金のことばかり考えている船頭の熊蔵。雪のしんしんと降る晩、船宿の二階で「金が欲しい、二百両欲しい、百両でもいい」なんて寝言を言っている。
そこへ深川まで屋根船を出してくれと、身成りは汚れて粗末、一癖ありそうな浪人風な侍が、16、7の色白で器量がよく、品がいい大家のお嬢さん風な娘を連れてやって来た。娘は鼻緒の切れたポックリ下駄をぶら下げて素足で震えている。侍は浅草で芝居見物の帰りに雪に降られ難渋しているという。
船宿の親父は、この雪で船頭は出払って欲深い熊蔵しかいなく、酒手を無心でもされても気の毒なので断るが、どうしても舟を出してくれという。親父は仕方なく熊蔵に頼むが、この雪の中、熊蔵は仮病を使って断る。あきらめない侍は「骨折り酒手ははずむ」と大声で言うと、これをを聞き逃さない欲深な熊蔵は二階から転がり下りてくる。
降りしきる雪の大川、舟を漕ぐ熊蔵は障子の隙間から中の様子をうかがうと、行火(あんか)に突っ伏してぐっすり寝ている娘を侍がじっと見ている。どう見ても兄妹ではなく、何か訳ありだと感づくが酒手だけもらえば見て見ぬ振り、どうでもいい事だ。
でもなかなか酒手が出ないので、舟を揺らして「鷺を烏というたが無理か 場合にゃ亭主を兄という」なんて催促する強欲さだ。
すると侍は熊蔵に舟を止めさせ金儲けの話を勧める。金とくれば目がない熊蔵は大乗り気だ。案の定、娘は妹ではなく、好きな男を追って百両持ち出して家出した娘で、花川戸で癪(しゃく)を起して苦しんでいる所を介抱し事情を聞き、男の所へ連れて行ってやると誘って連れて来たという。
侍は熊蔵に娘を殺し金を奪う手伝いをしろという。熊蔵はただ、むやみに金が欲しいだけで、人を殺してまで金が欲しいのではない断る。侍は事を打ち明けたからには承知しないと命をもらうとおどす。
熊蔵は分け前はいくらかと聞くと、たったの二両で「ふざけるな」だ。侍が泳ぎができないことを見抜いた熊蔵は五十両づつの山分けだと強気に吹っかける。いやなら舟をひっくり返すと逆におどし、話はまとまった。
金の亡者の熊蔵だが、人を殺してまでの悪党ではない。舟の中でやるのは証拠が残るからと言って中洲まで漕ぎつけ、侍が先に上がったところをいっぱいに棹を突っ張り、舟を出して「ざまあみろ。土左衛門になりゃあがれ、侍じゃねぇ、弔いだ、馬鹿!」と悪態をつき舟を間部(まなべ)の河岸に着けた。
娘は本町の大家の一人娘と分かり、熊蔵は家まで送り届ける。喜んだ大家の主人は熊蔵に酒手と言ってお礼に金包みを差し出した。一度は断ったものの、断り切れる熊蔵ではない。包みを押し頂いた熊蔵は、その場で金包みを開け始めた。
なんと五十両が二包み、しめて百両の大金だ。嬉しさのあまり金包み二つをギューと握り締めた。途端に、あまりの痛さに目が覚めた。船宿の二階で自分の金を握っていたのだ。
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