あらすじ
大晦日だというのに、女房がむだ遣いしてしまい、やりくりに困っているだんな。
ぶつくさ言いながら帳簿をつけていると、縁の下で、なにやらゴソゴソ。
いわゆる「もぐら」という泥棒で、昼間のうち、物乞いに化けて偵察しておき、夜になると、雨戸の敷居の下を掘りはじめる。
ところが、昼間印をつけた桟までの寸法が合わず、悪戦苦闘。
だんなが
「ええと、この金をこう融通してと、ああ、もう少しなんだがなあ」とこぼしていると、下でも
「もう少しなんだがなあ」
「わずかばかりで勘定が追っつかねえってのは、おもしろくねえなあ」
「わずかばかりで届かねえってのは、おもしろくねえなあ」
これが聞こえて、かみさんはなにも言っていないというので、おかしいとヒョイと土間をのぞくと、そこから手がにゅっと出ている。
ははあ、こいつは泥棒で、桟を弾いて入ろうってんだと気づいたから、
「とんでもねえ野郎だ。こっちが泥棒に入りたいくらいなんだ」
捕まえて警察に突き出し、あわよくば褒賞金で穴埋めしようと考え、そっと女房に細引きを持ってこさせると、やにわに手をふん縛ってしまった。
泥棒、しまったと思ってももう遅く、どんなに泣き落としをかけてもかんべんしてくれない。
おまけにもぐり込んできた犬に小便をかけられ、縁の下で泣きっ面に蜂。
そこへ通りかかったのが廓帰りの男で、行きつけの女郎屋に三円の借金があるのでお履物を食わされた(追い出された)ところ。
おまけに兄貴分に、明日ぱっと遊ぶんだから、それまでに五円都合しとけと命令されているので、金でも落ちてないかと、下ばかり見て歩いている。
「おい、おい」
「ひえッ、誰だい? 脅かすねえ」
「大きな声出すな。下、下」
見ると、縁の下に誰か寝ている。
酔っぱらいかと思うと、
「ちょっとおまえ、しゃごんで(しゃがんで)くれねえか。実は、オレは泥棒なんだ」
一杯おごるから、腹掛けの襷の中からがま口を出し、その中のナイフをオレに持たしてくれ、と頼まれる。
「どこんとこだい? ……あ、あったあった。こん中に入ってんのか。へえ、だいぶ景気がいいんだな」
「いくらもねえ。五十銭銀貨が六つ、二円札が二枚、みんなで五円っかねえんだ」
五円と聞いて男、これはしめたと、がま口ごと持ってスタスタ。
「あッ、ちくしょう、泥棒ーう」
コメント