柳生流奥義の伝書を持つ恒川半三郎と、その剣の弟子で家臣の草三郎(安中草三)。
二人は、土浦藩士として10石2人扶持で、つつましく暮らしていました。
半三郎は、才色兼備の誉れの高いりえを娶りますが、藩の重役、久保田傳之進が、りえに横恋慕し、半三郎は、ことごとく辛く当たられ、万座の中で恥をかかせられます。
半三郎は、追い込まれて、ついに傳之進を討ち果たすのですが、これにより、恒川家は、お家断絶、半三郎は切腹をしなければならない状況になりました。
これを聞いた妻のりえは、
「私を殺してください。そうすれば、御家も、ご主人様も、おとがめを受けません」と言って、傳之進との間の不義密通を装う偽の手紙を書きました。
そして、このりえを救おうと、家臣の草三郎が、自分で罪をかぶり、自ら牢に入ります。
草三郎は、この牢で兇賊の白蔵と知り合います。
牢の中で、白蔵と話すうちに、草三郎の母親のおよしさんが、針仕事で仕えている上州の親分と白蔵が、親しい間柄であることを知ります。
そして、母親のその後の消息を聞くうちに、母は、息子(草三郎)が、殺人を犯したため、上州のその村にいられなくなり、小さい子供を連れて、村を去っていったことを知ります。
ここで、草三郎は、母親に、真実を話したいと思うようになります。
すなわち、「自分は、母親と約束した通り、主君を敬い、命を掛けて主君を守ろうとしたのです。」
「殺人は、主君の身代わりで、牢に入ったのです」
と、母親だけには、正しく伝えておきたいと思うようになったのです。
その母恋しさから、牢の外へ出たいという思いが募っていたため、白蔵にそそのかされて、結局、二人で牢を破ることになりました。
ここでは、まだ、純情な青年だった草三郎が、悪党の白雲の白蔵に
「おまえは可愛想だ、お袋に会わせてやろう。牢を出るのは簡単なのだ」と、そそのかされて、牢破りという重罪をおかすことになる心の動きの語りが、聞きどころです。
大雨の日、牢を破った二人は、ゴウゴウと音を立てて渦巻く、堀の中に飛び込みました……
コメント