舞台は昭和三十年代の東京。
小卒で会社を成功させた親父は、大学生の一人息子が毎日遊んでばかりいるのでおかんむり。
とくに気に入らないのは、「勉強のため」だと言って親に買わせたステレオでジャスばかり聴いていること。
今夜もジャズを口ずさみながら帰宅した息子をつかまえて、小言を言うが「ジャスは黒人の魂の叫びです。
お父さんに虐げられた黒人の気持ちがわかりますか」と反論され親子喧嘩になる。
息子は親父の大好きな義太夫を「為政者のつくらせたもの」と批判し始め、さらには「お母さんが死んだのも義太夫のせい」だと言い出したので親父は激怒。
息子は二階の一人部屋へあがってゆく。
階下の親父は気分を改めるため、義太夫の稽古をはじめる。
曲は「摂州合邦辻・合邦庵室の段」。
すごい声でうなりはじめたところに息子の友達がやってきて……。
マクラでも語っているが、川柳川柳が二つ目の三遊亭さん生時代に自作した新作落語の名作である。
古典落語には「七段目」「干物箱」「よかちょろ」など「道楽息子と苦労人の親父の対立」というパターンがあるが、本作はこうした作品のパターンをうまく消化し、自然な笑いを誘う噺に仕上がっている。
また、上方落語の古典に「浄瑠璃息子」という噺があり、これは息子の義太夫狂いに頭を悩ませる親父が出てくる。
これも「ジャズ息子」の先行作品として捉えることが出来るだろう。
川柳の「ジャス息子」は、古典落語の定形を踏まえながらも、親父が古い芸能である義太夫に凝り、息子が二十世紀の芸能であるジャズに狂うという対比が見事。
後半、階下では親父が「合邦」を語り、二階では息子と友達が「聖者の行進」のジャムセッションをするが、それがカットバックで描かれ、次第に盛り上がってくる展開は、まさに川柳の独壇場。
音楽的センスの高い川柳にしてはじめて描きうる場面である。
川柳川柳の魅力がぎっしりとつまった生涯の代表作!
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