★桂文楽(八代目)よかちょろ

桂文楽(八代目)

●あらすじ

若だんなの道楽がひどく、一昨日使いに行ったきり戻らないので、だんなはカンカン。
番頭に、おまえが信用しないと余計自棄になって遊ぶからと、与田さんの掛け取りにやるように言ったのがいけないと、八つ当たり。
今日こそみっちり小言を言うから、帰ったら必ず奥へ寄越すように、言いつける。

実はこっそり帰っている若だんな、おやじが奥へ入るとちゃっかり現れ、番頭にさんざん花魁(おいらん)のノロケを聞かせた挙げ句、ずうずうしくも、これからおやじに意見してくるという。

「おやじは、癇癪(かんしゃく)持ちだから、すぐ煙管(きせる)の頭でポカリとくるが、あたしの体は花魁からの預かり物で、顔に傷をつけるわけにはいかない。もし花魁が傷のわけを知ったら『なんて親です。おやじというのは人間の脱け殻で、死なないように飯をあてがっとけばいいんです。そういうおやじは片づけてくださいッ』」

興奮してきて番頭の首を締め上げ、大声を出すので奥に筒抜けで、「番頭ォ」と、どなる声。

「あたしがやりこめて、煙管が飛んできたら体をかわすから、おまえが代わりに首をぬっと出しな」「ご免こうむります」嫌がるのをぽかりとなぐり、一回二円で買収し、おやじの前へ。

「おとっつぁん、ご機嫌よろしゅう」
「ちっともご機嫌よくないッ。黙って聞いてりゃいい気になりゃあがってッ。おまえみたいなのは、兄弟があれば家に置く男じゃないんだ」

与田さんとこで勘定は取ってきたかと追及すると、確かに十円札で二百円もらったが、使っちまったと、いう。
おやじ、あぜんとして、たった一日や半日で二百円の大金を使い切れるものじゃないと言うと、ちゃんと筋道の通った、むだのない出費ですと、譲らない。

いよいよ頭に来て「なら内訳を言ってみろ。十銭でも計算が違ったら承知しないからな」
若だんな、いわく、まず髭剃代が五円。
大正のそのころで、一人三十銭もあれば顔中髭(ひげ)でもあたってくれる。

「おとっつぁんのは普通の床屋で、あたしのは、花魁が『あたしが湿してあげます。こっちをお向きなさいったら』って」

と、おやじの顔をグイと両手でこっちへ向けたから、おやじは毒気を抜かれてしまう。
あとは「『よかちょろ』を四十五円で願います」

安くてもうかるものだというので、
「ふうん、おまえはそれでも商人のせがれだ。あるなら見せなさい」
「へい。女ながらもォ、まさかのときはァ、ハッハよかちょろ、主に代わりて玉だすきィ……しんちょろ、味見てよかちょろ、しげちょろパッパ。これで四十五円」

あきれ返って、そばの母親に
「二十二年前に、おまえの腹からこういうもんができあがったんだ。だいたいおまえの畑が悪いから」

「おとっつぁんの鍬だってよくない」と、ひともめ。

「孝太郎が自分の家のお金を喜んで使ってるんだから、それをお小言をおっしゃるのはどういう料簡(りょうけん)です。それに、あなたと孝太郎は年が違います」「親子が年が同じでたまるかい」

「いいえ、あなたも二十二のときがありました。あなたが二十二であたしが十九で、お嫁に来たとき三つ違い。今でも三つ違い」
「なにを、ばかなことを言ってるんだ」

これから若だんな勘当とあいなる。

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