『火焔太鼓』(かえんだいこ)は古典落語の演目の一つ。
作中に出てくる「火焔太鼓」は雅楽に使う太鼓の一種で、雅楽用は3メートルを越える大太鼓だが、神社・仏閣用は小型で持ち運びにも適している。
江戸時代から伝わる小さな噺を、明治末期に初代三遊亭遊三が少し膨らませて演じていた。
この遊三の高座を修行時代に楽屋で聴き覚えた5代目古今亭志ん生が、昭和初期に多量のくすぐりを入れるなどして志ん生の創作といってもよい程に仕立て直し、現在の形とした。
志ん生以外にも子息である3代目古今亭志ん朝や8代目橘家圓蔵が得意としている。
近年では上方落語でも改作され演じられる。
三遊亭白鳥が志ん生の創作部分を除いた原話に独自の創作部分を加えた新たな古典として発表している。
あらすじ
古道具屋の甚兵衛さんは、相当な呑気者である。
その上商才も無く、店の箪笥に惚れ込んで入ってきたお客に、「6年も置きっぱなし」「引き出しが開かない」という欠点までありのままを言い、呆れさせてしまうぐらいの商売下手だ。
おまけにお調子者で、近所の人から自宅の火鉢を褒められると気を良くして後先考えず売ってしまうほど。
抜け目のないおかみさんがいるから何とか商売をやっていられるようなものだ。
この日、甚兵衛さんが仕入れてきたのは古く汚い太鼓。
おかみさんは苦い顔をするが、仕方が無いから店頭に並べる。
太鼓があまりにも汚いので、丁稚の定吉に店先でハタキをかけさせる。
ところが定吉が太鼓の皮にハタキをかけていると手が滑って音を鳴らしてしまう。
すると、一人の侍が店に入って来た。
お大名が駕籠で近くを通っていたようで、太鼓の音が大名の癪に障ったのかと甚兵衛さんたちは戦々恐々である。
ところが侍の話では、通りかかった主君の赤井御門守様が、太鼓の音をえらく気に入り、ぜひ実物を見てみたいから屋敷まで太鼓を持って来て欲しい、という。
甚兵衛さんは大喜び。
しかし、おかみさんのほうは「こんな汚い太鼓が売れるのか」と不審顔で、甚兵衛さんをとっとと送り出す。
どうせそんな太鼓はほかに売れっこないんだから、元値の一分で売り払ってしまえとおかみさんは言い放つ。
屋敷に太鼓を持参し、殿様に見せると、何故か気に入ったらしく購入していただく事になった。
目利きの殿様によれば、件の太鼓は国宝級の価値ある名品「火焔太鼓」、ついた値段はなんと300両。
甚兵衛さんは腰を抜かし、出された現金150両まで数えたところで泣きだす始末。
甚兵衛さん、300両をふところに興奮して家に飛んで帰るや、早速かみさんに50両ずつたたきつけて溜飲を下げる。
おかみさん、仰天して危うく気絶しそうになる。
味をしめた甚兵衛さんが、音がするものだから良かった、次は景気よく半鐘を仕入れようとおかみさんに言うと、おかみさんそれを押しとどめ、「半鐘? いけないよ、おジャンになるから」
●サゲ
「事がおじゃんになる(事が途中で駄目になる)」は、火の見櫓の半鐘の音を表す擬音「ジャンジャン」に由来する。
「おジャン」が掛詞となり「半鐘」と「駄目になること」を表している。
日本全国で消防の近代化が進み、火の見櫓の半鐘がサイレンに置き換えられたため、半鐘が鳴らされることも少なくなった。
1957年(昭和32年)の正月にニッポン放送で放送された初笑い名人会の一席において、5代目古今亭志ん生は「新年早々おジャンは良くない」という理由でサゲを「太鼓は儲かるよ。どんどんともうかるから」と変えた。
また、味を占めた甚兵衛さんが「もっと太鼓を仕入れよう」というのに対し、
「欲をかきすぎるとバチ(太鼓の撥と罰をかけたもの)が当るよ」とたしなめるというサゲもある。
立川志らくはもっと分かり易く「あんないい太鼓は二度と買えないね どうして? だって買えん太鼓」というサゲにしている。
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