ねずみは、落語の演目の一つ。左甚五郎が登場する落語の一つである。
元々は浪曲の演目。2代目広沢菊春の得意ネタだった「左甚五郎」を3代目桂三木助が「加賀の千代」と交換して演じたのが始まりとされる。
あらすじ
奥州仙台の宿場町。ある旅人が、宿引きの子供に誘われて鼠屋という宿に泊まる。
そこはとても貧乏で布団も飯もろくになく、腰の立たない主と十二歳の子供の二人だけでやっているという貧しい宿だった。
聞くと、主の宇兵衛は元々、向かいにある虎屋という大きな宿の主人だったが、五年前に妻に先立たれ、迎えた後妻は腰を悪くした宇兵衛とその子に辛く当たり、番頭とつるんで虎屋を乗っ取ってしまったという。
追い出された宇兵衛は物置小屋を仕立ててなんとか宿をこしらえ、その物置に棲んでいたネズミにちなんで現在の鼠屋を構えたのだった。
これを聞いた旅人は、自らがかの名匠左甚五郎だと明かす。
彼は木片でねずみを彫り上げ、繁盛を願ってそれを店先に置いてやり、帰っていった。
するとなんと、その木彫りねずみがまるで本物のねずみのように自分で動き回りはじめた。
この噂が広まるやいなや、鼠屋に泊まればご利益があるとして部屋に収まり切らないほどの客が入り、見る見るうちに鼠屋は大きくなっていった。
一方向かいの虎屋は、鼠屋が繁盛するにつれて前の主人を追い出した悪行を吹聴され、客足が途絶えていく。
腹を立てた虎屋の主人は鼠屋に対抗して、仙台の巨匠に虎を彫らせることにした。
巨匠は取るだけ金を取って実は弟子に彫らせていたが、主人はそれを鼠屋のねずみを見下ろすようにして店先に飾った。
すると途端にねずみは動かなくなってしまった。
しばらくして、それを知った左甚五郎が再び鼠屋を訪れる。
自分が彫ったねずみは、虎に怯えたように顔を伏せ、じっとして動かなくなっていた。
しかし甚五郎には、虎屋の店先の虎はとても出来損ないの彫刻に見えた。
顔はひどく弱気そうで、額に虎を示す王の字の模様もない。
「ねずみよ、俺は魂を込めてお前を彫った。なぜ、あんなおかしな顔の虎に怯える?」
すると、ねずみはふと振り返って、
「え、あれ虎だったの? 猫かと思ってた」
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