★立川談志/疝気の虫

立川談志


疝気の虫(せんきのむし)は古典落語の演目の一つ。原話は、寛政8年に出版された笑話本・「即答笑合」の一遍である『疝鬼』。
主な演者には、初代三遊亭遊三や5代目古今亭志ん生、桂雀々などがいる。

あらすじ

見たことのない虫だなァ~、変てこな虫だから殺してしまえ。
「助けてください」虫が口を利いたのでビックリした。
「お前は何だ!」
「疝気の虫です」
「疝気と言えば、あの……男の下の病気のか?」
「そうです」。
「腹の中に虫がいるのか?」
「います。頭痛の虫、癪の虫、歯痛の虫(虫歯)、弱虫、泣き虫、浮気の虫、水虫。それぞれが静かにしていれば良いのですが、動き始めると大変です。浮気の虫が動くと、なんとなくソワソワします。虫の居所が悪いのは虫のせいで、虫を起こすのは子供だけでなく、大人も虫のせいでイライラしたり、癇癪を起こしたりします」。
「どのような時に動くんだ」
「夏の暑い晩に動きます。ムシムシしますから」。
「お前、疝気の虫はいつ動くんだ」
「私たちは蕎麦が来ると嬉しくなって、腹一杯食べて元気になって、そこら中の筋を引っ張るから、人間は痛がるのです」
「では嫌いなものは」
「唐辛子です。ワサビはその時はいやですが、溶けて流れるので大丈夫です。唐辛子はいけません、溶けないので体に着くとそこから腐ってしまいます。だから、その時は逃げて別荘に避難します」。
「別荘ってなんだ」
「下の金の袋です」
「それで腫れているか」
「あそこに居る限りどんなことが起こっても大丈夫なんです。じきに唐辛子が無くなると出ていって蕎麦をたらふく食べて、暴れます」。
「『ガン』なんてのもあるだろう」
「よくご存じで。でもその嫌いなものは言えません。仲間内のことは言えないんです」。
「おい、疝気の虫。どこ行ったんだ。……あ~ぁ~、夢か。疝気を治したいと思っていたから、こんな夢を見たのか」。
大先生が居ないので、書生が代脈で金杉橋まで往診に出かけた。
着くとご主人は苦しんでいたので状況を聞くと昼にお蕎麦を食べたという。

「私が治します。治療法を少し変えますから、蕎麦を多めに唐辛子をどんぶり一杯用意してください。蕎麦が来ましたら、奥さんが食べてその匂いをご主人に嗅がしてください」。
「お蕎麦が来ましたので、食べて良いんですね。私大好きですから、いただきます」。
「分かりました。アナタは食べてはいけないので、匂いだけ。はぁ~~」。
食べては、はぁ~~を繰り返していた。
別荘の疝気の虫は匂いにつられて上がってきたが、どこにも蕎麦はなかった。
よく見ると隣の口に蕎麦が流れ込んでいた。
虫たちは一・二の三で奥様の口の中に飛び込んで、喜んで蕎麦を食べ始めた。
踊りながら満腹になるまで食べ、力を付けて、そこら中の筋を引っ張った。
奥様は腹を抱えて苦しみだし、反対にご主人はケロリと治ってしまった。
苦しむ奥様に嫌がる唐辛子を飲ませると、騒いでいた疝気の虫たちはビックリして逃げ出した。
「別荘に逃げろ!」、「別荘に逃げろ!」……。
(別荘はどこにも無かった)。

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