★古今亭志ん生(五代目)五人廻し

古今亭志ん生(五代目)


関東の遊郭には「廻し」という制度がある。
一人の遊女が一度に複数の客の相手をするのであるが、遊女の嫌な客になると長時間待たされたり、ひどいのにはちょっとしか顔を見せない「三日月振り」とか、全く顔を見せない「空床」「しょいなげ」。
来てもすぐ寝る「居振り」などがあるので、客はたまらない。

しばしばもめ事が起こってしまう。
そんな客の苦情を一手に引き受けるのは、「若い者」「妓夫太郎」(ぎゅうたろう)と呼ばれる男性従業員である。
吉原のある遊郭、遊びは終わって、客と遊女が床にはいる大引け(午前2時ごろ)も過ぎたころ、若い者は、客たちからお目当ての遊女が来ないと文句を言われて四苦八苦である。

一人目の客からはさんざん毒づかれて、吉原の由来まで聞かされた揚句、
「ぐすぐすしてやがると、頭から塩かけてかじっちゃうぞっ!!」と一喝される。
「少々御待ちを願います。ええ、喜瀬川さんえ」と汗だくになって遊女を探しているが、二人目の客に「ちょいと廊下ご通行の君」と呼ばれる。

今度は薄気味悪い通人で、ねちねちと責められ、「君の体を花魁の名代として拙に貸し給え。」と迫られ、焼け火箸を背中に押しつけられそうになる。
ほうほうの態で逃げ出すと、三人目の客に捕まる。
権柄づくの役人で「小遣!給仕!」と呼ばれ、さんざん文句を並べて
「この勘定書きに、娼妓揚げ代とあるがね。オイ、こら何じゃ。相手が来んのに揚げ代が払えるか。法律違反じゃよ。」と責められる。

「へえ。お待ちくださいまし。」と逃げだせば、四人目の客が「若けえ衆さあん。若へえ衆さあん。ちょっくらコケコ!」と呼んでいる。
「鶏だね。どうも。・・・へい。何でげす。杢さんじゃありませんか。」見れば馴染みの田舎客である。

だが、この田舎客も前の三人と同じ苦情を並べたて
「ホントにホントにハア。ホントにイヤになりんこ。とろんこ。とんたらハア。トコトンヤレ、トロスク、トントコオ。オウワアイ!」
と意味不明の叫びをあげて若い者を呆れさせる。

そんな騒ぎをよそに遊女の喜瀬川はお大尽と遊んでいるが、若い者の知らせにお大尽の方が気にして
「おい。花魁。どうも困ったことじゃな。ワシが揚げ代を他の四人に渡してやるちゅうに、帰ってもらうべえ。」

「じゃあ、わちきにもお金をくんなまし。」

「お前に銭こ渡してどうする。ほれ。」

「ありがと。じゃ、このお金を主さんに上げますから、四人と一緒に帰ってくんなまし。」

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