大仏餅(だいぶつもち)は古典落語の演目の一つ。
大看板、三遊亭圓朝の創作落語(三題噺)とされている。主な演者には、8代目桂文楽などがいる。
▼お題▼
「大仏餅」
「袴着の祝い」
「新米の盲目乞食」
あらすじ
まずは、マクラでよく使われる小噺から。
大仏の目
『奈良の大仏様』の片目がはずれ、腹の中に落っこちた。
人々がパニックになる中、一人の男が「修繕しましょう」と申し出る。
身軽な動きで大仏様に上り、目に開いた穴から中に入ると、腹の中に落ちている目玉を取ってきて眼窩にすぽっ!
「大仏様は直ったけど、あの人は閉じ込められちゃったよ!!」
如何するのかと見ていると、男が鼻の穴からにゅっと出てきた。
利口な人は、『目から鼻へ抜ける』のだとか。
▼本筋▼
ある冬の日。御徒町に店を構える、河内屋金兵衛の店先に襤褸をまとった少年がやってきた。
「おとっつぁんが怪我をしました。血止めにするので、煙草の粉を少々ください」
その父親と言うのは目が不自由らしく、息子にすがり辛うじて立っている。
同情した金兵衛は、親子を店の奥に上げ、傷薬を渡してあげた。
「ところで、息子の歳は何歳かね?」
「六つです」
「そうかい…」
金兵衛にも息子がいるが、甘やかして育てたせいか、我侭な性格に育ってしまっている。
「さっきも、子供の『袴着の祝い』をしていたんだが、好き嫌いが多くて大変だったよ。そうだ、残り物で申し訳ないのだが…もらって行くかね?」
「有難うございます。では、ここに…」
そういって乞食が差し出してきたのは、何と『朝鮮鈔羅(ちょうせんさはり)の水こぼし』という高級品。
「これを面桶の代わりに? 恐れ入ったな…」
「これは秘蔵品でございまして、零落しても売る気になれませんでした…」
その場で食事をすることになり、金兵衛の指示でお膳が運ばれてきた。
「八百善ですか。私も以前は、よく食べていました…」
味付けに文句ばかりをいい、料理人を困らせた報いでこのザマです…と乞食は笑う。
「しかし…。零落しても、家宝だけは手放さないとは。貴方は真のお茶人だ。何処の門人だい?」
「川上宗治の門人でした」
「貴方の名前は?」
「大変いいにくいのですが…」
数刻の間。やがて、意を決した乞食が話し始める。
「私は、芝片門前に住まいおりました、神谷幸右衛門と申すものでございます」
「え!? あの神幸さん? お上のご用達をなさっていた…」
変われば変わるものだ…と、金兵衛はしみじみとなった。
「そうだ。神幸さんには敵わないが、私も茶道をやっております。いかがでしょうか、一服立てますので、飲んでいただけませんか?」 「それは有難うございます」
『お茶請けに』と用意してもらった大仏餅を、息子に一つ取ってもらい、感涙に咽びながら一口…喉につかえた。
「つかえた? 大変だ…」
慌てた金兵衛が、幸右衛門の背中をドンと一突き。
「ウプッ…有難うござヒました…」
「お!? 貴方、目が開きましたよ!」
「本当だ。でも、代わりに鼻が…」
「無理もありませんよ。食べたのが大仏餅、目から鼻へ抜けたんです」
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