでいいのかい?」(客)

「ええ、どうぞ。困ったときはお互い様ですよ」(アーサー・Tの祖父 アサナシオス)
「ありがとう、助かるよ」(客)

どんなに経営が苦しくとも、貧しい人々にはタダで食料を配り、商売は二の次。
祖父は、地域との繋がりを何よりも大事にしました。

その跡を継いだ二人の息子は、町の小さな食料品店を、規模の大きなスーパーマーケットに変え、支店を徐々に増やし、数十店舗からなる一大チェーンへと成長させました。
たとえ店が大きくなっても、「人を大切にし、人に奉仕する」という祖父の精神を、二人は忘れる事はありませんでした。
低所得者層に向け、どこよりも安い値段で販売、そして利益の中から病院や大学に寄付をするなど、地域社会にも貢献しました。
 
アーサー・Tは、父の店で高校生の頃から修行をスタート。
数十年かけて、マーケット・バスケットの精神を学びました。

自身が経営に携わるようになってからも、顧客ファーストを徹底。
他の店ではあまり必要とされない「袋詰め係」を配置しました。

彼が祖父から受け継いだ精神は従業員にもいきわたりました。
彼らは客と当たり前のように挨拶を交わし、心のこもった接客を行ないました。

「おはよう、エマさん。最近姿を見なかったけど、大丈夫ですか?」(店長・マット)
「ありがとう。ちょっと風邪をひいてたの。ところで、いつものブラウンシュガーハムあるかい?」(エマおばあちゃん)
「もちろん。今お持ちしますから、こちらでお待ちを」(店長・マット)

店長のマット・マトソンさんによれば、「お客様の顔と名前、お子さんの名前や誕生日も覚えています」と。
身寄りのないお年寄りも、貧しい人も、ここではみんなが家族のように扱われ、そして従業員の多くが、手に職を持たないティーンエイジャーだった頃にマーケット・バスケットに就職、店と共に一人前の職業人として成長してきた人々でした。
 

2008年に社長に就任したアーサー・T

就任の挨拶で、アーサー・Tはこう宣言しました。

「私の父は努力し続けろと言いました。全てのお客様がより少ないお金で、より質の高い食品をたくさんテーブルに置けるように努力しろと」

アーサー・Tが大切にしたのは顧客だけでなく、店で働く従業員も同様でした。

「彼はいつも言うんです。『君たちの仕事は大切だし、君たち一人一人がみな本当に価値のある大切な人間なんだ』と。今どきそんなこと言ってくれる人いますか?いませんよ」(営業推進アドバイザー スティーブ・ボーレンカ)

多くの従業員が、アーサー・Tと一緒にマーケット・バスケットで働くことに、誇りとやり甲斐を感じていたのですが、そんなある日のこと…
 

衝撃のニュースが!

突如として、マーケット・バスケットの取締役会が、アーサー・Tの解雇を発表。
他のスーパーチェーンや、大型電気店の経営担当者二人を、アーサー・Tの代わりに採用するとしたのです。
これは一体、どういうことでしょうか?

それは、一年前の2012年、財産の分け方について、創業一族の間で争いが起こりました。
その結果、創業者の孫でアーサー・Tにとってはいとこに当たるアーサー・S・デモーラスが、マーケット・バスケットの株の過半数を取得したのです。
 
いとこは大学時代から、ホッケーの選手として活躍。
一方では経営学の学位を獲得するほどの言わば超エリートで、10代から店頭で働いてきた叩き上げのアーサー・Tとは真逆の人物でした。
2013年7月、彼は自分の腹心を新たな取締役とし、会社の方針を思うままにしようとしたのです。

「これだけ利益を上げているにも関わらず、株主に還元しないのはどういうことですか?」(いとこのアーサー・S側)
「利益はまず、サービスの向上や従業員の給料アップのために…」(アーサー・T)

「それが違うと言ってるんだ!そもそも袋詰め係なんか必要ない。無駄な人員を削ればもっと利益は上がるはずだ」(いとこのアーサー・S側)
「第一にお客様、第二に従業員、そして最後に株主の利益が来る。我々はずっとそうやってきた」(アーサー・T)

「あなたは何もわかっていない。今は時代が違うんです。経営者の仕事は、株主の利益が最も大きくなるように考えることだ」(いとこのアーサー・S側)
「人を大切にし、人に奉仕する。100年前から我が一族が守ってきた精神です。それはあなたも知っているはずだ」(アーサー・T)

「………」(いとこのアーサー・S)
「とにかく、経営の素人に、大事な会社を任せるわけにはいかない。それが我々の結論だ。他に異論がなければこの辺で…」(いとこのアーサー・S側)

いとこ側は、従業員の給料アップを抑え、人員を整理し、浮いたお金を株主たちへ配ることを要求。
そして、その最大の株主の一人が、いとこ本人だったのです。
 
「何かしなくてはと思った。それもできるだけ早く、すぐに効果が現れる何かを」(営業推進アドバイザー スティーブ・ボーレンカ)

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アーサー・Tがクビに!?

噂を聞きつけた彼は、早速行動を開始。
SNSでアーサー・T解任反対の署名を呼びかけると、一夜にして1万人もの従業員たちの署名が集まりました。

ところが、この要望をいとこ側が聞き入れる事はありませんでした。
2014年6月、アーサー・Tはクビになったのです。
 
「こうなったらもう、あの手しかないな」(物流センター長 ディーン)

最悪の事態を受け、幹部社員たちはあるとんでもない計画を立てたのですが、それが「マーケット・バスケットの物流センターの機能停止」でした。

各店舗への商品の配送を止めれば、新鮮な食料品などから順番になくなっていき、補充がなければスーパーマーケットは魅力を失い、売り上げが下がります。
そうなれば新しい経営者の責任問題となり、そこで商品の配送と引き換えに、アーサー・Tの復帰を要求するという、考えうる中で最も効果的なストライキでした。
 

しかし、問題はお客のこと

マーケット・バスケットで買い物ができないと、生活に困る人が出てきてしまう、しかしストライキを決行しなければ、自分たちが今までやってきたサービスは永遠に失われてしまう…。
また、本当に物流を止めることができるのかという心配もあり、ストライキを有効なものにする為には、物流センターで働く700名の従業員たちのうち、できるだけ多くの協力が必要でした。

しかし、新しい経営者から全従業員に「あるメール」が届きました。

”これからもマーケット・バスケットで働きたいかどうかを決めるのは、あなた方それぞれです。もし仕事を放棄するなら、別の人と交代させるしか我々に選択肢はありません”

つまり、ストライキに参加した場合クビにするという脅しであり、従業員にとって、この店での仕事は大事な生活の糧、失うわけにはいきません。
果たして、何人の従業員が賛同してくれるのでしょうか?

物流センター長のディーンが、物流センターの封鎖を従業員に発表すると…

何人かはその場を離れましたが、ほとんどの従業員は、ストライキに参加の意思を表明、「本当にいいのか?」と聞くと…

「僕らはスーパーマーケットで働きたいんじゃありません。アーサー・Tやあなたたちがいる、このマーケット・バスケットで働きたいんです」

「週のやりくりでさえ大変な僕が、資産家のアーサー・Tの事を心配する必要はない、いろんな人にそう言われました。でも、たとえ職を失ったとしても、人生には立ち上がらなければならない時がある。あの時の決断に後悔はありません」(ストライキに参加した従業員 デビッド・コートー)
 
翌日、物流センターのトラックは、殆どの荷物を運ばず、ついに、元社長を取り戻す為、かつてないストライキが始まったのです。
ストライキに賛同しなかった社員によって、多少の商品は配送されました。
しかし人数が少数だったため、品不足は解消されず、マーケット・バスケットの店舗からは、徐々に商品が消えていきました。
 

この事態を受け、新たな判断を下す新経営陣

物流センター長他、幹部たち8名に解雇を通告、首謀者をクビにすればストライキを終わりにすることができる、との判断からでした。
しかしその頃、店舗のあちこちで驚くべき行動が広がっていて、それを行なったのは、店で働くレジ係や袋詰係、調理担当など、現場で働く従業員たちでした。
彼らは、アーサー・Tをクビにしたことへの抗議の意思をポスターにして、訪れる客たちの見える場所に張り出しました。

「私は、アーサー・Tの父の代からここで働き、本当に良くしてもらいました。ですから、アーサー・Tが困っているのを、見て見ぬふりはできませんでした」(ストライキに参加した店長 マイク・ダナビー)

中には社長を取り戻すため、クビになるのを覚悟で不買運動を呼びかける者もいましたが、そんな従業員の行動に待ったをかけるように、店舗である発表がなされました。

”従業員に皆さまへ 一刻も早く職場に復帰してください 今働いている従業員及び復帰した従業員の中から、店長他のポストの募集を開始します また復帰した従業員には何らペナルティはありません”
 
ストライキで出社しない管理職のポストに、他の社員を配属するという宣言だったのです。
店舗には僅かですが、運動に参加せず働く者がいましたので、新経営陣は、彼らのような従業員に出世の道筋を示す事で、ストライキをやめ、出社する社員が増えるのでは、そう考えました。
つまり、ストライキを行っている従業員の、内部からの切り崩しを図ったわけですが、この通告により、従業員の中には不安を覚える者も出始めました。

ストライキ開始から10日

膠着状態が続いていて、通告に従って職場に戻る者は殆どいませんでしたが、新経営陣が従業員の要求を飲む気配も全くなく、アーサー・Tが復帰するメドも一向に立っていませんでした。
そんな中、解雇された幹部やストライキに賛同する従業員は、マーケット・バスケット近くの建物の一角に集まってミーティングを重ねていました。
店長のマットは、ブラウンシュガーハムを買いに来たエマおばあさんに売ってあげられず、誰の為にストライキをやっているのかと嘆きました。

「こんなにストライキが長引くとは、正直思っていませんでした。自分たちの計算が甘かった。しかし、どうすれば事態を打開できるのか、わかりませんでした」(マーケット・バスケット スーパーバイザー サム・トレイナー)
 

ストライキ開始から2週間

お客が次々と、他の店で買い物をしたレシートを店に貼り始めました。

「失礼ですが、これは?」(スティーブ)
「別の店で買い物したレシートだよ」(年配の女性客)
「本当はお宅で買うはずが他で買ったんだ。どれだけ損したかってことを思い知ればいいんだ」(年配の男性客)

「申し訳ありません。私どものせいで…」(スティーブ)
「あんたたちじゃないさ」(年配の男性客)
「アーサー・Tを追い出した奴らに言いたいのよ」(年配の女性客)

「ちょっと、そこどいとくれ。私も協力させとくれ」(エマおばあさん)
「エマさん、どうしてこんなことまで」(店長・マット)
「決まってるじゃないか。あんたたちみんなが好きだからさ。こんな婆さんをいつも気にして声をかけてくれる。あんたたちがいなくなるのは嫌なのさ」(エマおばあさん)

「エマさん…」(店長・マット)
「だから頑張っておくれよ」(エマおばあさん)
 
次々と抗議のレシートを貼っていく客たち、それは、アーサー・Tが戻るまで、マーケット・バスケットで買い物をしないという、客たちのボイコット宣言でした。
誰からともなく始まったレシートを貼り付ける運動。

それはマーケット・バスケットの全店舗に広がり、日を追うごとにレシートは増えていきました。
客達は一斉に立ち上がったきっかけの一つと言われているものが、地元新聞に掲載された広告でした。

”マーケット・バスケットの現CEO、取締役会、および株主の皆さんへ
不買運動はマーケット・バスケットの従業員によるものでなく、客によるものです
不買運動をしているのは、あなたの客なのです
売上をもたらすのは、あなたの客なのです
企業の命運を握るのは、あなたの客なのです
アーサー・TがCEOに復帰するまで、マーケット・バスケットで買物をしないと決めたのは、あなたの客なのです
この広告料を支払ったのは、あなたの客なのです。
あなた方は客をクビにできない、私たちが買物をしないのだ。”
 
広告主は顧客有志たち。
みんなで金を出し合って掲載したのです。
そしてもう一つの動きがありました。

客が率先して始めた署名活動

さらには集会まで開かれ、演台にはスペインからの移民も上がりました。
まさに客が主役で、100年前に祖父が小さな食料品店に込めた「人を大切にし、人に奉仕する思い」、時代を超えて受け継がれたささやかな優しさ、それを忘れなかった人々が結集したのです。

「俺たちはアーサー・Tに戻ってきてほしいんだ。彼は最初からちゃんとやっていたんだから」(若者)

マーケット・バスケットが、そしてアーサー・Tが象徴する「何か」を失いたくないと、ただそれだけの為に200万人もの住民が立ち上がったのです。

2014年8月27日深夜…

あるメールが全ての関係者の元に届き、そこに書かれていたのは「本日付でアーサー・T・デモーラスは、最高経営責任者に復帰した」。
実は、アーサー・Tは退任後、すぐに資金調達に奔走していました。
そして、いとこから株を買い取り、経営者に返り咲いたのですが、その額は日本円にして1700億円。

当初、いとこは株式の売却を渋っていました。
しかし、このままでは街に雇用不安が広がるとして州知事が説得し、やむなく同意したのだといいます。
アーサー・Tは最初から、決して諦めてはいなかったのです。
 
アーサー・T復帰決定の知らせを聞き、すぐにトラックは走り出し、翌朝、店舗には食料品が並びました。
そして、アーサー・Tがマーケット・バスケットに帰ってきて「僕のオフィスはあるかな?」と言い、従業員たちは笑っていました。

2014年8月29日

応援してくれた人々の前に立ったアーサー・Tはこう言いました。

「本当にありがとうございます。皆さんは私にとって特別な存在で、またここに戻って来られてとても嬉しいです。マーケット・バスケットの同僚の皆さん、マーケット・バスケットのお客様、マーケット・バスケットの仕事仲間の方々、皆さん一人一人が闘いました。ここマーケット・バスケットという職場には、働くという事以上の意味がありました」(アーサー・T)
 
あのストライキから3年経った2017年、マーケット・バスケットは新たに9店舗をオープン(現在全米で81店舗)、その勢いは止まりません。

「専門家はみな『昔のようにうまくいくはずがない』と言っていました。しかし新店舗も好調で、売上も前より良くなっています。価格が地域で一番低いことも、従業員がきちんとボーナスを貰えることも、何も変わっていません。むしろ昔より良くなったと感じるほどです」(マーケット・バスケット スーパーバイザー、サム・トレイナー)
 
今回の一連のストーリーを一冊の書籍にまとめた著者、グラント・ウェルカー氏はこう言っています。

「興味を惹かれたのは、ごく普通の人々が、クビになったとはいえ、裕福なアーサー・Tのために立ち上がったという点です。賃金のアップや労働環境の改善など、自らのためでなく、ただボスを取り戻すために闘った。これまでほとんど聞いたことのないケースだと思います」(グラント・ウェルカー氏)
 
アーサー・T本人に、今回の件を語って貰おうと取材を打診しましたが、結局、応じてもらうことは出来ませんでした。
 
「彼はとても謙虚な人です。今回の一件も、大変だったのは現場にいた従業員やお客様で、自分は注目を浴びるような事は何もしていない、そう思っているからこそ、取材を受けなかったんだと思います。アーサー・Tはそんな人です」(マーケット・バスケット スーパーバイザー、サム・トレイナー)
[出典:2017年11月9日(木)「奇跡体験!アンビリバボー」]

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