三枚起請(さんまいきしょう)は古典落語の演目の一つ。
もともとは上方落語で、初代三遊亭円右が舞台を吉原遊郭に直して東京に持ち込んだ。
TVドラマ「タイガー&ドラゴン」(スペシャル版)や「幕末太陽伝」にも出できた噺である。
主な演者には5代目古今亭志ん生や3代目古今亭志ん朝、柳家さん喬などがいる。
建具屋の半七が吉原遊郭に行ったっきり戻らないと聞き、棟梁の政五郎が意見をしてやろうと半七を呼びつける。
「お前の親父に聞いたぞ。お前、吉原遊郭の花魁に入れ込んで、何日も家に帰っていないんだって?」
「ウヘヘヘヘ、当たり…」
話を聞くと、『年季が明けたらきっといっしょになる、神に誓って心変わりしない』という起請文も取ってあるらしい。
「何々…【一つ、起請文のこと。私こと、来年三月年季があけ候えば、あなたさまと夫婦になること実証也。新吉原江戸町二丁目水都楼内、喜瀬川こと本名中山みつ】。これをもらったのか!?」
「エヘヘヘヘ、どうでしょ?」
「馬鹿か、お前は…」
「あ!? 投げた!! 俺の大事な…」
「あんなもの大事にするなよ」
なんと、棟梁も同じ女から、まったく同じ内容の起請文をもらっているのだ。
二人して呆れているところへ、今度は三河屋の若だんな(新之助)がやってきて、そっくり同じようなノロケを言いだした。
「あたしにその水都楼の女がぞっこんでしてね、これここに起請文まで…」
「【あなたさまと夫婦になること実証也。喜瀬川こと本名中山みつ】…」
「何で知ってるの!?」
棟梁に事情を聞き、新之助と半七の怒ること怒らないこと…。
『これから水都楼に乗り込んで、化けの皮をひんむいてやる!!』と息巻くふたりに、棟梁がマァマァと声を掛ける。
「相手は女郎だ。下手にねじ込んでも、開き直られればこっちが野暮天にされるのがオチだぜ。それならば…な」
なにやら二人に作戦を授け、三人そろって吉原へ。
お茶屋の女将に話を通し、部屋を借りた棟梁は、半七と新之助を部屋に隠して喜瀬川を御茶屋に呼びつけた。
「起請文? 棟梁にしか差し上げていませんよ。他の人には…」
「建具屋の半七には?」
「半七? どちらの…知ってますわよ、そんなに睨まないで。確かにお知り合いではありますけど、起請を送った事は在りませんわ。あんな『水瓶に落ちたおマンマ粒』みたいに太った…」
「『水瓶に落ちたおマンマ粒』、出といで…」
納戸の中から半七が登場。
「アララ、いらっしゃったの…?」
「こいつだけじゃねぇだろ。三河屋の新之助にも…」
「知らないよ。あんな『日陰の桃の木』みたいな奴…」
「『日陰の桃の木』、こちらにご出張願います」
「やいっ、誰が『日陰の桃の木』だ」
「アアラ、ちょいと、新さん、様子がいいねえ」
「調子に乗るんじゃねえ」
言い逃れできなくなった喜瀬川だが、このまま引き下がっては…花魁の名が廃る。
「ふん! 大の男が三人も寄って、こんな事しか出来ないのかい。はばかりながら、女郎は客をだますのが商売さ。騙される方が馬鹿なんだよ」
「何だとこの野郎!!」
「アララ、手なんか上げちゃって如何するの? 吉原で女に手を上げるのはご法度だよ」
「そんなんじゃねぇや」
「じゃあ、その手は何?」
「ん…これは『グー』だ。グーを出して…花魁の手管にはグーの音も出ない」
段々旗色が悪くなってきた。仕方なく棟梁が仲裁に入る。
「喜瀬川。男をだますのが商売だってえのは承知の上だ。だが何で起請文なんかでだますんだ? 女郎なら、ちゃんと口先三寸で騙せよ」
「フン!! 一枚や二枚で驚くなってんだ。この江戸中探したら、いったい何枚起請が出てくることやら…」
「喜瀬川、昔からよく言うだろ? 『起請に嘘を書くと、熊野の烏が三羽死ぬ』ってな」
「オホホ…。私はね、世界中の烏をみんな殺してやりたいんだ」
「え? 烏を殺してどうするんだ?」
「ゆっくり朝寝がしてみたいんだ」
▼幕末の名士が作ったオチ▼
オチの『(カラスを殺して)ゆっくり朝寝がしてみたい』という件は、倒幕の志士であった高杉晋作が酒席で酔狂に作ったという都々逸(「三千世界の烏を殺し主と朝寝がしてみたい」)に由来している。
この唄は、品川遊郭の「土蔵相模」という店で作られたもので、それを加味してか1958年の映画「幕末太陽伝」で、佐平次(フランキー堺)がごきげんでこの唄をうなっていると、一緒に風呂に入っていた高杉本人(石原裕次郎)、おもむろにそれを止め、
「おい、それを唄うな。・・・さすがにてれる」。
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