あらすじ
彦根の城主井伊氏のご家来で柳田格之進という文武両道に優れ品性正しく潔癖な浪人がいた。
正直すぎて人に疎まれて浪人をしていた。
浅草阿倍川町の裏長屋に娘”きぬ”と二人で住んでいた。
娘の助言で碁会所に顔を出すと、馬道一丁目に住んでいる質屋、万屋源兵衛と気が合っていつも二人で対局をしていた。
それなら私の家でと言うことになり、万屋源兵衛の家のはなれで指すようになっていた。
終わると二人は一献傾けて楽しんでいた。
そのような毎日を過ごしていたが、8月15日、中秋の名月十五夜の晩に月見としゃれながら夢中で指して、一杯ご馳走になり帰ってきた。
万屋源兵衛の店ではその晩に集金したばっかりの50両の金子が紛失した。
二人が指している時に無くなったのだから、相手の柳田様が「もしかしたら・・」と番頭が言うのを振り切って話を納めた主人だが、収まらないのは番頭・徳兵衛。
番頭の一心で、翌日柳田の長屋を訪ねて、事の次第を話し、
「もしかしたら柳田様がご存じかと・・」
「拙者が盗んだというのか」「思い違いではと・・」
「私はどんなことがあっても、人の物を盗むという事はない!」
「お上に届けて裁いてもらいますが・・」
「それでは私が50両作りましょう。明日昼に来なさい」
番頭が帰った後、娘の忠告で「裁きになれば潔白は晴れるが、その汚名は拭えないので、腹を切る」と言うところ、
「私が身を沈めてお金を作ります」。
翌日番頭に50両を渡し
「その金ではないので、後日金が出たらどうする」
「そんなことはないが、その時は私と主人源兵衛の首を差し上げます」
その事を源兵衛に報告すると、源兵衛は謝りに番頭を連れて安倍川町の裏長屋に来てみると、すでに柳田は家を引き払った後であった。
落胆して戻る源兵衛。
店の者にも、出入りの者にも頼んで柳田を捜したが見つからなかった。
煤払いの日、額縁の裏から50両が出てきた。「そうすると、あの柳田様の50両は…」。
どんなことがあってもと源兵衛は柳田様を捜させた。が、その年は見つからなかった。
年が改まって、4日、山の手の年始挨拶に番頭は出入りの頭を連れての帰り道、雪が降り始めた湯島の切り通しにさしかかった。
籠屋をいたわって歩いて坂を登ってくる侍がいた。蛇の目傘の内の贅沢なこしらえが目に止まって、見とれてやり過ごそうとした。
その時、侍から声をかけられた。その侍が柳田格之進であった。
今では300石に取り上がられている。「湯島の境内に良い店があるから」と連れて行くが番頭は閻魔様に連れて行かれるようで人心地もしない。
店で50両が見つかったことを話し、許しを請うが、明日昼頃万屋に伺うので、体をよく洗って置けと言い残す。
翌朝、源兵衛は番頭を使いに出して、柳田を迎え非礼を詫びたが、使いに出ないで待っていた番頭は
「私がしたことだから」と主人をかばうが、娘の手前勘弁出来ないと二人を並べて切り捨てる。
床の間の碁盤が真っ二つになって二人は一命を取り留めた。二人の主従の真心が心に響いて手元が狂った。
さっそく、半蔵松葉から”きぬ”さんを身請けしてきて、娘に詫びたが、娘も父上の為ならと快く応じた。
前よりも柳田と源兵衛は深い付き合いをするようになった。
番頭の徳兵衛ときぬは夫婦となり万屋の夫婦養子になりめでたく収まったが、二人は仲が良くてまもなく男の子を産んだ。
その男の子を柳田が引き取り、家名を継がせた。
柳田の堪忍袋の一席でした。
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