世間一般、まだ旅行が特別な行事であった時代には家族、隣近所、あるいは自分自身にと土産物を買って帰ったものでした。そしてまた、隣近所からもよくいただくことがありました。
この頃はもう、一泊や二泊の旅行が日常のものとなって土産なんか買いはしないのですが、それでも時折いただき物が届きます。たいていは日持ちのする焼き菓子、干物の真空パック、珍味の瓶詰めなど、箱や包装の意匠を見れば、いかにもご当地の名産品であることが一目瞭然になっています。
何も詮索せずにありがたくいただいてしまえば心乱さずに済むものを、ひねくれの混じったわたしは、どういうものか箱の裏に張られたラベルに目が行ってしまうのです。そこには色々な情報が書き込まれていて、製造年月日、賞味期限、原材料、販売者、製造元、そして製造元の住所。それも販売者から遠く遠く遠く離れた、わたしの住所からのほうが近いぐらいの住所。
見知らぬ土地へ行くと平常の精神感覚を失ってしまい、土産物店の品物がことごとく意味のあるものに思えてくるから不思議です。というか、そういう心神喪失状態を作りだすように作られているのが土産物店の土産物なのでしょう。もっといえば、そういう精神撹乱状態を作りだすためにこそ旅行をするのかもしれません…
コメント