★柳家小さん(五代目)湯屋番

柳家小さん(五代目)

 

道楽の末、勘当中の若だんな、出入りの大工・熊五郎宅の二階に居候の身。
お決まりでかみさんがいい顔をしない。
飯も、お櫃を濡れしゃもじでペタペタたたき、平たくなった上っ面をすっと削ぐから、中ががらんどう。

亭主の熊は、ゴロゴロしていてもしかたがないから、奉公してみたらどうですと言い出した。
ちょうど友達の鉄五郎が、日本橋槇町で奴湯という銭湯をやっていて、奉公人を募集中だという。

若だんな、途端に身を乗り出し、

「女湯もあるかい」

「そりゃあります」

「へへ、行こうよ」

紹介状を書いてもらい、湯屋にやってきた若だんな、いきなり女湯へ飛び込み

「こんちわァ」

度肝を抜かれた主人が、まあ初めは外廻りでもと言うと、札束を懐に温泉廻りする料簡。

木屑拾いとわかると
「色っぽくねえな。汚な車を引いて汚な半纏汚な股引き、歌右衛門のやらねえ役だ」
それじゃ煙突掃除しかないと言うと
「煙突小僧煤之助なんて、海老蔵のやらねえ役だ」と、これも拒否。

狙いは一つだけ。
強引に頼み込んで、主人が昼飯に行く間、待望の番台へ。
ところが当て外れで女湯はガラガラ。
見たくもない男湯ばかりウジャウジャいる。
鯨のように湯を吹いているかと思えば、こっちの野郎は汚いケツで、おまけに毛がびっしり。

どれも、いっそ湯船に放り込み、炭酸でゆでたくなるようなのばかり。
戸を釘付けにして、男を入れるのよそう、と番台で、現実逃避の空想にふけりはじめる。

女湯にやってきたあだな芸者が連れの女中に
「ごらん。ちょいと乙な番頭さんだね」と話すのが発端。

お世辞に糠袋の一つも出すと「ぜひお遊びに」とくりゃあしめたもの。

家の前を知らずに通ると女中が見つけ、
「姐さん、お湯屋の番頭さんですよ」
呼ぶと女は泳ぐように出てくる。

「お上がりあそばして。今日はお休みなんでしょ」

「へい。釜が損じて早仕舞い」じゃ色っぽくないから、「墓参りに」がいい。

「お若いのに感心なこと。まあいいじゃありませんか」
「いえ困ります」番台で自分の手を引っ張っている。

盃のやりとりになり、女が「今のお盃、ゆすいでなかったの」と、すごいセリフ。
じっとにらむ目の色っぽさ。

「うわーい、弱った」
「おい、あの野郎、てめえのおでこたたいてるよ」
そのうち外はやらずの雨。

女は蚊帳をつらせて「こっちへお入んなさいな」ほどよくピカッ、ゴロゴロとくると、女は癪を起こして気を失う。
盃洗の水を口移し。

女がぱっちり目を開いて「今のはうそ」ここで芝居がかり。

「雷さまは恐けれど、あたしのためには結ぶの神」
「ヤ、そんなら今のは空癪か」
「うれしゅうござんす、番頭さん」
ここでいきなりポカポカポカ。

「何がうれしゅうござんすだい。馬鹿、間抜け。おらァけえるんだ。下駄を出せ」
犬でもくわえていったか、下駄がない。

「そっちの本柾のをお履きなさい」
「こりゃ、てめえの下駄か?」
「いえ、中のお客ので」
「よせやい。出てきたら文句ゥ言うだろう」
「いいですよ。順々に履かせて、一番おしまいは裸足で帰します」

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