★柳家小さん(五代目)禁酒番屋

柳家小さん(五代目)

禁酒番屋(きんしゅばんや)は古典落語の演目の一つ。
元々は『禁酒関所』という上方落語の演目で、3代目柳家小さんが東京に持ち込んだ。
主な演者には、5代目柳家小さんや8代目三笑亭可楽、5代目鈴々舎馬風、10代目柳家小三治、上方では4代目林家小染、6代目笑福亭松喬などがいる。

あらすじ

きっかけは、とある武家の家中の事件。
『月見の宴』というものの最中、泥酔した二人のお侍がチャンバラを始め、一人がもう片方をバッサリ。
斬った方はそのまま帰って酔いつぶれ寝込んでしまったが、翌朝目覚めて我に返るや、
「主君に申し訳ない」とこちらも切腹をしてしまった。

その話を聞いた主君、
「酒が災いしての無益な斬り合い、何とも嘆かわしい事じゃ。今後、わが藩では藩士が酒を飲む事を禁ずる。余も飲まぬからみなも飲むな」。

殿様自ら『余も飲まぬ』とのお達しがあれば、藩士一同否応なく禁酒するしかない。
こうして家中一党禁酒、となったが……何しろものが酒である。
そう簡単にやめられるわけがない。

なかなか禁令が行き届かず、隠れてチビリチビリやる者が続出。
また騒動になることを恐れた重役が会議をした結果、屋敷の門に番屋を設け、出入りの商人の持ち込む物まで厳しく取り締まる事になった。
人呼んで「禁酒番屋」。

近藤の注文

番屋ができてしばしのち……家中の侍でも大酒飲みの筆頭である近藤、酒屋にやって来てグイッと一気に三升。
『禁酒なんど糞くらえ』で、すっかりいい心持ち。

「いい酒であった。小屋でも飲みたいから、今晩中に一升届けてくれ」っと帰ってしまった。
太い奴もいたものである。

もとより上得意、亭主も無下には断れないが、近藤の長屋は武家屋敷の門内、配達が露見すれば酒屋は営業停止もの。
しかも入口には例の「禁酒番屋」が控えている。どうやれば突破できるのか……

突破失敗また失敗

亭主が頭を抱えていると、小僧の定吉、恐る恐る手を上げる。

「正直に酒徳利を持って関所を通ろうとしたら止められます。菓子屋の梅月堂で南蛮菓子のカステラを売り出したとか。そいつに見せかけたらどうです」
もとよりお菓子は御法度の外である。

酒屋ではカステラを買ってきて中身を抜き、五合徳利を二本、菓子折りに詰めてきれいに包装する。定吉、菓子屋の小僧に衣装を借りて禁酒番屋へ……
「お頼み申します」
「通れ……そのほうは何じゃ?」
「向こう横丁の菓子屋です。近藤様に、カステラのお届け」

近藤は家中屈指のウワバミ、そこに菓子屋からカステラ……
あ奴いつ甘党になった、おかしい、と指摘する番人もいたが、『進物の菓子』を止める理由もない。

「よし、通れ」ということになった、ところまでは良かったが……
「有難うございます……ドッコイショ!」
「待てい!! 菓子折り一つで『どっこいしょ』とは何だ!?」

抗議の声も聞かばこそ、折りを改められて「この徳利は何じゃ?」。
「えー、それはその、先ごろ出ました、『水カステラ』という新製品で……」
「たわけたことを申すな! そこに控えおれ。中身を改める」
一升すっかり飲まれてしまった。

「かようなカステラがあるか。この偽り者!!」飲まれて追い出され、見事に失敗。
カステラで失敗したので、今度は油だとごまかそうとしたが、これも失敗。
酒屋から酒を巻き上げた番屋の藩士、もとより酒は嫌いでない。
「次はどうやって来るだろう」と待ち構えているから酷い話で……

酒屋の逆襲

都合二升もただでのまれ、酒屋の一同は怒り心頭に発した。店の若い衆、
「この際突破は諦めて、仕返ししてやりましょうや」
「どうする」
「番屋の連中に小便を飲ませます」
「小便?飲むか!?」
「初めから『小便です』と言えばいい。
嘘はついてないでしょう」話は決まった。

店の一同、大徳利を取り囲んでジャァジャァ……
「お頼み申します!」
「とォ~れェィ!」
番人たち、もうベロベロに酔っていて、何を言っているんだがわからない。

「向こう横丁の植木屋でございます、近藤様が植木の肥やしにする……との事で、『小便』のご注文で……」
内心『また呑める!』とほくそ笑む番人、
「馬鹿ァ!! 出せ!!」と徳利を供出させる。

「おお、これはまた、ヒック……ぬる燗がついておるな……まったくけしからん……小便などと偽って……」徳利の中身を湯飲みに注ぐ。

「……だいぶ黄色い……古酒だな。それも、またよし……まったく、けしからんな……」
おもむろに一口……ぶーっと吹き出す。

「ウグッ!? これは小便ではないか! 何とけしからん奴だ!! かような物を持参しおって!」
「ですから、初めに小便と申し上げました」
「うーん……あの、ここな……正直者めが」

攻防戦の演出

「酒を売りたい」と思う『酒屋』と、「何とか阻止したい(表向き)」「役目と称して酒が飲みたい(本心)」と思う『禁酒番屋』……。
この両者の攻防を、いろいろな噺家が面白おかしく演出してきた。
例えば、上記のあらすじでも採用した、
「手代が思わず『ドッコイショ』と言ってしまい、怪しまれてしまう」
演出は5代目柳家小さんが採用したもの。

また、以前は『小石川新坂の安藤という旗本屋敷』と限定されていた「禁酒する藩」を、ぼやかして演じたのも五代目の演出である。

コメント

  1. 桂小金治さん御逝去 アフタヌーンショーの御意見番 追悼落語 禁酒番屋 より:

    […] 禁酒番屋(きんしゅばんや)は古典落語の演目の一つ。元々は『禁酒関所』という上方落語の演目で、3代目柳家小さんが東京に持ち込んだ。 主な演者には、5代目柳家小さんや8代目三笑亭可楽、5代目鈴々舎馬風、10代目柳家小三治、上方では4代目林家小染、6代目笑福亭松喬などがいる。 […]

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