浮世床(うきよどこ)は、落語の演目の一つ。元々は上方落語の演目で、現在では東京でも演じられる。古くからある小咄を集めて、一席の落語にしたオムニバス形式の落語である。
上方からは初代柳家小せんが東京に移植した。
主な演者として、東京の3代目三遊亭金馬や6代目三遊亭圓生などがいる。
床屋の喧騒を見事に活写した佳品である。
あらすじ
▼発端
昔の髪結床(床屋)は町内の若い衆の寄合の場所であり、一日中、町内の若い者が無駄っ話をしていた。
▼床屋の看板
八五郎と熊五郎の2人組が、床屋の看板を眺めて話し込んでいる。
「この【海老床】の看板の絵、まるで生きてるようだなぁ」
「生きてる…? こいつは絵だぞ、死んでいるさ」
喧嘩になりかけている所へ、うまい具合に米屋の隠居が通りかかった。
「何々、この看板が…フム。こいつは生きてもいませんが、死んでもいませんな」
「じゃあ、何なんです?」
「こいつは患っているんだよ。ほらごらん、床についている」
安永2年(1705年)に出版された笑話本・「近目貫」の一遍である『花』。
▼将棋
中に入ると、土間で将棋をやっている奴がいる。
「ウーム…。《角道(百日)の説法屁を一つ》なんてどうだ?」
所謂『洒落将棋』という奴だ。しばらく指している内に、ふと一人が顔を上げると敵の【玉】が消えている。
「おい、お前の大将はどうした?」
「ん? エート…あ、小生の懐にお隠れになっていた」
▼変な軍記
将棋の横では、吉公が壁に向かって貸本を読んでいる。
「おい、吉っつあん、何を読んでいるんだい?」
「小生が読んでおりますのは…てぇこう記」
「…親子喧嘩の話か? それを言うなら『太閤記』だろ?」
今、姉川の合戦を読んでいるという吉公に、みんなが「読んでくれないか」と頼んでみる。
「良いけどさ…、俺は立て板に水だぞ? 一度ピューッと行ったら戻ってこないぜ?」
エェェェェェェェーとサイレンまがいの声色で調子を試して…。
「このと…き、真柄…真柄ジフラ…じゃねぇ。真柄十郎左衛…門が、敵に向かってまつこう…まつこう…マツコウ!!」
「何だい?」
立て板に水どころか【横板に餅】。「真っ向」という言葉を聞き違え、松公というあだ名の男が返事をしてしまった。
「真っ向…立ち向かって、一尺八寸の大刀を…」
「オイオイ、一尺八寸のどこが大刀だよ? それじゃあ肥後の守だ」
「そこは但し書きが書いてある。『一尺八寸とは刀の横幅なり』…」
「馬鹿! そんな戸板みたいな刀があるかい!? 第一、前が見えないだろ?」
「そこはもう一つ但し書き。『刀には窓が付いていて、敵が来たらそこから覗く』」
安永2年(1705年)に出版された笑話本・「聞上手」の一遍である『大太刀』。
▼夢の逢瀬
奥の方を見てみると、建具屋の半次が大いびき。
あんまり鼾がうるさいからたたき起してみると、開口一番のろけ話を始めた。
「歌舞伎座で芝居を見たんだ。後ろの席に綺麗な女がいてさ、そいつが俺に『自分の代わりに褒めてくださいよ』って頼むんだよ。俺ァすっかり舞い上がっちゃってさ、舞台に向かって『音羽屋! 音羽屋!』」
怒鳴っている内に芝居が終わってしまい、仕方なく『幕!』。
「帰りがけにさ、その女のお供に呼び止められて、お茶屋に招待されたんだよ。そこには女が待っていてね、杯をやったり取ったり楽しくて…」
飲みすぎてグロッキーになってしまい、半次が寝ていると女が帯解きの長襦袢一枚で「御免遊ばせ」と布団に入ってきた…!!
「フワー、夢みたいな話だな! …で?」
「一緒に寝た所で…俺をたたき起しやがったのは誰だ!?」
どうやらホントの『夢』だったみたいで。
宝永4年(1707年)に出版された笑話本・「春遊機嫌袋」の一遍である『うたたね』。
▼逃げた客
ドタバタしている土間に気を取られ、床屋の親方が横を向いた途端に、今まで散髪してもらっていた男が銭を払わずに逃げてしまった。
「アララ…逃げちまったよ、あれは誰だい?」
一人が「あいつは畳屋の職人だよ」と教えると、大将が呆れて一言。
「畳屋か、道理で床を踏みに来たんだ」
安永2年(1705年)に出版された笑話本・「吉野山」の一遍である『髪結床』。
▼サゲ
最後の『逃げた客』の件は、井草を踏みつけ柔らかくする畳の製法と、料金を払わずに逃げてしまう「踏み倒し」をかけたサゲである。しかし、畳の製法が解り辛くなってきた現在ではあまりここまで演じられることはなく、長くやっても半次の話が夢だと分かったあとに「長ぇ夢、見やがったな…」と言ってサゲるパターンが主流となっている。
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