この三年この方、富くじに狂いっぱなしの八五郎。
外れても外れてもあきらめるどころか、一攫千金への果てなき夢は燃えさかるばかり。
おかげで商売は放りっぱなし、おかみさんが、いくら当たりっこない夢から覚めて、まじめに働いとくれと、意見をしても、馬の耳に念仏。
もう愛想が尽きたから、これ以上富を買うのなら別れると、脅してもダメ。
はや、年の暮れが近づき、借金を申し込んでも、もう誰も貸してくれる者がいないから、富くじ代一分どころか、年を越せるだけの金もない。
そんなことは富さえ当たれば万事済むと、八五郎はむりやりかみさんの半纏をむしり取り、質屋でマゲて、千両富のくじ代をこしらえると、湯島天神へまっしぐら。
八五郎が強気なのはわけがあって、昨夜見たのが鶴がはしごの上に止まっている夢。
必至に夢解きをした結果、鶴は千年、はしごはハシゴで八四五。
だから、鶴の千八百四十五番のくじを買えば大当たり間違いなしというわけ。
途中に大道易者が出ていたので、夢のことを話して占ってもらうと、
「なるほど。それで鶴の千八百四十五とは考えたが、そこが素人の甘さだな」
「なぜ?」
「ハシゴは下るより登る方に役立つもの。八百四十五と下りてくるより、逆に五百四十八と登るのが本当だ。鶴の五百四十八番にしなさい」
なるほどと思って、興奮しながらその札を買う。
いよいよ、子供のかん高い声で当たり籤の読み上げ。
「つるのおォ、ごひゃくゥ、よんじゅう、はちばーん」
「あ、あた、あたあたあたたた……」
八五郎、腰を抜かして気絶寸前。
当たりは千両だが、すぐ受け取ると二百両差し引かれる。
来年までなんぞ待ってられるけえと、二十五両の切り餠で八百両受け取ると、宙を飛ぶように長屋へ。
聞いてかみさんは卒倒。
水をのんで息を吹き返すと
「だからあたしゃ、おまえさんに富をお買いって言った」
「うそつきゃあがれこんちくしょー」
さあ、それから大変な騒ぎ。
正月の年始回り用に、着たこともない裃と脇差しを買い込むやら、大家に家賃を二十五両たたきつけるやら。
酒屋が来て餠屋が来てまだ暮れの二十八日というのに、一足先にこの世の春。
さて、年が明けて元旦。
大家に、年始のあいさつを聞きに行くと、一番短い「御慶」を教えられたので、八五郎、裃袴に突袖をしてしゃっちょこばり、長屋中をやたら
「ギョケイ、ギョケイッ」と、どなって歩く。
仲間の半公、虎公、留公がまゆ玉を持って向こうから来るので、まとめて三人分と、
「ギョケ、ギョケ、ギョケイッ」
「なんでえ、鶏が卵産んだのかと思ったら八公か」
「てやんでえ、ギョケイッ言ったんだい」
「ああ、恵方(えほう)詣りィ行ってきた」
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