更新履歴
2015年05月19日(火):初投稿
2026年05月24日(日):文部科学省の最新統計(令和6年度)に差し替え、研究者の現職を更新、重複セクションを整理
「キレる」子どもに親はどう対処するべきか
暴力行為の発生件数は過去最多を更新し続けている
文部科学省が2025年10月29日に公表した「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、小・中・高等学校における暴力行為の発生件数は128,859件に達し、前年度から約2万件(18.2%)増加して過去最多を更新した。児童生徒1,000人当たりの発生件数も10.4件と前年度の8.7件から大きく伸びている。
とりわけ深刻なのは小学校の動向で、令和5年度の集計時点で発生件数は調査開始以降の最多を更新している。令和元年度の338件から令和5年度には488件(東京都を除く都道府県集計)と短期間で急増し、令和6年度は前年度比18.6%の増加となった。暴力行為の低年齢化は加速しており、平成26年度と令和4年度を比較すると、小学1年生の加害児童数は約10.5倍に増えている。

現場の教員が直面する「キレる子ども」
テストの問題が解けない自分への苛立ちから、隣の席の同級生をいきなり殴る。教師から注意されたストレスをため込み、自分の腕を傷つける。教師歴14年の小学校教諭はNHK「あさイチ」の取材に対し、以前は想像できなかった原因でキレる子どもが目の前に現れていると証言した。「自分で感情をコントロールできない」「自分で問題を解決する力が弱くなっている」というのが、教育現場の率直な印象である。
「中間反抗期」という概念の広がり
NHK「あさイチ」が実施したアンケートでは、4人に1人の母親が「自分の子供はキレやすい」と回答している。普通に話しかけただけで激高する、物に当たるといった反応に戸惑う家庭は少なくない。
近年、専門家のあいだで定着しつつあるのが「中間反抗期」という考え方である。これは、2〜3歳の第一次反抗期と中学・高校の第二次反抗期のあいだ、5歳から小学校中学年あたりに見られる反抗的な態度を指す。年長から小学3〜4年生にかけてのこの時期は、自我の発達と環境の変化が重なり、自己主張が強まる。小学校3〜4年生は「ギャングエイジ」と呼ばれ、友だちとの関係を優先するようになる一方で、家庭では親への反発が増す。
保育園や幼稚園の年長児クラスで「嫌だ」の大合唱が起き、先生の指示が通らないという報告も増えている。自分のやりたいことと、いま取り組まなくてはならないことの折り合いがつかない。同じ葛藤は昔の子どもにもあったが、地域の子ども同士の関わりや、近所の大人からの多面的な働きかけが緩衝材として機能していた。
ある小学4年生が書いた「日曜日さま」という作文には、こうある。
月曜から土曜まで習い事がある中で、日曜日が待ち遠しい……でも、次の月曜日が怖い……だから、次の日曜日をまた楽しみにしている……
かつてなら、嫌になったら習い事を休むという選択肢があった。今は休もうとすると教室から家に電話がかかってくる。寄り道もサボりも許されない管理下で、不満は静かに蓄積していく。
子どもがキレたときの接し方
白梅学園大学子ども学部の元教授・増田修治氏は、子どもの問題行動の専門家として家庭で実践できる対処法を提示している。同氏は2025年3月に定年退職したが、現在も小学校での研修講師として活動を続けている。
NHK「あさイチ」の番組内では、小学4年生の兄と3歳の妹がいる家庭が取材された。普段は優しい兄が、疲れがたまるとイライラを抑えきれず妹とけんかし、突き飛ばしてしまう。増田氏が家庭のビデオ映像を見ながら指摘したのは、以下の点だった。
- 「あんた何やってんの」と頭ごなしに否定していないか
- キレたときは、まず否定から入らない
- 子どもが怒ったり「嫌だ」と感じた感情自体は認める
- イライラそのものは悪いことではない
- 感情を認めたうえで、本音を探る
増田氏が男児に「怒りスイッチが入っちゃうのはどんなときだと自分で思ってる」と問いかけると、「妹がしつこくてやめないとき」「言ってもやめないとき」と答えが返ってきた。「あとから考えるとやりすぎた」と本人が振り返ったところで、増田氏は「君は賢いね」と評価する。否定ではなく、本人の認知を引き出す対話である。
もうひとつの提案が、カッとなったときに一人になれる狭い空間を家のなかにつくることだった。リビングに学習机を置いている家庭では、子どもが一人になれる場所がない。相手と顔を合わせない場所を用意し、適度に暗く、壁や物が体に接する狭さがあるとクールダウンしやすい。子ども部屋は広すぎるため、小さな避難場所のほうが有効だという。
「いつまでイライラしてんの」ではなく、「どうしたの」と聞く。優しい言葉をかける。ネガティブな感情を持つこと自体は認めたうえで、その出し方をどう工夫するかを教える。親自身がまずクールダウンする姿勢が、家庭の温度を下げる出発点になる。
自尊心を高める授業
キレやすい子どもの原因と対策を研究している早稲田大学教育・総合科学学術院の本田恵子教授は、キレやすさの背景には「自尊心の低さ」があると指摘する。同氏はアンガーマネージメント研究会代表も務め、矯正教育の専門家を対象とした研修にも携わっている。
自尊心が低いと、ささいな注意でも全人格を否定されたと受け取りがちになる。しかも自分に自信がないために言葉での反論ができず、結果として「キレる」という形でしか感情を表現できなくなる。
あさイチで紹介された自尊心を高める授業は、自分の短所を見つめ直し、それを長所として捉え直す3ステップで構成されている。
- ステップ1:自分の短所を書き出す
- ステップ2:友だちにその短所を長所に言い換えてもらう
- ステップ3:短所から長所への変換を自分でクラスの前で発表する
具体例として、「負けず嫌い」は「意志が強い/一生懸命」へ、「心配性」は「責任感が強い」へ、「落ち込みやすくてすぐ泣く」は「優しい」へと書き換えられる。みんなの前で発表し、短所も長所として受け止めてもらえる体験を通して、自尊心が育っていく。
家庭での声かけとしては、「お手伝いをしてくれてありがとう」「あなたがいてくれて助かる」と具体的に伝えること、そして「大好き」と言って抱きしめることが推奨される。子どもたちが共通して抱えている要求は、「私の気持ちを聞いてほしい」「良い子だけをひいきせず、平等に扱ってほしい」というシンプルなものだった。
1日10分の身体活動で前頭前野を鍛える
神奈川県のある小学校では、朝8時30分に登校した子どもたちが教室に入らず、校庭でサッカーを始める。「教室に入らないの」と尋ねると、「まだワクドキやってるから」と返ってくる。
ワクドキタイムは、週に3回、登校直後の10分間を使って全身を動かす取り組みである。提唱したのは、子どもの体と心の関係を研究してきた日本体育大学体育学部の野井真吾教授だ。同氏は2023年4月に開設された日本体育大学「子どものからだ研究所」の所長も務めている。
喜怒哀楽など動物的な感情をコントロールするのが、脳の前頭前野である。野井氏らの研究では、前頭前野が発達していない「不活発型」と分類される子どもの割合が、46年前の20%から近年は半数近くに増えていると報告されている。前頭前野が育っていないことが、キレやすさや集中力の低下と結びつくと考えられている。
朝、思い切り体を動かすことで脳が興奮し、その後の集中に必要な脳の働きが強まる。興奮が強くなれば、それを抑えるブレーキも備わっていく。結果として気持ちが落ち着き、切り替えもできるようになる、というのが提唱の理屈である。
早起きとセロトニン
脳内のセロトニン神経は、人間の攻撃性を抑える働きをもつ。この神経の働きが弱まるとキレやすくなると考えられている。セロトニン神経が最も活性化するのは朝であり、しっかりと朝日を浴びる規則正しい生活が、攻撃性の制御に寄与するとされる。何歳から始めても効果は期待できる。
[出典:2015年5月18日放送 NHK「あさイチ」、文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(2025年10月29日公表)]
食生活との関連は仮説の域を出ない
キレやすさの原因として、砂糖や精製された穀類の摂取過多を挙げる説がかつて広く流布した。低血糖症がアドレナリン分泌を促し、攻撃性を高めるという論理である。ただし、子どもの問題行動と特定の食品摂取量の因果関係を直接示す質の高い研究は限定的で、現時点では仮説の域を出ない。食生活の偏りが心身の不調と関連する可能性はあるが、犯罪や暴力の単独原因として扱える根拠は乏しい。
朝食を取らずに清涼飲料水や菓子で空腹を満たす生活が、集中力や情緒の安定にプラスに働かないことは経験的に知られている。ビタミンやミネラルを含むバランスの取れた食事は、生活リズムや睡眠と並んで、子どもの情緒の土台となる。


参考文献
文責:ライターズラボ編集部(2026年05月24日(日)22:00執筆)












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