お崎という女が、働きもせずに酒ばかり飲んでいる亭主に愛想を尽かして仲人のところへ相談にやってきた。仲人はそんな亭主なら別れてしまったらどうかとお崎を諭すのだが、情があるのかどうにも決心がつかない。そこで仲人が話して聞かせたのが二つの話。
ある日、孔子という学者が散歩から帰ってくると、馬小屋(厩)がすっかり焼け落ちていた。聞けばあれよという間に火の手が上がり、可愛がっていた白馬も焼け死んでしまったという。しかし孔子は馬よりも弟子のことを心配し、弟子たちもこの人なら一生ついていけると感激したという。
一方、麹町の旦那が大事にしていたのはセトモノの鉢。ある時奥方が皿を運んでる折にうっかり足をすべらせて階段から転げ落ちてしまった。皿は無事だったものの、旦那は奥方を心配せずに皿の心配ばかり。話を聞いた奥方の両親はこんな旦那の元に娘は置いとけないと、二人を別れさせてしまい、旦那は晩年を寂しく過ごしたという。
仲人はそれになぞらえて、亭主の大事なものを壊してみて、お崎のことをどう思ってるのか試してみればいいともちかける。なるほどとばかり、さっそくお崎は亭主の前で大事にしていた皿を持ち出し大げさに転んで皿を割ってやった。亭主は孔子なのか麹町なのか、お崎が待ち望んでいると、「大丈夫か」と優しい亭主の言葉。皿より自分のことが大事なのかと尋ねてみると、亭主は涼しい顔で
「働き手のおまえが怪我をしたら、明日から遊んでいても酒が飲める生活ができなくなってしまう」
夫婦どつき漫才でコンビを組む上方まりも(清水ミチコ)まりお(古田新太)の二人が谷中家の食卓についていた。聞けば彼らは谷中正吉(西田敏行)と小百合(銀粉蝶)夫妻が仲人を勤めたのだという。まりおは酒に酔って暴力事件を起こしており、つい先ごろ出所して東京でやり直そうと正吉を頼ってやってきた。そうとは知らずに竜二(岡田准一)はまりおに酒を飲ませ、また暴力事件を起こして逮捕されてしまう。それも手伝ってか、どつき漫才とはいえ日がな叩かれてばかりのまりもは、まりおはもう自分のことなんかなんとも思っていないのではと疑いはじめる。
保釈されたものの、まりもに合わせる顔のないまりおは、ライブの予定もあるというのに一人大阪に逃げようとする。だが道中でまりもが癌だと告げられ、いてもたってもいられなくなりライブに出ることを決意する。しかしまりもの体を気遣い、どつき漫才も気が気じゃない。意気消沈したまりおを見て、まりもは全てが嘘だったことを明かして漫才より自分のほうが大事なのかと尋ねる。するとまりおは、騙された悔しさ半分、嘘だったことの嬉しさ半分で「当たり前だ。女房が死んだら遊んでいて酒が飲めない」と、またまりもをどつくのだった。
全ては、まりおとは通ずるところがあり、夫婦をほうっておけない虎児(長瀬智也)が考えた芝居のはずだったのだが…
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