●あらすじ
江戸を食い詰めた梅吉と初五郎の二人連れ。
道中で路銀が底をつき、水ばかり飲んで腹は大シケという、餓死寸前の大ピンチ。
とある古寺に、地獄にホトケとばかり転がり込む。
いざとなればタコの代わりくらいにはなるから、坊主でも食っちまおう、というひどい料簡。
やっと食い物にありついたと思ったら、先代住職の祥月命日とやらで、精進物(しょうじんもの)の赤土と藁(わら)入り雑炊を食わされる。
これで左官をのみゃあ、腹ん中に壁ができらァという大騒ぎの末、同情した和尚の勧めで、先の当てもないこともあり、しぶしぶ出家して、この寺に居候同然の身とはなった。
梅坊、初坊と名を変えた二人、ひっきりなしにこき使われ、飲酒も女郎買いも厳禁というひどい境遇に、はや不満たらたら。
その折も折、和尚が京都の本山に出張で、一月は帰れないという。
留守番を頼まれた梅と初、さあこの時とばかり、
「それ酒だ」
「網がねえから麻衣で鯉をとってこい」
「金がなきゃァ阿弥陀さまから何から一切合切 売っ払っちまえ」
というわけで、飲めや歌えのドンチャン騒ぎをし始める。
そこへやって来たのが檀家(だんか)の衆。
近在の大金持ち、万屋(よろずや)の金兵衛が死んだので「葬式をお願え申してェ」と言う。
「どうしよう、兄貴、経も読めねえのに」「なに、かまうこたァねえ。経なんざイロハニホヘトでゴマけて、どさくさに香典かっつァらってずらかっちめェ」
りっぱな坊主があったもので、香典目当てに金兵衛宅に乗り込んだ二人、さっそく怪しげな読経でケムにまく。
「いーろはーにほへと、富士の白雪ャノーエ、おてもやーん、チーン」
なんとかかんとか終わったはいいが、どうぞ戒名をいただきたいと言われて、さあ困った。
「何か字のあるものは…」と探すと、和尚の部屋を掃除していてたまたま見つけた薬の効能書き。
「あー、戒名、官許伊勢朝熊霊法万金丹」
「坊さま、こんな戒名聞いたことがねえ」
「なに、上等だ。ホトケのニンにあってらあな。棺の前で経を読むからカンキョ、生きてるときは威勢がいいが死んだら浅ましくなるから、イセイアサマ、死んだら幽霊になるから霊宝、おまけにホトケが万屋金兵衛だから万金だァ。何? 屋根から転がり落ちて死んだ? それならゴロゴロゴロゴロ落っこったんの丹だ。…リッパなカイミョウじゃねえか」
「それじゃあ、わきに白湯にて用うべしとあるのは何だね」
「このホトケはお茶湯をあげるにゃ及ばねえ」
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