★三遊亭圓生(六代目)百年目

三遊亭圓生(六代目)

あらすじ

大店(おおだな)の旦那は番頭に店を任せて商売には口を出さないと言うのが見識だったようで、大きな商店の番頭は、大変な権力があったが、また使われる身だから自由な事は出来なかった。

ある、お店(たな)の大番頭が、下の者から順に小言を言っている。
鼻に火箸をつっこんでチリンチリン鳴らすな。コヨリはまだ出来ていないし鹿を作って遊んでいるな。手紙は下の物に頼まず自分で出してきなさい。本は店先で読むな。芸事の本を懐に忍ばして居ないで仕事に精出しな。二番番頭が夜遊びしてきたのを叱って
「私は料理屋の階段はどっち向いているか分からないし、ゲイシャってぇのは、何月頃着る紗(しゃ)だ?。幇間とは煮て食うのか、焼いて食うのか?。ぐぅ、と言えるものなら、言ってみなさい」
二番番頭たまらず「ぐぅー」。

ひと通り小言が終わると、ちょっと得意先へと言って苦虫を噛み潰した様な顔をして外へ出て行った。 まもなく幇間が路地から現れ早く来てくれと伝言。先に行かせて、一軒の駄菓子屋に入り用意してあった上質の粋な着物に着替えて柳橋へ。

そこには幇間と芸者衆が待ちかねていて、屋形船を出して花見と言う事になっていた。大番頭は誰かに見つかるとまずいので障子を締め切っていたが、吾妻橋にさしかかると酔いも手伝い花見時分で暑苦しくなった。障子を開けると春爛漫の花景色。芸者衆は上へあがって花見をしたいと言い出した。
大番頭は渋るが、幇間の提案で扇子を手ぬぐいで頭に留めて顔を隠して上がることに。酒も入って芸者衆と目隠し鬼をやってみると、船の中で殺して飲んでた酒がいっぺんに出て大騒ぎになった。

その頃、大旦那は幇間医者の玄鉄を連れて隅田堤に花見に来ていた。
「お前さんは芸者なんか追い掛けて何をバカなと思うでしょうが、…あれがなかなか面白いんですよ」
「あの三味線に乗って踊りながら芸者衆を追い掛けているのは、お宅の番頭さんに似てませんかね」
「硬すぎてあんな器用なことができる訳がない。あれはね、そうとう遊び慣れた人じゃないと…」
と言っていると、酔っぱらいが近づいて来て掴まってしまった。

番頭は目隠しを取って驚いたのなんの。世の中で一番逢いたくない、怖い人が立ってる。 一間ほど飛び下がりへなへなと座して
「どうもお久しぶりで、いつもお変わりございませんで。ご無沙汰を…」
大旦那は「楽しく遊ばせてやって下さい」と芸者衆に言付けて、行ってしまった。

大番頭は真っ青になって店に帰り、風邪だからと早々と床に着いた。
旦那にどんなにひどく怒られるか、あるいはクビになるかも知れないと、怖くて寝る事が出来なかった。

次の日、大旦那に呼ばれた。身を縮めてかしこまっていると、
「一軒の主を旦那と言うが、その訳をご存じか」
「いえ」

それは、『五天竺の中の南天竺に栴檀(せんだん)と言う立派な木があり、その下にナンエン草という汚い草が沢山茂っていた。ある人がナンエン草を取ってしまうと、栴檀が枯れてしまった。
後で調べると栴檀はナンエン草を肥やしにして、ナンエン草は栴檀の露で育っていた事が分かった。栴檀が育つとナンエン草も育った。栴檀の”だん”とナンエン草の”ナン”を取って”だんなん”、それが”旦那”になった。』という。

こじつけだろうが、私とお前の仲は栴檀とナンエン草で上手くいっているが、店に戻ってお前は栴檀、店の者がナンエン草、栴檀は元気がいいがナンエン草は元気が無い。少しナンエン草に露を降ろしてやって下さい。

子供の頃は見込みがなくて帰そうかと思ってた子が、こんなに立派になってくれて。お前さんの代になってからうちの身代は太った。
ありがたいと思ってますよ。だから、店の者にも露を降ろしてやって下さい。

話は違うが、昨日は面白そうだったね。自分の金で遊んでいるか、商売で遊んでいるか、見れば分かるが、これからも商売の為なら、どんどんお金を使ってください。使ってないと商売の切っ先が鈍ることがある。

ところで、貴方は眠れましたか。あたしも眠れませんでしたよ。
今まで番頭さんに一切を任せてましたけどね、昨晩初めて店の帳面を見させてもらいましたよ。ありがとう。いや恐れ入ったよ、少しのスキもない。
あたしも悪かったんだよ。お前さん、店に出ればもう立派な旦那だ。
ちゃんと暖簾分けをしてやりたいと思っているんだが、お前さんがいるとつい安心でズルズルきてしまった。
あと 1年だけ辛抱しておくれ。そうしたら店を持たせて暖簾分けを必ずするから。それまで辛抱しておくれよ。お願いしますよ。

話はここまでだが、お前さんは不器用な人だと思っていたが、昨日踊りを見た時は驚いた。それから、昨日逢った時、
「『どうもお久しぶりで……、お変わりございませんで……』とか、一つ家の中にいて、たいそう逢わなかった様な挨拶をしたが……」 、

「へぃ、硬いと思われておりましたのが、あんなざまでお目に掛かりまして、あぁ、これが百年目かと思いました」。

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