★桂文治(十代目)だくだく

桂文治(十代目)

10代目桂 文治(かつら ぶんじ、1924年1月14日 – 2004年1月31日)は、東京都豊島区出身の落語家で南画家(雅号:籬風)。

落語芸術協会会長。落語江戸(東京)桂派宗家。血液型はO型。本名は関口達雄。
父は同じく落語家初代柳家蝠丸。出囃子は『武蔵名物』。

1946年6月、2代目桂小文治に師事し、父の名であった柳家小よしを名乗るが、後に師の亭号が桂だったために桂小よしに改名。
1948年10月、2代目桂伸治に改名し二つ目昇進。
1958年9月、真打昇進。
1960年代の演芸ブームでテレビ・ラジオに多く出演。
フジテレビ「お笑いタッグマッチ」(5代目春風亭柳昇司会の大喜利番組)の回答者や同番組の提供スポンサーでもあった丸美屋食品工業のふりかけ「のりたま」のテレビCMで売れる。
1979年、前年亡くなった9代目桂文治の盟友である8代目林家正蔵(後の林家彦六)の推薦で10代目桂文治を襲名。
桂派宗家となる。
1996年、芸術選奨文部大臣賞受賞。
1999年9月、4代目桂米丸の後任で落語芸術協会会長就任。
正調の江戸弁を大切にしていた噺家であった。

得意ネタは、「掛取り」「源平盛衰記」「親子酒」「お血脈」「長短」「蛙茶番」「義眼」「鼻ほしい」「火焔太鼓」「道具屋」「替り目」「ラブレター」「あわて者」「猫と金魚(田河水泡・作)」「二十四孝」などであり、5代目柳家小さんと並んで滑稽噺のスペシャリストであった。
芸風は極めて自由闊達で、晩年に至るまで客席を爆笑の渦に誘ったが、その芸の根底には本人も認めるように戦前の爆笑王の一人であった初代柳家権太楼の影響があるといえる(「猫と金魚」「あわて者」は権太楼譲りのネタ)。
2002年11月勲四等旭日小綬章受章。
2004年1月急性白血病に倒れ、同月31日芸協会長の任期満了日に死去。
80歳没。

文治没後の会長職は、既に翌日の昇格が内定していた副会長の桂歌丸が就任した。
弟子には桂伸乃介、2代目柳家蝠丸、3代目桂伸治、3代目桂小文治、11代目桂文治、桂右團治(芸協初の女性真打)、桂文月、5代目柳家小蝠(文治没後は蝠丸の預かり弟子に)がいる。

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『だくだく』は、古典落語の演目の一つ。
原話は、安永2年(1773年)に出版された笑話本「芳野山」の一編である「盗人」。
元々は『書割盗人』という上方落語の演目で、主な演者に古今亭志ん輔や6代目三遊亭圓窓、立川志の輔、4代目柳亭痴楽などがいる。

●あらすじ
引越しをしたが、「かついでいくのが面倒くさい」と家財道具の一切を古道具屋に売ってしまった八五郎。
空っぽの新居でせめて物持ちになった気分を味わおうと、知り合いの画描きに頼んで壁じゅうに家具の絵を書いてもらった。

ちんちんと湯気をあげる鉄ビンや時計、あくびをしている猫までち密に書き込んでもらい、見てくれだけなら立派な座敷が完成した。

ところがその夜、この八五郎宅に泥棒が入りんでしまう。この泥的、近眼でおまけに乱視。
盛りだくさんの家財道具に驚喜したのもつかの間、触ってみればタンスは開かず掛け軸も外れず、一切合切すべてが、絵だ。

あきれた泥棒だが「このまま帰ったんでは面白くない」と「金庫を開けたつもり…一億円ばかり盗んだつもり…」と泥棒をしてのけた『つもり』になる。

泥棒が一人芝居をしていると、その物音で八五郎が目を覚ました。
「粋なやつだねぇ…。よし、俺も一つ、『盗まれたつもり』になって芝居をしてみようかな?」
やおら起きあがると
「鴨居の槍をとってりゅうりゅうとしごいたつもり。泥棒のわき腹に突き立てたつもり!」

泥棒もついのってしまい「血がだくだくと出たつもり…」

泥棒が『槍で突かれたつもり』になる件にも原話があり、こちらの原話は安永7年(1778年)に出版された笑話本「梅の笑顔」の一編である「槍」。

逃げた泥棒に槍を向けたものの、今一歩届かずに悔しがった侍が、口で「ズブリ!」というと泥棒が「ダックダック…」と答えて逃げるという内容となっている。
2代目桂枝雀はオチのところで
「といったまんまこの泥棒死んでしまいました」
と終わらせたという逸話があるが、本当かどうかはわからない。

また、サゲには他にも「そうこうしてるうちに物音で気づいた大家さんが助けに駆けつけてくれた…つもり…」といってサゲるものもある。
この場合、「だくだく」というタイトルの意味がわからなくなるので、別の演題になる場合が多い。

八五郎「先生、いますか?」
絵師「八っつぁんか、久しぶりだな。こちらへお上がり。」

八「実は店賃が一年と十二ヶ月貯まっちまいまして…」

絵「一年と十二ヶ月、それじゃ二年じゃないか。」

八「二年とあっさり言うっちまうより、一年と十二ヶ月と言った方が、いっぱいある様で景気が良い。」

絵「そんなものに景気をつけるヤツがあるか。」

八「そしたら大家が、店賃払えないなら、家を空けろって、わからねぇ事を言いやがる。」

絵「お前の方がわからないや。」

八「しょうがねぇから、あちこち歩いて、小じんまりした家があったんで、そこへ引っ越した。けども、家の中には何も家財道具が無いんですよ。そこで、壁へ紙を貼ったんで、そこへ先生に家財道具の絵を描いてもらいてぇと思って。」

絵「絵ではしょうがないだろう。」

八「絵で良いんですよ。描いて、あるつもりでいる。気で気を養うと言うヤツで…先生、ここの家なんですが。」

絵「小じんまりした良い家じゃないか、壁にきれいに紙が貼ってあるな。」

八「さっそくすいませんが、正面に床の間を描いてください。」

絵「床の間かい。(絵を描く)こんな具合で良いかい?」

八「上手いもんだ。その脇へ金庫をお願いします。扉が半分開いて、中に入っている札束が見えているところを描いておくんなさい。」

絵「注文がややこしいな(絵を描く)。」

八「その上へ舶来の置き時計を、その向こうに箪笥、総桐で立派なのを、その上にラジオをお願いします。天気予報が聞こえるように。」

絵「描いたものが、聞こえるか。」

八「その向こうに茶箪笥を、洋酒の瓶を並べて。下に茶道具が、一番下には羊羹が置いてある。その向こうに長火鉢を、鉄瓶がかかっていて、猫板の上で猫があくびをしているところを。その隣へ着物が脱ぎっぱなしになっていて、台所にはへっついを、釜がかかって火が燃えている。その脇へバケツと薪を。ああ、それから、この長押へ槍を一本お願いします。どうも先生ありがとうございました。帰ってお茶でも飲んでください。」

絵「お前さんが出すのが当たり前じゃないか。」

八「出したいけれど、何もねぇんだ。この羊羹つまみますか?」

絵「そりゃ、さっきわしが描いた絵だ!」

八公、喜んでその晩は寝ちまいましたが、夜中に何をどう間違えたのか、 この家に泥棒が入った。

泥棒「この家は新所帯かな、だらしのないヤツが寝てる。猫があくびをして、へっついに火がおきてる、あぶないねぇ。良い箪笥だねぇ(カンをつかもうとするがつかめない)、つかみにくい箪笥だな。それじゃ、この金庫にある札束を(札束を取ろうとするが、空振り)…取れないよ。ああっ、取れない訳だ、こりゃ描いたんだよ、絵だ、どおりでさっきっから、猫があくびしたままだ。」

八「(目を覚まし)おや、誰かいるよ。ははぁ、泥棒か。俺の家へ入るなんて、間抜けな泥棒だ…ハハハっ、取れなくて、箪笥の前で弱ってら。こりゃ面白いから、どうするか見ていよう。」

泥「よし、こうなりゃ俺も長年泥棒で飯を食っているんだ。この野郎があるつもりで暮らしているなら、俺もそれを盗ったつもりでやってやろうじゃねぇか。まずは、箪笥の一番下の引き出しをスッと開けたつもり、大きな風呂敷があったつもり、こいつをパッと広げたつもり。このお召しの着物をごっそりもらったつもり。このまた上の引き出しをスッと開けたつもり、羽二重の長襦袢があったつもり、こいつももらったつもり。ついでにこのラジオももらったつもり。金庫の上の時計ももらったつもり。金庫の中の札束を五百万円くらい、懐へねじ込んだつもり。風呂敷をギュっと結わいて、どっこいしょと担いだつもり。」

八「うぷっ、おかしな泥棒が入ってきやがったね。しかし、つもりにしろ、五百万円も持っていかれちゃ黙っていられないよ。よし、俺も絹布の布団をバッとはねのけたつもり、たすき十字にあやなしたつもり。長押にかかった槍を取ったつもり、泥棒の脇腹めがけて、ブスーッと突いたつもり。」

泥「(脇腹を押さえて)イテテテテッと突かれたつもり。血が『ダクダク』っと出たつもり。」

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