ころは大正。
吉原の幇間・一八は、副業に芸者置屋を営む師匠の家に居候している。
美人の芸者・お梅に四年半越しの岡ぼれだが、なかなか相手の気持ちがはっきりしない。
今夜こそはと、あらゆる愛想を尽くし、三日でいいから付き合ってくれ、三日がダメなら二日、いや一日、三時間、二時間、三十分十五分十分五分三分一分、なし……なら困ると、涙ぐましくかき口説く。
その情にほだされたお梅、色恋のような浮いた話ならご免だが、この間、あたしが患った時に寝ずの看病をしてくれたおまえさんの親切がうれしいから、もし女房にしれくれるというのならかまわないよ、という返事。
ところがまだあとがある。
今夜二時に自分の部屋で待っているが、おまえさんは酒が入るとズボラだから、もし約束を五分でも遅れたら、ない縁とあきらめてほしい、と釘を刺されてしまう。
一八は大喜びだが、そこへ現れたのがひいきのだんな樋ィさん。
吉原は飽きたので、今日は柳橋の一流どころでわっと騒ごうと誘いに来たとか。
今夜は大事な約束がある上、このだんな、酒が入ると約束を守らないし、ネチネチいじめるので、一八は困った。
今夜だけは勘弁してくれと頼むが、「てめえも立派な幇間のなったもんだ」と、早速嫌味を言って聞いてくれない。
事情を話すと、それじゃ、十二時まで付き合えと言うので、しかたなくお供して柳橋へ。
一八、いつもの習性で、子供や猫にまでヨイショして座敷へ上がるが、時間が気になってさあ落ちつかない。
遊びがたけなわになっても、何度もしつこく時を聞くから、しまいにだんながヘソを曲げて、おまえの頭を半分買うから片方坊主になれの、十円で目ん玉に指を突っ込ませろの、五円で生爪をはがさせろのと無理難題。
泣きっ面の一八、結局、一回一円でポカリと殴るだけで勘弁してもらうが、案の定、酔っぱらうとどう水を向けてもいっこうに開放してくれないので、階段を転がり落ちたふりをして、ようやく逃げ出した。
「やれ、間に合った」と安心したのも束の間。
お梅の部屋に行くには、廊下からだと廓内の色恋にうるさい師匠の枕元を通らなければならない。
そこで一八、帯からフンドシ、腹巻と、着物を全部継ぎ足して縄をこしらえ、天井の明かり取りの窓から下に下りればいいと準備万端。
ところが、酔っている上、安心してしまい、その場で寝込んでしまう。
目が覚めて、慌ててつるつるっと下りると、とうに朝のお膳が出ている。
一八、おひつのそばで、素っ裸でユラユラ。
「この野郎、寝ぼけやがってッ。
何だそのなりは」
「へへ、井戸替えの夢を見ました」
●メモ
八代目桂文楽が、それまでこっけい噺としてのみ演じられてきたものを、幇間の悲哀や、お梅の性格描写などを付け加え、十八番に仕上げました。
五代目古今亭志ん生もよく演じましたが、お梅とのやりとりを省いて、だんなに話す形にし、いじめのあざとい部分も省略。
柳橋から帰る途中で、蒲鉾をかじりながらさいこどん節の口三味線で浮かれるなど、全体的にこっけい味を強くして特色を出しています。
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