あらすじ
ひやかしの客が見世を覗いているので、ぎゅうが一生懸命勧めるが、金が無いのでと断る。
客はこれから集金したいが、まだ貸し金先の見世が開いたばかりなので、失礼になるので行けない。
だから朝勘なら上がっても良いというので、上げてしまう。
この夜は遠慮しないで、台の物を食べたり呑んだり、芸者を上げてドンチャン派手に遊ぶ。
ツケで心付けまで派手に振る舞って遊んだ。
朝、47円80銭の請求。
安いとおだてて、請求の手紙を書きたいが”印鑑”を忘れたので、じかに私が行くので付いて来てくれないかと、若い衆の”馬”を連れて見世の外に出る。
仲之町の茶屋に集金に行きたいが、朝一番に集金では失礼になるので、時間潰しに少し新鮮な空気を吸いにと、大門をくぐって外の街に出てしまう。
湯屋に入って朝湯を浴びて、腹ごしらえにと食事と一杯をやって、若い衆のなけなしの金で、全部勘定を済ませ、浅草寺境内へ。
花やしきに出て、お堂の前に出る。
鳩の餌を売るおばあさんの話をして、仲見世のオモチャ屋、紅梅焼き、人形焼きも見て、雷門に出た。
「電車(都電=路面電車)に乗ってどっか行こうか」
「仲から出るのは御法度だから、仲之町の茶屋に集金に戻りましょう」
「戻るのも何だから、田原町のおじさんの所でどうだ。
ただ、早桶屋だけど良いかぃ」「はかいき(墓息=はかがいく)がするから、イイですョ」
「そうかぃ、世話になったから、君に帯も上げよう」。
馬を向こうに待たせて、早桶屋に入り「おじさん!お願いがあるのですが」
小さい声で「あすこに立ってる男の兄貴が夕べ死んで、大男の上腫れの病のため普通の早桶では入らず、頭抜け大一番小判型を何処でも作ってくれず、困っている」
大きな声で「こしらえて下さい」
「良いですよ」
また大きな声で「作ってくれますか、ありがとうございます」
小さい声で「気が動転して、変なことを言いますが、お気に成されないように」
馬を呼んで、「おじさんが作ってくれるから、安心してここで待つように」と言い残してずらかってしまう。
「まー、一服付けなさい」
「はい」
「驚いただろう」
「いえ、それより朝からこの様な事で無理を言って、スイマセン」
「こちとら、商売だから」
「う!粋なことを」
「長い事だったのかぃ」
「いえ、一晩だったのです」
「急に来たのか」
「不意にいらっしゃった」
「『いらっしゃった』、とはおかしいな。それでも、驚かないのかぃ」
「別に……」
「えらいな~」。
「通夜はどうだった」
「?、ご商売柄(粋な言い方をする人ダ)、それは大変で、芸者も入って」
「それもいいだろう、仏さんも喜んだだろう」
「そうです!”カッポレ”を踊っていました」
「?、仏さんが?」。
「ところで、何か付ける物は?」
「帯がいただけると……」
「ハイ、傘は?」
「傘のことは聞いていません」。
「間もなく出来るが、どうやって持っていくかぃ」
「財布に入れて」「?(早桶を?)」。
「出来たそうだよ」
「どんなんだって構いません。ん?どちらさんがお使いですか?」
「お前さんのだよ」
「ご冗談を」
「冗談ではないよ。お前さんの兄貴が死んだので、これを作った」
「兄貴は居ません」
「さっき来たのが言っていたよ」
「先ほどの方はご親類でしょ」
「いいや」
「え~!わ~、だって!貴方は『おじさん』と言っていたら『あいよ、あいよ』と答えていたではありませんか」
「『おじさん』と言っていたら返事をするが、『おばさん』と言えば怒るよ」
「さ~、大変なことになっちゃた」
「どうした」
「私は仲の馬で、客に逃げられちゃった」。
「お前さんも気の毒だが家も弱るんだよ。この早桶は別の所で使えないので、手間は負けるから木口代だけ置いてけよ」
「それは出来ませんよ。早桶担いで大門くぐれませんょ。縁起でもない」
「縁起でもねぇ! とんでもねぇ、この野郎に早桶担がせろ!」
「よってたかって、何するんですよ」
「金を置いてとっとと持ってけ」
「お金はもうありませんょ」
「ない!奴、仲まで馬に行け」。
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