怖いのはどっち? 男性の絵 or 女性の絵
日本人410人に聞いた「好きな画家ランキング」
5位 フェルメール
色遣いがきれいで、特に青は、他にはない鮮やかさから「フェルメール・ブルー」と呼ばれています。
4位 レオナルド・ダ・ヴィンチ
1974年、名画「モナ・リザ」が初めて日本に来た時には、上野の東京国立博物館に、この年、日本で一番長い大行列ができました。
3位 クロード・モネ
2位 ピカソ
その作品数は15万点にも及び、「最も多くの作品がある美術家」として、ギネス世界記録に登録されています。
1位 ゴッホ
日本人410人に聞いた「好きな画家ランキング」
以上、5人の共通点はずばり、男性。
絵画の世界は圧倒的な男性上位。
しかし、2014年、世界9ヶ国で開催された「ある日本人女性」の個展に、200万人以上が訪れ、その年の来場者数世界NO.1に!
その人は、草間彌生(やよい)さん(86歳)。
男性上位の芸術界で、草間さんのニュースは大きな変化をもたらすと注目されています。
近年は、女性画家も認められてきて、アメリカのジョージア・オキーフが描いた「チョウセンアサガオ」が、2014年に約52億円という最高額が出ました。
著書「怖い絵」シリーズがベストセラー、美術評論家の中野京子先生が、知られざる女性画家の絵を教えてくれます。
男女にまつわる怖い絵 フラゴナールの「ぶらんこ」
18世紀フランスを代表する画家、フラゴナールの「ぶらんこ」。
ブランコに乗っている女性の右下にいる男性が彼女のご主人、左下にいる男性は彼女の浮気相手、左上のキューピッドは、口元に指を置いて、「しー、この恋は内緒だよ」と言っています。
ご主人からは浮気相手の男性は見えません。(知らぬは旦那ばかりなり)
フランスの宮廷では、結婚は家を存続させるためのものだったので、恋愛ではありませんでした。
跡継ぎさえ生まれれば、あとは浮気しても良い(ただ知られさえしなければ)という文化でした。
男女にまつわる怖い絵 ルーベンスの「メドゥーサの首」
16世紀末、日本では豊臣秀吉が全国統一を果たしていた頃。
この時代を代表するオランダの画家ルーベンスの最も有名な絵が「キリストの昇華」。
磔にされるキリストを、9人がかりで持ち上げることで、キリストの偉大さを表しています。
この絵は、「フランダースの犬」で、主人公のネロが亡くなる前に「一生に一度は見たい」と願った絵です。
人の表情、筋肉、動物の毛の一本一本まで、まるで動いてるかのように描かれています。
そんな天才ルーベンスは、その卓越した技術で、怖すぎる一枚の絵を描いています。
当時の権力者たちは、戦いでの勝利を願って、画家にわざと、ある怖い絵を注文していました。
しかし、出来上がった絵のあまりの怖さに、依頼主は思わず震えあがりました。
首を斬られた女性……
血走った目を大きく見開いています。
これは、ギリシャ神話に出てくる怪物メドゥーサです。
周りのヘビは、怒りと驚きでざわざわとうごめいています。
この絵により、ルーベンスの実力があらためて世間に知れ渡りました。
男女にまつわる怖い絵 女性画家のパイオニア・アルテミジア
ルーベンスと同じ時代の女性画家、イタリア人のアルテミジア。
彼女は、体のたるみや腕のたくましさなど、女性のリアルな姿を描きました。
自画像も、髪を振り乱し、飾り気のない姿です。
アルテミジアは、画家である父の手伝いをしながら、15歳のころから絵を学び始めました。
その後、19歳年上の画家タッシと出会い、タッシの弟子になります。
「いつか結婚しよう」という言葉を信じ、アルテミジアはタッシの恋人になります。
しかし、結婚の約束は3年経っても守られず、父は激怒。
裁判をすることになり、裁判中、「ウソをついていないか」、アルテミジアは拷問や辱めを受けます。
これに耐え、裁判には勝ったものの、アルテミジアはこのスキャンダルにより、世間の好奇の目にさらせれることに。
それでも彼女は、絵を描きつづけ、実力者しか入れない美術アカデミーに、女性で初めて入会を認められました。
多くの苦労が、のちの彼女の画風に影響を及ぼしたという人もいます。
プロになってアルテミジアが描いた怖い絵……
正義の象徴・剣を持っているのは、国を救った勇敢な女性。
その付き人のかごに入っているのは、敵の大将の首です。
結婚詐欺のスキャンダルに見舞われたアルテミジア、人々はそのことを描いた絵だと噂します。
「剣を持った女はアルテミジア自身で、首は憎い男・タッシに見立てて描いているに違いない」
それに対してアルテミジアは、「ご想像におまかせします!」と、否定も肯定もしませんでした。
彼女を苦しめたスキャンダルが、かえって彼女を有名にしたのです。
プロの女性画家がほとんどいなかった時代に、人気画家として成功したアルテミジアは、61歳でその生涯を閉じました。
画家の地位が高くなるに従って、権力者と結びつきます。
そうすると、そこの中で男尊女卑になっていきました。
彼女の父は画家でしたから、彼女の名前しかサインがないにも関わらず、それは父親の絵だと否定されていきました。
画家も音楽家も、女性は認められてこなかったのです。
男女にまつわる怖い絵 「終焉の画家」ベクシンスキー
ポーランドの男性画家ベクシンスキーは、少年の頃にナチスの迫害に遭っていて、戦争の体験が作品に表れているのではないかと言われています。
「終焉の画家」と呼ばれたベクシンスキーの絵は、「なぜか引きつけられる」と、世界中にファンがいます。
ベクシンスキーの絵には、タイトルがありません。
絵を先入観を持って見ることや、作品への意味づけや詮索を嫌ったため、解説も一切残されていません。
男女にまつわる怖い絵 壮絶な人生を送ったフリーダ・カーロ
メキシコの女性画家フリーダ・カーロは、壮絶な人生を送りました。
彼女の絵は、世界中で高い評価を受けていて、「ルーツ」には、彼女の絵の最高額である5億9000万円の値がついています。
47年と言う短い生涯で、およそ200点の作品を残しましたが、そのほとんどが自画像でした。
矢が刺さった痛々しい鹿、その顔はフリーダ自身、矢を放った者をじっと見つめています。
「なぜそんなに自分ばかり描くのか?」と問われた時、フリーダはこう答えました。
「ひとりぼっちだからよ」
この言葉の意味は、彼女の人生を見ればわかります。
子どもの頃の病気が原因で、右足に障害が残ってしまったフリーダ。
友だちが出来ず、幼心に孤独を感じます。
「どうして、みんな私をいじめるの?」
さらに17歳の時、フリーダの運命を変える出来事が!
恋人が出来て、幸せな日々を送っていたのですが、デート中、路面電車の事故に巻き込まれてしまったのです。
フリーダは全身骨折、幸いにも恋人は軽傷、しかし、恋人は心変わりし、去って行きました。
悲しみに暮れるフリーダを見かねた両親は、ベッドの前に大きな鏡を用意しました。
絵の好きな娘が、ベッドの上でも自分の姿を見て描けるようにしてくれたのです。
恋人に捨てられ、ベッドの上の自分を描き続けるフリーダ。
「なぜ、私は生かされているの?」
徹底的に自分と向き合い、画家になることを決心します。
その後フリーダは少しずつ回復、そして22歳の時、運命の出会いが!
当時、メキシコで最も有名だった壁画家、ディエゴ・リベラと出会い、二人はたちまち恋に落ち、結婚、そして妊娠。
順風満帆な生活に見えましたが、またも悲劇がフリーダを襲います。
「痛い!助けて!私の・・・赤ちゃん」
流産でした。
昔の事故が体に影響していたのです。
流産の悲しみを描いた絵の中の、ドクロの仮面をつけた少女は、亡くなったフリーダの子。
持っているマリーゴールドは、死者を道案内する花、トラのお面には、子どもの魔よけの願いが込められています。
流産の悲しみが癒える間もなく、フリーダが人生で最も傷ついた事件が起こります。
最愛の夫・ディエゴが、フリーダの実の妹と恋に落ちてしまったのです。
フリーダは、この時の気持ちをこう残しています。
「私は人生で2つの悪夢に見舞われた。1つは事故、もう1つはディエゴよ」
彼女の心の痛みを表した絵には、2人の女性が描かれています。
どちらもフリーダ自身です。
胸元に描かれているのは心臓。
右側の心臓は健康です、つまり、愛されていた過去の自分。
左側の干からびた心臓は、ディエゴに裏切られた自分。
それでもフリーダは、アメリカやパリで作品を発表し、実力を認められ、メキシコ最高の女性画家と称えられました。
彼女が病で亡くなったのは、47歳の時でした。
彼女の最後の作品には、「ViVA LA ViDA(人生は素晴らしい)」と描かれています。
”壮絶な痛みとの闘いの人生の中だったけれど、その中で自分の芸術は確立できた、人生を肯定しよう!”
自分の作品はなぜ出来たかを考えた時に、「この人生だからこの絵なんだ」と捉えることができました。
だからこそ、「ViVA LA ViDA(人生は素晴らしい)」という言葉を残すことができたのです。
(了)
[出典: 2016年4月2日放送 世界一受けたい授業]
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