永井荷風の小説をもとにした柳亭痴楽(四代目)の新作落語(創作落語)
蓄音機で東海林太郎の「すみだ川」(昭和12年頃のヒット)を歌うがレコードに傷があって戻る、台詞を田中絹代でなく、70歳のお婆さんや、17、8でも田舎の娘が言ったら……というくすぐりを並べていく地噺。
あらすじ
お糸、長吉は幼なじみで初恋の相手だが、互いに口に出せぬまま、お糸は芸者になる。
長吉はお糸をあきらめて役者になろうと思うが、母の反対で許されず、とうとう病気で入院することになる。
家の留守番を引き受けた伯父さん、長吉の日記を見つけると、その間から落ちたのが、全部お糸の写真。
日記にもお糸のことしか書かれていない。
「初恋の君を訪ねて今宵また、書いてまた消す胸の内……
どこかで聞いた文句だな……恋しい恋しいお糸ちゃん、恋という字を分析すれば、いとしいとしという心……
こりゃ都々逸だよ……恋のカナリヤ籠から逃げて、こちらはおきざり、本当に腹が立つ、トコトンのヤットントン……
なんだいこりゃァ……」
都鳥さえ一羽じゃ飛ばぬ、昔恋しい水の面(おも)、逢えば溶けます涙も胸に、橋の柳も春の雪……
お糸長吉のお涙頂戴落語も、これでちょうど
隅田(済みだ)川となりました。
解説
「恋という字を」の都々逸は、「恋」は本字の「戀」が、「糸し糸しと言う心」と書くという意味。
同様の都々逸に「松という字を分析すれば君(公)と僕(木)との差し向かい」などがある。
[出典:名作落語大全集]
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