「臆病源兵衛」とあだ名がつく男、大変なこわがりで、日が暮れては戸を閉ざしてガタガタ一晩中震えているし、自分の家では夜は一人で便所にも行けない、というくらい。
退屈をもてあました近所のご隠居、洒落心といじめ心があるので、ひとつこの男をこっぴどく脅かしてやろうと、源兵衛の職人仲間の八五郎を抱き込み、一芝居たくらむ。
源兵衛、根は好色で、しかも独り身なので、まず隠居が嫁さんを世話してやると持ちかけ、渋るのをむりやりに、夕方、自分の家に連れ込む。
幽霊が出そうだと、早くも震え出すのをなんとかなだめ、「俺がここで見ていてやるから、水を汲んできてくれ」と、台所へ行かせる。
おっかなびっくり水瓶に近づくと、暗がりから八五郎の手がニューッ。逆手に持った箒(ほうき)で顔をスーッとなでたからたまらず、「ギャアーッ」源兵衛、恐怖のあまり八五郎にむしゃぶりつき、金玉をギュッと握ったから、八五郎、目をまわした。ところが隠居もさるもの。少しもあわてず、これを利用して続編を考えつく。
化け物だと泣き騒ぐ源兵衛に
「ともあれ、おまえが八公を殺しちまったんだから、お上にバレりゃ、打ち首獄門だ。それがイヤなら死骸をつづらに押し込み、夜更けに高輪あたりの荒れ寺に捨ててこい」
と、言う。臆病も命には代えられず、源兵衛、泣く泣く提灯を片手、念仏を唱えながらつづらを背負って芝の古寺の前まで来ると、これ幸いとお荷物を軒下に放り棄て、あとは一目散。
そこへ通りかかった、品川遊廓帰りの三人組。ふとつづらに目を止めると、てっきり泥棒の遺留品と思い込み、欲にかられて開けてみると手がニョッキリ。
失神していた八五郎が「ウーン」と息を吹き返す。
三人、驚いたのなんの、悲鳴を上げて逃げ出した。
あたりは真っ暗闇。八五郎は、すっかり自分が地獄へ来てしまったと思い込み、つづらからようよう這いだすと、幽霊のようにうろうろさまよい始める。
たまたま迷い込んだ寺の庭に蓮池があったので、「ありがてえ、こりゃ極楽の蓮の花だ、ちょいと乗ってみよう」と、さんざんに踏み散らかしたから、それを見つけた寺男はカンカン。棒を持って追いかけてくる。
「ウワー、ありゃ鬼。やっぱり地獄か」
やっと逃げ出して裏道へ駆け込むと、そこにいたのは、なかなかいい女。「姐さん、ここは地獄かい」
「冗談言っちゃいけないよ。表向きは銘酒屋なんだから」
[出典:http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2006/07/__2aa9.html]
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