天才バカボンを生んだ赤塚不二夫のちょっとイイ話
ギャグ漫画の王様、赤塚不二夫の型破り人生!
六つ子が主人公の名作「おそ松くん」
その成長した姿を描いたアニメ「おそ松さん」が大人気です。
その「おそ松くん」の作者こそ、ギャグ漫画の王様、赤塚不二夫先生(享年72歳)。
「天才バカボン」や「ひみつのアッコちゃん」など、大ヒット作を世に送り出しました。
赤塚先生が生んだギャグと言えば、『シェー』ですが、
当時、球界のスター・長嶋茂雄さんをはじめ、
ビートルズのジョン・レノン、
さらにはゴジラまで真似するほどの大きな社会現象になりました。
赤塚先生の一人娘で、父との思い出を綴った本、
『バカボンのパパよりバカなパパ』の著者でもある、
フジオ・プロ代表の赤塚りえ子先生が、天才漫画家の知られざる全貌を教えます!
赤塚作品の特徴と言えば、斬新なギャグ。
自分の作品に、他の作者のキャラクターである「オバケのQ太郎」や、「ゴルゴ13」などを登場させるのは序の口。
さらには、絵がゆがんでいる回があるのですが、なぜだと思いますか?
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それは……「左手で描いたから」
注目はその理由、「アシスタント全員、右手を骨折してしまいました」。
もちろん、これも赤塚ギャグ!
そんな天才・赤塚不二夫の斬新すぎる発想術と、意外な素顔……。
原稿を無くした編集者を号泣させた、その感動的な名言とは?
一人娘が明かす、ギャグ漫画の王様、赤塚不二夫の型破り人生をご紹介します!
赤塚不二夫のスゴイ所①「実験的な手法」
【問題】 赤塚不二夫が天才バカボンで使った、あるものを逆にする斬新な手法は?
【正解】は、「絵と文字を逆にした」
”なんだい?”を、大きな南という文字で描いています。
”ラーメンを食いたい”を、ラーメン、馬の尾、数字の9、頭を殴られ痛い、と絵にしています。
他にも、2ページを使って、史上初の実物大マンガ!
【問題】 赤塚不二夫が斬新な表現で生み出した、「史上最もイライラする漫画」とは?
【正解】は、「コマが順番に進まない漫画」
実際の漫画では、A、Bときて、Cは3ページ先に描いています。
するとCのコマでは、2ページ前のAへつづくと書いてあります。
そんな風に、何度もページを行ったり来たりして、イライラする構成になっています。
常識を壊して、新しいことで読者を楽しませたい一心で、毎週取り組んでいたそうです。
いきなり、身体が線だけになってみたり、ものすごいちっちゃいコマで描いたりもしました。
赤塚不二夫のスゴイ所②「超効率的な執筆術」
多い時で、週刊・月刊合わせて、12本の連載を抱えていた赤塚先生は、膨大な仕事量をこなすために、次々と効率的な描き方を生み出していきます。
例えば、ストーリーは、編集者やアシスタントと一緒に会議で決め、描くのも、下書きまで描いたら、ペン入れは全てアシスタントに任せていました。
また、洞窟に入るシーンで、吹き出し以外は全て黒塗りで済ませ、描く手間を削減。
さらには、読者が描いたイラストを切り貼りしただけで、丸々1話作ってしまいました。
【問題】 天才バカボンにある、編集長の度肝を抜いた「究極の手抜きの回」とは?
【正解】は、「最後の2コマ以外、先週号と全く同じ漫画」
その号のタイトルは、「前回とほとんど同じなのだ」
1ページの1コマ目から、ずーっと先週号と全く同じで、最後の2コマだけが違うという、まさに究極の手抜き作品です。
もちろん、手抜きの要素もあるのですが、アイディア重視の一石二鳥的なギャグでした。
全部のコマに、「ナシ、ナシ、ナシ」と描いたのが1ページとか、スキー場から描いていて、真っ白な雪ですと言って何も描いてなかったり。
赤塚作品・名場面
天才バカボン、「父の日の宿題なのだ」
父の日の宿題に、パパの似顔絵を描くバカボン。
うまく描けなくて落ち込むバカボンに、似顔絵と同じ顔に整形してきたパパ。
傷ついた子どものためなら、自分はどんな犠牲も払ってもかまわない、父親の深い愛情を描いた異色の名シーンです。
赤塚不二夫のスゴイ所③「究極の気づかい」
破天荒なエピソードに事欠かない赤塚先生。
しかし、その一方で、実は非常に真面目。
ふざけた態度は、周りを楽しませたいという、サービス精神の表れでした。
そんな赤塚先生の優しさを表すエピソードが……。
夜10時すぎまで、天才バカボンの原稿を待っていた、担当編集者の五十嵐隆夫さん。
ところがその1時間後、五十嵐さんが、「先生の大切な原稿をなくしてしまいました」と戻ってきて、謝りました。
翌日の編集会議のことで頭がいっぱいで、原稿を忘れてタクシーを降りてしまったのです。
「本当の締め切りはいつ?」と聞く赤塚先生。
「明日の昼過ぎまで印刷所に持って行けば、間に合わなくもないのですが、さすがにもう……」(五十嵐さん)
「よし、もう1回描こう!」(赤塚先生)
そして時計を見て、「まだ時間あるな、どうだ、飲みに行くか?」と五十嵐さんを誘いました。
飲んでも笑ったりすることができない五十嵐さんに、一生懸命ギャグを飛ばして、五十嵐さんを勇気づけようとする赤塚先生でした。
そして翌朝、スタッフ総出で一心不乱に作業し、締め切りギリギリの時間に、「どうだ、間に合っただろ」と原稿を渡す赤塚先生。
「ありがとうございます!」(五十嵐さん)
そして、あまりにもかっこいい一言!
「2度目だから、もっとうまく描けたよ」(赤塚先生)
[五十嵐さん談]
「その時は、涙が出て、本当に嬉しかったです。『漫画の師匠』でもありましたけど、『人生の師匠』でもありました。」
多くの破天荒なギャグを生み出した赤塚先生は、よくこう言っていました。
「常識人でないと、ギャグは生み出せないんだよ」(赤塚先生)
常識がわかるからこそ、常識のどこを壊せばギャグになるかが分かっていました。
だからこそ、意図的に壊そうとしていたのですね。
赤塚不二夫先生の深イイ~話でした。
[出典:2016年3月5日放送の「世界一受けたい授業」]
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