★三遊亭圓生(六代目)怪談牡丹灯籠(御札はがし)

三遊亭圓生(六代目)

お露と新三郎

御札はがし(1:03:03~)

牡丹灯籠(ぼたん どうろう)は、中国明代の小説集『剪灯新話』に収録された小説『牡丹燈記』に着想を得て、三遊亭圓朝によって落語の演目として創作された怪談噺である。

『牡丹燈記』は、若い女の幽霊が男と逢瀬を重ねたものの、幽霊であることがばれ、幽霊封じをした男を恨んで殺すという話で、圓朝はこの幽霊話に、仇討や殺人、母子再会など、多くの事件と登場人物を加え、それらが複雑に絡み合う一大ドラマに仕立て上げた。

圓朝没後は、四代目橘家圓喬・五代目三遊亭圓生・六代目三遊亭圓生五代目古今亭志ん生・初代林家彦六など歴代の大真打が得意とした。

明治25年(1892年)7月には、三代目河竹新七により『怪異談牡丹灯籠』(かいだん ぼたん どうろう)として歌舞伎化され、五代目尾上菊五郎主演で歌舞伎座で上演されて大盛況だった。
以後、演劇や映画にも広く脚色され、特に二葉亭四迷は圓朝の速記本から言文一致体を編み出すなど、その後の芸能・文学面に多大な影響を与えた。

概要

『剪灯新話』は、中国から伝えられたのち、江戸中期の怪談集「奇異雑談集」・「伽婢子」に翻案され、そのモチーフは上田秋成の「雨月物語」・山東京伝の「復讐奇談安積沼」などの読本、四代目鶴屋南北の脚本「阿国御前化粧鏡」に採用されるなど、日本でもなじみ深いものであった。

現行の「牡丹灯籠」はそれらの先行作を発展させたものである。
「四谷怪談」や「皿屋敷」と並び、日本三大怪談と称せられる。

但し、他の2作が深い怨恨を遺して死んだ亡霊を主人公とし、また「累ヶ淵」では宿世の因縁による何代にもわたる怨恨の連鎖を主たるテーマとしているのと比して、亡霊と人間との恋愛を描くという点で、原作に見られる中国的な趣きを強く残しているものと言える。

このモチーフは、映画『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』に取り上げられた『聊斎志異』収録の「聶小倩」などと通じるものがある。

また、日本の幽霊には足が無いのが一般的であるのに対して、牡丹灯籠のお露は、カランコロンと駒下駄の音を響かせて夜道を歩いて来る、という演出にも、中国的な幽霊の名残りが見られる。

あらすじ

旗本飯島平左衛門の娘、お露は浪人の萩原新三郎に恋したあげく焦れ死にをする。

お露は後を追って死んだ下女お米とともに、夜な夜な、牡丹灯籠を手にして新三郎のもとに通うようになる。

その後、新三郎の下働き、関口屋伴蔵によって、髑髏を抱く新三郎の姿が発見され、お露がこの世の者でないことがわかる。

このままでは命がないと教えられた新三郎は、良石和尚から金無垢の海音如来をもらい魔除けの札を張るが、伴蔵の裏切りを受け、露の侵入を許してしまう。

以上の主筋に、飯島家のお家騒動。伴蔵と女房お峰の因果噺がからむ。

原作となる「牡丹灯記」(『剪灯新話』所収)では、元朝末期の明州が舞台となっている。
主人公は喬某という書生であり、符麗卿と金蓮というのが、亡霊と侍女の名前である。

長編人情噺の形をとっており、多くの部分に分かれているが、六代目三遊亭圓生はお露と新三郎の出会いを「お露新三郎」・お露の亡魂が新三郎に通い祟りをなすくだりを「お札はがし」・伴蔵の悪事の下りを「お峰殺し」「関口屋のゆすり」にそれぞれ分けて演じていた。

章立て

円朝の「怪談牡丹灯籠」の速記本は22個の章に分かれている。各章の概要は以下のとおり。

・飯島平太郎(のちの平左衞門)、刀屋の店先で酒乱の黒川孝藏に絡まれ、斬り殺す。
・医者の山本志丈の紹介で、飯島平左衞門の娘・お露と美男の浪人・萩原新三郎が出会い、互いにひと目惚れする。(「お露新三郎」)
・黒川孝藏の息子・孝助が、父の仇と知らず、飯島家の奉公人になる。平左衞門は気づいたが、黙って孝助に剣術を教える。
・萩原新三郎、お露のことを想い、悶々とする。店子の伴蔵と釣りに出かけ、お露の香箱の蓋を拾う。
・飯島平左衞門の妾・お国、平左衞門の留守中に隣家の息子・宮邊源次郎と密通。黒川孝助が見咎め、喧嘩になる。
・死んだと聞いたお露が萩原新三郎の前に現れる。
・相川新五兵衞が飯島平左衞門宅を訪れ、自分の娘・お徳と黒川孝助との養子縁組を持ちかける。
・人相見の白翁堂勇斎が萩原新三郎宅を訪ね、死相が出ていると告げる。お露が幽霊であることがわかり、仏像とお札で幽霊封じをする。
・宮邊源次郎とお国、邪魔な黒川孝助を消すため、一計を案じるが、失敗に終わる。
・伴蔵と妻のお峰、百両で萩原新三郎の幽霊封じの仏像とお札を取り外してやる、と幽霊のお露に持ちかける。
・飯島平左衞門の金百両が何者かに盗まれる。お国はこれを利用し、黒川孝助が疑われるように工作する。
・伴蔵と妻のお峰、幽霊から百両を受け取り、萩原新三郎の身辺から仏像とお札を取り去る。(「お札はがし」)
・飯島平左衞門の機転と計らいで黒川孝助の濡れ衣は晴れたが、孝助は平左衞門を間男の宮邊源次郎と間違えて刺してしまう。平左衞門は、自分が孝助の父の仇であることを告げ、孝助を相川家へ逃がす。
・萩原新三郎死亡。
・飯島平左衞門は深手を負いながらも、宮邊源次郎を殺しに行くが、反対に殺されてしまう。源次郎とお国は飯島家の金品を盗んで逃走する。黒川孝助はお徳と祝言をあげるが、亡き主人・平左衞門の仇を討つため源次郎とお国を追う。
・萩原新三郎の葬儀を済ませたのち、伴蔵と妻のお峰は悪事がばれるのを恐れて、伴蔵の故郷・栗橋に引っ越す。
・伴蔵は幽霊にもらった百両を元手に荒物屋を開き、成功し、料理屋の酌婦と懇ろになる。酌婦は、飯島平左衞門の元妾のお国だった。伴蔵はお国との仲を咎めた妻のお峰を騙して殺す。(「お峰殺し」)
・死んだお峰が伴蔵の使用人たちに乗り移り、伴蔵の悪事をうわ言のように喋り出したので、医者を呼んだところ、その医者は山本志丈だった。事の次第を知った山本は伴蔵と組み、お国の身の上を暴露する。伴蔵は栗橋を引き払い、山本と江戸に帰る。
・仇が見つからず、孝助はいったん江戸へ戻り、主人が眠る新幡随院を参り、良石和尚に会う。婿入り先の相川家に戻ると、お徳との間に息子・孝太郎が生まれていたことを知る。
・伴蔵は悪事の発覚を恐れて山本志丈を殺すが、捕えられる。孝助は良石和尚の予言に従い、人相見の白翁堂勇齋を訪ね、そこで偶然、4歳のときに別れた母親おりえと再会する。すると、孝助が探していたお国が、母親の再婚相手の連れ子であり、源次郎とともに宇都宮に隠れていることを知る。
・母おりえがお国と源次郎の隠れ場所に手引きしてくれるというので孝助は宇都宮に出向くが、おりえは、夫に義理立ててお国と源次郎に事の次第を話し、2人を逃す。
・母おりえは孝助に事の次第を話し、自害する。孝助は二人を追い、本懐を遂げる。

登場人物

・藤村屋新兵衞 – 本郷三丁目の刀屋。
・黒川孝藏 – 酒癖の悪い侍。
・飯島平左衞門(平太郎) – 侍。剣術の達人。
・お国 – 平左衞門の妾。飯島家の女中だったが、平左衞門の妻の死後、妾になる。
・宮邊源次郎 – 侍。飯島家の隣家の次男。お国と密通し、平左衞門を殺し、お国とともに逃亡。
・黒川(相川)孝助 – 黒川孝藏の息子。平左衞門が父親の仇と知らず、飯島家の奉公人となる。のちに相川家に婿入りする。
・萩原新三郎 – 浪人。家を貸して生計を立てている。
・お露 – 飯島平左衞門の娘。
・山本志丈 – お露と新三郎を引き合わせた医者。
・白翁堂勇斎 – 人相見(陰陽師)。
・良石和尚 – 新幡随院の住職。
・伴蔵 – 萩原新三郎の店子で下男。
・お峰 – 伴蔵の妻。
・久蔵 – 栗橋の馬子。伴蔵とお国の仲をお峰に漏らす。
・相川新五兵衞 – 侍。黒川孝助の舅。
・お徳 – 相川新五兵衞の娘で、孝助の妻。二人の間に孝太郎をもうける。
・おりえ – 孝助が4歳のときに生き別れた実の母。
・樋口屋五兵衞 – 孝助の母・おりえの再婚相手。先妻の子がお国。

[怪談牡丹燈籠]

コメント

  1. ■牡丹燈籠 山本薩夫監督(1968年) より:

    […] 圓朝没後は、四代目橘家圓喬・五代目三遊亭圓生・六代目三遊亭圓生・五代目古今亭志ん生・初代林家彦六など歴代の大真打が得意とした。 […]

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