★立川志らく/青菜

立川志らく


あらすじ

初夏のさわやかなある日、隠居が出入りの植木屋と話をしている。植木屋はすっかり仕事を終えて片付けようとしているところ。

「ああ、御苦労さんじゃな。植木屋さん、こっち来て一杯やらんかいな。」

「へえ。旦那さん。おおきにありがとさんでございます。」

「一人で飲んでてもおもろあらへん。植木屋さん相手に一杯飲もうと用意してましたのじゃ。どや、あんた柳蔭飲まんか。」

「へっ! 旦那さん、もうし、柳蔭ちゅうたら上等の酒やおまへんか。いただいてよろしいんで?」

「遠慮せんでよろし。こうして冷やしてました。さあ、注いだげよ。」

「こら、えらいありがたいことでおます。」と、柳蔭(上等の味醂酒)を御馳走になり、
「うわあ、いい酒でんなあ。」とすっかりいい気分のところへ、ご隠居は「鯉の洗い食べてか。」と鯉の刺身を勧める。

植木屋は「へえっ! こらえらいもんを! 鯉ちゅうたら、もうし、大名魚言うて、わたいらのようなもん、滅多に食べられまへんで。」とこれまた鯉も御馳走になる。

旨い酒に上等の料理をよばれると今度は「青菜食べてか。」

「へえっ!こらまたえらいもんを! 青菜ちゅうたら、もうし、大名菜言うて……。」

「そんなアホなこといいなや。そんなら待ってや。」と隠居手を叩いて「奥や! 奥や!」と声をかける。

次の間から来た奥方に青菜を出すように言う。

ほどなく出てきた奥方が「鞍馬から牛若丸が出でまして名も九郎判官」「ああ、義経。」
いぶかる植木屋に

「これは、もう食べてもて青菜がないのやが、お前はんの前で言うのはみっともないよって、名(菜)も九郎(食ろう)判官としたのや。そこでわしもよしとけ(義経)と、洒落言葉で言うた訳じゃ。」

隠居の粋なやりとりに感心した植木屋は「そんなら、うちのカカにも言わせますわ。」と、飛んで家に帰り、嫁に隠居のいきさつを語って、
「お前もこんなことできるか」

「何やねん。それくらい屁ェで言うたるわ。」

「言うたな。もうすぐ大工の竹が来るから。用意しとけ。」と急ぎ酒肴を用意させ、隣の部屋がないので嫁を押し入れに入れてしまう。

おりしもやってきた友人に
「ああ。植木屋はん。」

「何いうとんねん。植木屋、おまえやないか。俺は大工や。」

「あんた、柳蔭飲んでか。」

「えっ!? お前ええのン飲んでるやないか。ご馳走になるわ……。これ、濁酒やないかい。」

「ああ。さよか。」

「ああ、さよかて、お前なんか変なもん食うたんか。」

「ああ、植木屋はん。」

「植木屋ちゃうて。」

「あんた鯉の洗い食べてか。」

「えっ!? お前そんなん食うてんのか。ふだんから金ない言うといて……。どれどれ……。おい! これおからやないか!」

「ああ、さよか。」

「あんなんばっかしや。」と、植木屋、自分がされたとおりにいくが、なかなかうまくいかない。

ようよう、「あんた、青菜食べてか。」にこぎつくが、「わい、青菜嫌いや!」とにべもなく断られる。

「おい、そんなこと言うてんと御馳走になるて、言うてな。」と泣きだすので

「何や。何かのまじないか。そんならよばれるわ。」

「さよか。奥や! 奥や!」植木屋うれしそうに手を叩く。

嫁が押し入れから「はい旦那さん。」と飛び出すので「何や、ここの家は!?」と友人腰を抜かす。

「あれ!? 嫁はん又、押入れ入って行きよったで。けったいな家やで。あっ! また出てきた、うわぁ、でぼちんに汗かいとるがな。何か言うてるで。聞いたり、聞いたり。」

と友人があきれる中、嫁は

「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官義経。」と、植木屋の台詞までみんな言ってしまう。

「ええっ!! 弁慶にしておけ。」

概略

上方ネタである。東京へは3代目柳家小さんが移植して以降、小さん一門の得意ネタとなった。初夏のころの季節感あふれる小品で、6代目春風亭柳橋は、その駘蕩とした口調で、爽やかな季節を見事に表現していた。

変わったところでは、3代目春風亭柳好は冷素麵をマスタード(西洋がらし)で食べ、口直しに青菜を食べる演出を取っている。

上方では、2代目桂春団治、(「神戸の春團治」と呼ばれた初代桂春輔に稽古をつけてもらった)笑福亭仁鶴、2代目桂ざこばなど多くの落語家が得意としている。上方では植木屋が隠居に嫁の愚痴をこぼすとき「…この前も、おいど(尻)の膏薬張り替えて言うさかい、おいどまくって出せ言うたら、いきなりわたいの目の前でブウッ!でっせ。」というナンセンスなクスグリが入り、長屋住まいの庶民の生活感が濃厚である。

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