第48作 1995年(平成7年)12月23日公開
26年間に48作続いて来た『男はつらいよ』シリーズ最終作となった『寅さん紅の花』は、第25作『寅さんハイビスカスの花』以来、四度目の登場となる浅丘ルリ子演じるリリーが登場。しかも寅さんは奄美大島でリリーと同棲。
かつてさくらが夢見た寅さんとリリーの結婚は、現実のものとなるのか?
そして五回目となる後藤久美子演じる泉と満男の関係は?
シリーズ大団円に相応しく、二つの恋の行方が、幸福な気分のなかで描かれてゆく。
キャスト・登場人物
- 車寅次郎:渥美清(67)
- 諏訪さくら:倍賞千恵子(54)
- 諏訪博:前田吟(51)
- 諏訪満男:吉岡秀隆(25)
- 車竜造:下條正巳(80)
- 車つね:三崎千恵子(75)
- タコ社長:太宰久雄(72)
- 源公:佐藤蛾次郎(51)
- 三平:北山雅康(28)
- ポンシュウ:関敬六(67)
- タクシー運転手:犬塚弘(66)
- ゆかり:マキノ佐代子(37)
- 伸吉:笹野高史(47)
- 因美線 美作滝尾駅の委託駅員:桜井センリ(69)
- 政夫:神戸浩(32)
- 及川泉:後藤久美子(21)
母親のためもあって、泉は岡山県津山市の医者の息子と結婚することに。かつて心を寄せていた諏訪満男に、そのことを告げに行くが、満男の態度は煮え切らない。そして結婚式の当日、満男が津山に現れて…… - 及川礼子:夏木マリ(43)
泉の母。母一人娘一人で、水商売をしながら苦労して来たが、ようやく泉が結婚、しかも玉の輿ということで、一安心。ところが、結婚式の当日に、思わぬハプニングが発生して…… - 船長:田中邦衛(63)
加計呂麻島の連絡船の船長。傷心は、船長の海上タクシー「でいご丸」で加計呂麻島へとやってくる。リリーさんとは顔なじみで、寅さんとの仲など、島のことは何でも知っている。 - パン屋いしくら店主:宮川大助(46)
- パン屋の妻:宮川花子(41)
マドンナ:リリー/浅丘ルリ子(当時55歳)
リリーは放浪の歌手生活をやめ、金持ちの老人と再婚、ところが亭主がそうそうに亡くなり、今はその遺産で、鹿児島県奄美大島の加計呂麻島に小さな家を購入。快適に暮らしていた。そこへ、寅さんが転がり込み、同居生活をしているが……
あらすじ(ネタバレ注意)
阪神淡路大震災の直前、神戸から連絡があって以来、寅さんは音信不通。さくらや、おいちゃん、おばちゃん達は心配していた。ある日、くるまやの面々が何気なくテレビを見ていると、この年に起こった阪神・淡路大震災におけるボランティアのドキュメンタリーが放送されていた。そして、そこになんとボランティアとして活躍する寅さんの姿が。
村山総理を村ちゃんなどと呼び、大活躍していた。その事で皆はビックリ仰天。
そうしているうちに、満男が思いを寄せていた泉が訪ねてきた。
なんと医者の卵とお見合いをして結婚するという話で満男に相談しに来たというのだが満男は気が動転し、素っ気ない態度を取り、そのまま別れる。
しかし、昂った感情をどうにも抑える事が出来ず、結婚を止めさせるために津山に行き、結婚式当日に、レンタカーを運転して泉の乗った車の進路を塞ぎ後退させた。この地方では花嫁を後退させる事は縁起が悪い事とされていたため、式は即時中止となってしまう。
関係者に殴られた後、満男は酔っぱらって、ブルートレインに乗り、そのまま鹿児島県奄美群島加計呂麻島にやってきた。
加計呂麻島で寅さんと浅岡ルリ子が暮らしたリリーの家。
そこで偶然リリーと出会い、彼女の家に泊まることになるがそこにはなんとリリーと夫婦同然に暮らす寅がいたのだ。
満男は、しばらく島で漁師の手伝いなどで反省しながら暮らしていた。寅さんは自分のことを棚にあげ、そんな満男に説教をしたりする。それを聞いたリリーは寅に
「女は男の気持ちをきちんと伝えてほしいんだよ」
「きれいごとなんかじゃないの」
「男は卑怯なの」
とあるだけの罵詈雑言を浴びせる。
リリーは満男を誘って「島育ち」を歌いながら飲みに行く。
泉は柴又を訪ねて博と会い、縁談を解消したと告げ、満男の真意を確かめるために奄美にやって来た。
海岸で「どうしてあんな事をしたの?」と問い詰める泉に「愛しているからだよ!」と不器用に叫ぶ満男。
感激する泉。
ついに満男と泉はお互いの気持ちを通じ合えたのだった。
寅とリリーもその瞬間を見届け、「無様だね」という寅に「若いんだもの、いいんじゃない。私たちと違うわ」とリリーは涙。
やがて寅さんはリリーを連れて柴又へ帰郷。
思い出話に花が咲く寅とリリーだったが、フトしたことから喧嘩し、リリーは島へ帰ろうとする。
またも旅支度を始めた寅に、さくらは、なぜリリーさんを止めないのか、リリーさんがお兄ちゃんと一緒にいてくれることがどれだけ嬉しいのかと訴える。すると、タクシーに乗り込もうとするリリーの隣りに、突如として寅が乗り込んだ。
「か弱い女を一人寂しく旅立たせるわけにはいかないだろ」
「寅さん、どこまで送っていただけるんですか?」
「男が女を送るって場合はな、その女の玄関まで送るってことよ」
特記
実はこの頃、寅次郎役の渥美清は肝臓の癌が肺にまで転移しており、主治医から前作と同様「もう出演は不可能」と診断されていたが無理を押して出演していた(主治医によると、今作に出演できたのは「奇跡に近い」とのことである)
このような経緯もありこの作品での寅次郎はほとんど動かず座っているシーンが多く、劇中でのテレビで寅次郎が活躍している姿はすべて合成で制作されている。
また山田監督も渥美の体調から「もしかしたら最後になるかもしれない」と考え、浅丘ルリ子が演じるリリーを出演させることに決定した。
浅丘のマドンナは『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(1973年)『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年)『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年)と、これで4作目だった。
その浅丘も具合の悪そうな渥美の姿を見て、「もしかしたらこれは最後の作品になるかもしれない」と思ったという。そのため山田監督に「最後の作品になるかもしれないから寅さんとリリーを結婚させてほしい」と頼んだと言うが、山田洋次は節目の50作までは何とか製作したかった節があり、結局願いは叶えられなかった。
そして山田監督や浅丘が懸念した通り渥美が半年後の1996年8月4日に死去し続編の制作が不可能となったため、『男はつらいよ』は本作が事実上の最終作となった。
ラストの寅次郎の「ご苦労様でした」は図らずも車寅次郎の、そして渥美の俳優としての最後の台詞となった。
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