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過激化してテロに走る「インセル」と呼ばれるアメリカの「非モテ」

      2018/07/20

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インセルと呼ばれる「非モテ」の人たちが、今のアメリカでテロを引き起こしていると言います。

凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題

テロにも発展。その名は「インセル」 2018.07.01
八田 真行

アメリカで、「インセル」と呼ばれる一部の「非モテ」が過激化し、テロ事件を起こして社会問題となっている。
興味深いのは、そんな彼らのなかにはトランプ支持者が多いということ。
彼らのコンプレックスに満ちたメンタルや、「インセル 」という集団の由来を注意深く探っていくと、トランプを生んだアメリカという国の一側面が浮かび上がってくる。

続発する非モテたちの犯罪

今年の4月、カナダ・トロントの路上で、レンタカーが通行人に突っ込み、10名を殺害して多くに重軽傷を負わせるという事件が起こった。
死者の多くは女性だった。
この種の攻撃からは、どうしてもイスラム過激派によるテロを想起してしまうわけだが、犯人は25歳のアレック・ミナッシアンという白人男性で、イスラム教との接点はおろか前科すらない人間だった。

しかし驚くべきことに、彼はある種の過激思想によって突き動かされた、まごうことなきテロリストだったのである。
問題は、その思想の中身だ。

事件後、ミナッシアンが書いたフェイスブックへの投稿が発見されたが、そこで彼は、以下のようなことを書いていた。
「インセル革命はすでに始まっている!我々はチャドやステイシーどもを全滅させる!最高紳士エリオット・ロジャー万歳!」

なんじゃこりゃ、というのが常識的な反応だと思うが、しかし実のところこの一文は、ミナッシアンやその同類が奉じている世界観をよく表現している。
まず、インセル(Incel)というのはInvoluntary celibateの略で、「非自発的禁欲」とでも訳せようか。

ようするに、付き合う相手がいないので、不本意ながら性的に禁欲を強いられている、ということだ。
そしてミナッシアンは、自分たちはインセルだ、と自己規定しているわけである。
ちなみに、インセルの多くは若い白人男性の異性愛者だという。

インセルである彼らの敵が「チャドやステイシー」だ。
これはインセルのコミュニティにおける隠語で、付き合う相手に不自由しない、モテるイケメンや美女を意味する。

ただ外見が良いというだけではなくて、学歴や経済力、社会的地位の高さも加味された概念だ。
なお、チャドやステイシーほど性的に放縦ではないが、ちゃんとパートナーがいる「普通の」人々のことをインセルはノーマルならぬノーミーと呼び、やはり敵視している。

エリオット・ロジャーという男

そして、エリオット・ロジャーとは何者か。
実は、インセルを標榜してテロを起こしたのはミナッシアンが最初ではなく、すでに北米では何件も同様の事件が発生している。
これらの源流と目されるのが、2014年5月にカリフォルニア州で起こった大量殺人で、その犯人が22歳のエリオット・ロジャーという若者だった。

彼は6名を殺害し、多数を負傷させたあげく自殺したのだが、137ページにも及ぶ声明文とYouTubeの動画を遺した。
その中で、ロジャーは自らをインセルと規定し、女性たちへの復讐を声高に謳っている(しかし、女性と付き合った経験は無かったようだ)。
ちなみに、「最高紳士(the supreme gentleman)」というのは元々はロジャーの自称で、今ではインセルお気に入りの自称ともなった。

ロジャーはRedditや4chanといった掲示板サイトにあったインセルのネット・コミュニティで活発に活動していたため、彼の事件はインセルという語を広めると共に、いわばインセルのシンボルとなった。
「Going ER」(ER、すなわちエリオット・ロジャーをする)というのが、インセルを動機とする暴力を示す隠語になったくらいである。

強烈な女性嫌悪

2015年10月にはオレゴン州の短大で、26歳の学生が9人を殺害したあげく自殺したが、この犯人も現場に遺した犯行声明でロジャーの事件に言及し、ガールフレンドがいないことを犯行動機の一つとして挙げていた。
2017年12月にはニューメキシコ州の高校で2人が殺され、犯人も自殺したが、この男は「エリオット・ロジャー」を名乗って掲示板に書き込みをし、ロジャーへのシンパシーを表明していた。今年2月にもフロリダ州の高校で乱射事件があり、17人が殺され多数が負傷したが、この犯人も「エリオット・ロジャーは不滅だ」などとネットに書き込んでいたという。

モテるとかモテないというとなんだかくだらないことのように聞こえると思うが、すでにインセルの影響で何十人も死んでいる。インセルはまごうことなき「危険思想」なのである。
ところで、なぜインセルはチャドやステイシー、ノーミーを敵視するのだろうか。特定の相手に、実際にこっぴどく振られたとか相手にされなかったとかで敵意を持つというのならまだ分かるのだが、インセルの憤怒は多くの場合、自分と必ずしも関係の無い女性全般、あるいは社会全般に向けられている。
筆者もしばらく理解できなかったのだが、ようするにこういうことではないかと思う。
世の中の女性は軽薄で愚かなので、金や権力のあるイケメンに惹かれるばかりで、自分のような風采の上がらない、社会的地位もない男は相手にされない(に違いない)。自分に魅力がないのは遺伝子の問題で、自分に責任はない。
そしてセックスは基本的人権であって、それを阻む女性や、女性の権利を声高に主張するフェミニズムの横行はインセルにとって深刻な人権侵害だ。そもそもこの社会は、チャドやステイシーに有利なようにルールがねじ曲げられていて、インセルに勝ち目はない。インセルを抑圧する社会を打破するために、インセル革命が必要なのだ、と……。

後述する通り、インセルにはドナルド・トランプの支持者が多いらしいのだが、それもこのような反フェミニズムという文脈で理解することができよう。

インセルの意外な源流

Incelという語自体は(皮肉なことに女性によって)1993年に開設された掲示板サイトに由来するそうだが、インセルというコミュニティの由来は、やや意外なところに求めることができるらしい。
人種差別やヘイトクライムに対抗する非営利団体、南部貧困法律センター(Southern Porverty Law Center)によれば、「インセルはピックアップ・アーティスト運動から派生した」という。

ピックアップ・アーティストというのは、ようするに「ナンパ師」のことだ。
女性を口説いてセックスに持ち込むことをピックアップ(お持ち帰り)と言い、そのための心理的テクニックを学んで駆使するのがピックアップ・アーティストである。

現在のピックアップ・アーティスト運動の源流とされているのが、ロス・ジェフリーズという人だ。
1999年の映画『マグノリア』でトム・クルーズが演じた役のモデルがこの人で、80年代末に神経言語プログラミング(NLP)等の心理学的小道具をちりばめたナンパ術を編みだしたと称し、「生徒」を集めて伝授していた。

2005年にはジャーナリストがピックアップ・アーティストのコミュニティに潜入取材したノンフィクション「The Game」がベストセラーとなり、その名も「The Pickup Artist」という、参加者にピックアップ・アーティストがナンパ術を指南するというリアリティ番組も制作されて人気を博した。
最近有名なのはルーシュ・V(本名ダルーシュ・ヴァリザデー)という人で、熱心なトランプ支持者として知られている。
ちなみに筆者が探したところ、トランプが大統領選に打って出る遙か前の2013年の時点で、「ピックアップ・アーティストが見習うべきはジェームス・ボンドではない、ドナルド・トランプだ」などという書き込みがあった。

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非モテもナンパ師も、根っこは一緒

ナンパ師というと、自信過剰なイケメンというイメージがある。
それは先の話で言うチャドであり、インセルとはむしろ敵対関係にあるような気もするわけだが、ピックアップ・アーティストとピックアップ・アーティスト運動は別物であることに留意しなければならない。

ピックアップ・アーティスト運動は結局のところ自己啓発の一種で、参加者の大多数は自分に自信がなく、他人との付き合いが苦手な人たちだ。
だから、それほどインセルと距離が遠いわけではないのである。

加えて、インセルとピックアップ・アーティストは、強烈な女性嫌悪(ミソジニー)という共通点がある。
インセルはともかくピックアップ・アーティストは女好きなのではないかと思う向きもあるだろうが、筆者がピックアップ・アーティストに関する文章や掲示板などの書き込みを読んで思うのは、そもそもピックアップ・アーティストの多くにとって、女性と楽しくお付き合いすることが目的ではないということだ。

口説きを「ゲーム」と称していることからも分かるように、心理テクニックやら何やらを駆使し、相手を意のままに操って見下す、それによって自信を回復する、というところに主眼があり、女性にはスタンプカードに押されたスタンプ程度の意味しかない。
先の言い草をまねて言えば、世の中の女性は軽薄で愚かなので、自分程度の男でも、ピックアップ・アートに操られて引っかかるのだ、という根深い蔑視が潜んでいる。
自分程度の、というのがポイントで、「自分を入れるようなクラブには入りたくない」という有名な警句があるが、ピックアップ・アーティストもインセル同様、自己嫌悪から自由ではないのである。

「相対的剥奪」というキーワード

筆者はここ数年、いわゆる「トランプ現象」に興味があって調べているのだが、実はドナルド・トランプという個人にはあまり興味がない。
トランプはいわばロウソクの芯のようなもので、確かにテレビ芸人としての彼の才能が無ければここまで話が大きくなるということはなかったと思うが、その一方、芯だけでは火は付かない。
火が付くには、ロウが必要なのだ。

このロウ、すなわちトランプを押し上げた支持層に関しては、トランプの当選以降、政治学や社会学、経済学といった社会科学の領域で、様々な研究が行われている。
従来は、グローバリズムに痛めつけられた田舎の白人貧困層、という一面的な理解が多かったが、最近では、トランプ支持層は案外多様性のある集団で、所得水準も社会階層も問題意識もバラバラということが分かってきている。

インセルやピックアップ・アーティストは筆者がこうしたトランプ支持(というか反フェミニズム)層を研究する過程で出会った集団で、他のグループと合わせてマノスフィア(manosphere、男性世界とでも訳すべきか)と呼ばれる文化圏のようなものを形成している。
マノスフィアを巡っては他にも面白い話はあるのだが、他日を期したい。

さて、トランプ支持層はバラバラと言ったが、彼らに全く共通項がないのかと言えばそうでもない。
一つの切り口は、「相対的剥奪」(relative deprivation)ではないかと思う。
最近のカリフォルニア大学の研究者による研究で、トランプ支持者の特徴の一つとして挙げられていた。

相対的剥奪は、元々はこんな話だ。
ある部署では、ある時期になると50%が昇進する。
別の部署は25%しか昇進しない。

常識的に考えれば、昇進する割合や人数が多い部署のほうが不満は少なさそうなものだが、こうした場合、先の部署のほうが不満が高まるのだという。
4分の1しか昇進しないのであれば、仕方が無いと諦めもつくが、半分も昇進するのに自分は漏れたとなると、収まらない人が増えるのである。

ようするに、昇進の有無そのものや絶対的な格差よりも、主観的には「当然」昇進すべきだったのに、実際にはなぜか昇進できなかった、というような相対的な不遇のほうが、深い不満をもたらすのである。
この「当然」には、本来自分が得られるはずだったものを(多くの場合自分よりも劣っているとみなす相手に)不当に奪われた、という感覚も含まれる。

「当然」握るはずだったアメリカという国の主導権を黒人やヒスパニックに奪われる白人、中国やメキシコに仕事を奪われて「当然」得られるはずだった経済的果実を得られなくなった中流層、移民対策や社会保障のせいで「当然」得られるはずだった金を税金として持って行かれる富裕層。
そして「当然」得られるはずだった女性に相手にされないインセル、「当然」女性を意のままにできるはずだったのにフェミニズムやらポリティカル・コレクトネスのせいでそうもいかなくなったピックアップ・アーティスト、といった具合で、トランプ支持層に横串として相対的剥奪を通してみると、いろいろつじつまが合うのだ。

そもそも、すでに大統領選で勝利してから500日以上経っているのに相変わらず敗者のヒラリー・クリントンを叩いていたり、オバマと同じノーベル平和賞が取れそうだというので前のめりに北朝鮮との首脳対談に臨んだトランプ自身、「当然」得られるべき敬意が得られない、という相対的剥奪感に苦しんでいるのかもしれない。
そういう意味でも、確かにトランプは現在のアメリカの象徴と言えそうである。

[出典:凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題(八田 真行)現代ビジネス(講談社 > http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56258 ]

逆恨みの様な理由でテロを起こされても困ります。
現代社会が生み出していく「歪み」なのでしょうね。

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 - 社会

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