武助が元の主人のところに久しぶりに帰ってきた。あれからどうしたと聞くと、八百屋をやっても手があれてダメ。魚屋も貸し本屋もやったがものにならない。それなら好きなことをやろうと、上方にいって役者になって、猪の役や牛の役をもらったという。
その後、上方から江戸に出て、今はその新しい親方の下でやっており、この度新富座に出ることになったから見に来てくれという。演目は何かと聞くと「一ノ谷嫩軍記」だというので、役は何かと聞くと、組討の際の馬の後ろ足だという。主人はがっかりするが、祝儀がわりに行ってやるという。
元の主人は言ったとおり、席を買占め、店の者や出入りの者も連れてやってくる。親方も席が売れて喜び、武助も本番前の練習に余念がない。
そうこうしているうちに出番が近づくが、前足をやる熊衛門がいない。探してやっと見つけると、一杯飲んでいる。しっかりしろと、馬をかぶって準備すると、熊衛門はおならをする始末。後ろ足のところの武助のところに匂いがきてたまらない。
出番が来て、舞台に馬が登場する。主人に連れてこられた客は、褒めなきゃならないと、「馬の後ろ足!」と変な掛け声をかける。武助は声をかけられて調子に乗り、馬の後ろ足を熱演する。前足は酔っ払い、後ろ足は張り切った武助という馬に乗っている役者は、乗っているのが精一杯。張り切った武助は、後ろ足なのにひひ~んと鳴き、客は笑いの渦、一幕がめちゃくちゃになってしまう。
幕が下りた後、武助は親方の元に呼ばれる。乗りにくくなってすみませんと武助が謝るが、親方が怒っているのは鳴いたこと。後ろ足が鳴いたんじゃしょうがないだろうと、説教する親方に、武助が「でも、熊衛門は前足なのに、おならをした」というサゲ。
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