聞き書き怪談集

蒐集者の手帳

忘れられなかった十八の怪談

志那羽岩子

怪談を集めるつもりはなかった。

一つ聞くと、次の話が向こうからやってくる。
二年半で集めた十八の怪談を記録した手帳には、
いつの間にか、書いた覚えのない文字が増えていた。

Amazonで購入する(Kindle版 ¥550) Kindle Unlimited 対象外 / 約8万字・全18話+巻末解説

——まえがきより

体験者の証言が事実かどうかを、私は判断しない。確かめようもない。ただ、彼らが語る声のトーン、目の動き、言葉を選ぶときの沈黙——それらが嘘ではないことだけは、取材者として断言できる。

彼らは間違いなく、何かを体験した。 志那羽岩子『蒐集者の手帳』まえがき

十八の話。十八人の語り手。
一人の聞き手。

埼玉の団地で偶然聞いた一つの怪異譚をきっかけに、フリーライターの志那羽岩子は怪談の蒐集を始める。タクシー運転手、コンビニ店員、小学校教員、解体業者、気象観測職員——各地で出会った人々が、それぞれの体験を語る。

第一話

団地の角部屋

毎晩午前二時、壁の向こうから返ってくる自分の声。引っ越しても、それは追ってきた。

第三話

母のレシピ

亡き母のレシピノートに増えていく、見知らぬ字の料理。材料欄に書かれていたのは「娘の爪」「娘の髪」。

第五話

善意の人

高齢者施設のボランティア。彼が担当した入居者は、全員が穏やかに死んだ。全員が、同じ言葉を残して。

第七話

山の郵便局

冬季閉鎖中の郵便局に届き続ける手紙。差出人は四十年前の雪崩の犠牲者。中身は、穏やかな近況報告だった。

第十二話

連棟の隙間

解体した壁の中から出てきた、一人分の生活用品。歯ブラシ。スリッパ。布団を敷いた痕跡。そして、すべての部屋に向けて開けられた覗き穴。

第十五話

きょうだい

弟がいた。確かにいた。だが写真にも戸籍にも残っていない。母は泣きながら言った。「その子の話はしないで」。

——ほか、全十八話収録

この本には、仕掛けがある。

十八の話は、一話ずつ独立した怪談として読める。通勤電車の中でも、寝る前のベッドの中でも。

だが、読み進めるうちに気づく。各話の末尾に岩子が書き添える短いコメントが、話を重ねるごとに変質していく。冷静だった記録者の筆致に、感情が混じり始める。取材ノートの字が乱れていく。書いた覚えのないメモが増えていく。

午前二時。この時刻が、複数の話に繰り返し現れることに気づいた時、あなたはもう一度最初のページに戻りたくなるはずだ。

二度目に読むと、すべてが違う意味を帯びる。

これは十八の怪談を集めた本であると同時に、一つの長い怪談でもある。

最終話で、構造が反転する。

第十八話「蒐集者」。語り手は、志那羽岩子自身。

十七話分の取材ノートを読み返した岩子は、自分の手帳に書かれた一行の文章に気づく。自分の字で、自分が書いた覚えのない文章。

蒐集していたのは岩子だったのか。蒐集されていたのが岩子だったのか。

そして、手帳の最後のページに記された一文が——本という媒体を通じて、あなたのもとに届く。

今夜、午前二時に目が覚めたら——それが始まりだ。 第十八話「蒐集者」より

巻末に、編集者の手記がある。

本書の編集を担当したササハラセイスケが、各話の構造的意図と配列の設計思想を解説する。

読者が本文を読み終えた後に読むことを想定した、二度読みのための解説。十八話に仕込まれた伏線の接続先、反復と逸脱の設計、午前二時の意味。

そして解説の末尾に、編集者はいくつかの事実を記している。原稿を受け取った後に起きたこと。著者と連絡が取れなくなった六週間。添付されていた空のファイル——「第十九話」。

これは怪談ではなく、事実の記録です。

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蒐集者の手帳

忘れられなかった十八の怪談

志那羽岩子 著

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