あらすじ
諸国をまわり歩く六部(ろくぶ)が、香具師の親方のところに一晩の宿を借りた。
香具師は何か変わった人間でもいれば、いや化物ならなおさらいいが、とにかく捕まえて見世物にし、金もうけの種にしようと八方手を尽くして捜しているので、翌朝六部に
「おまえさんは諸国をずいぶんと歩いている間に、ヘソで唄をうたったとか、足がなくって駆けだしたとか、そういう変わった代物を見ているだろう。一つ話を聞かせてくれないか」
と持ちかけたが、六部は「そんな話はとんとない」という。
一宿の恩をたてにさらにしつこく聞くと、ようやく、「まァ、つまらないことですが……」
と六部が思い出した話というのは、こちらに来る途中、道に迷って東へ東へと歩いていくと、森に入り、日も暮れかかったので、野宿でもしなければならないかと、ため息をつきながら木の根方に腰を掛け、一服やっていた。
すると、おじさん、おじさんと呼ぶ声がしたので振り返って見ると五つか六つの女の子。よく眺めると目が一つしかない。
仰天して夢中で駆け出し、ようやく里に出た、というもの。
香具師は喜んで、六部に金を包んで出発させ、早速その日のうちに旅支度をして家を出た。東へ東へと歩いたが、何も出ない。
そのうちに日も暮れてきて、これは六部の奴に一杯食ったかと悔しがっているうち、四、五丁も歩いたところで森に出た。
話の通り木の根方でプカリプカリと煙草をふかしていると、後ろの方でおじさん、おじさんという声。
しめた、こいつだと思って振り返ると、案の定目が一つ。
これは見世物にすればもうかると欲心に駆られて、ものも言わずに飛びかかってひっ捕まえると、子供を小脇に抱え、森の外に向かって一目散。
子供はキャアッと悲鳴を上げる。
その声を聞きつけたのか、ホラ貝の音が響きわたったかと思うと、鋤鍬担いだ百姓たちが大勢追いかけてくる。
みんな一つ目。
必死で逃げたが、ついに木の根っこにつまずいて「この人さらいめ」
寄ってたかってふん縛られ、突き出された先がお奉行所。
奉行が「こりゃ人さらい。面を上げい」
ひょいと見上げると、お奉行も役人もみんな一つ目。
奉行の方もびっくり。
「やや、こやつ……おのおの方ごらんなされ。こやつ目が二つある。」
「調べは後回しじゃ。見世物に出せ」
[出典:http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2004/12/post_11.html]
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