親父が小遣いをくれないので
「よそのおじさんが訪ねて来た話をすれば、母ちゃんから貰えるからいいや」
とつぶやくと、親父は気になり、話せと迫る。
キザな白い服を着て、色眼鏡にステッキの男だ。この先を聞くなら五銭おくれと、按摩の話で小遣いをせしめた。
女房に話すと、あの子は知恵者だと言うが、本当に偉い人はと、講釈の逸話を話す。
天目山の戦いで武田勝頼の加勢に行った真田安房守が、松田尾張守と大道寺駿河守に挟まれた時に、息子の与三郎が松田方の永楽通宝の旗印を付けて敵を錯乱させて窮地を救い、その時から旗印を六連銭とした。
後に幸村と改め大坂方の軍師になり薩摩におちた偉い人だ。
戻って来た息子にさっきの金を返せと言うと講釈を聞いて使ったと言い、真田三代記を暗唱する。
六連銭ってどんな紋だい。親父が、一銭貨を三個三個と並べて説明する途中、息子が持って逃げた。
「また講釈を聞くのか」
「焼き芋買う」
「家の真田も薩摩におちた」
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