★柳家小三治(十代目)道具屋

柳家小三治(十代目)

あらすじ

神田三河町の大家・杢兵衛の甥の与太郎。
三十六にもなるが頭は少し鯉のぼりで、ろくに仕事もしないで年中ぶらぶらしている。
この間、珍しくも商売気を出し、伝書鳩を売ったら、自分の所に帰ってくるから丸もうけだとうまいことを考えたが、鳥屋に帰ってしまってパー、という具合。

心配したおじさん、自分が副業に屑物を売る道具屋をやっているので、商売のコツを言い聞かせ、商売道具一切持たせて送りだす。
その品物がまたひどくて、おひなさまの首が抜けたのだの、火事場で拾った真っ赤に錆びた鋸だの、はいてひょろっとよろけると、たちまちビリッと破れる「ヒョロビリの股引き」だので、ろくな物がない。

まあ、元帳があるからそれを見て、倍にふっかけて後で値引きしても二、三銭のもうけは出るから、それで好きなものでも食いなと言われたので、与太郎早くも舌なめずり。

やってきたのが蔵前の質屋・伊勢屋の脇。
煉瓦塀の前に、日向ぼっこしている間に売れるという、昼店の天道干しの露天商が店を並べている。
いきなり
「おい、道具屋」
「へい、何か差し上げますか?」
「おもしれえな。そこになる石をさしあげてみろい」

道具屋のおやじ、度肝を抜かれたが、ああ、あの話にきいている杢兵衛さんの甥で、少し馬……と言いかけて口を押さえ、品物にはたきをかけておくなど、商売のやり方を教えてくれる。
当の与太郎、側のてんぶら屋ばかり見ていて上の空。

最初の客は大工の棟梁。
釘抜きを閻魔だの、ノコが甘いのと、符丁で言うからわからない。
火事場で拾った鋸と聞き、棟梁は怒って行ってしまう。
「見ろ、小便されたじゃねえか」つまり、買わずに逃げられること。

次の客は隠居。
「唐詩選」の本を見れば表紙だけ、万年青(おもと)だと思ったらシルクハットの縁の取れたのと、ろくな代物がないので渋い顔。
毛抜きを見つけて髭を抜きはじめ、「ああ、さっぱりした。伸びた時分にまた来る」

その次は車屋。
股引きを見せろと言う。
「あなた、断っときますが、小便はだめですよ」
「だって、割れてるじゃねえか」
「割れてたってダメです」これでまた失敗。

お次は田舎出の壮士風。
「おい、その短刀を見せんか」刃を見ようとするが、錆びついているのか、なかなか抜けない。
与太郎も手伝って、両方からヒノフノミィ。

「抜けないな」
「抜けません」
「どうしてだ」
「木刀です」

しかたがないので、鉄砲を手に取って
「これはなんぼか?」
「一本です」
「鉄砲の代じゃ」
「樫です」
「金じゃ」
「鉄です」
「馬鹿だなきさま。値(ね)じゃ」

「音はズドーン」

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