あらすじ
若旦那・徳さんが番頭に三十両貸してくれと借金の申し込みをしたが頭から断られた。
ではと言うので、番頭が抱えている女の件を細かく明かし始め、大きな声で親父に聞こえるように言い始め、逆に番頭を脅し始めた。
花魁に使う金は無くなればまた無心をする。
それではキリがないので、その花魁を身請けしましょう、そうすればもう遊びはしませんかと若旦那に念を押すと、しないという。
では、一計を案じてこうしますから3ヶ月は遊びは止めてください。そうしたら親元身請けをして頭(かしら)の所に預けておきます。それから……。
それでイイでしょうか。それで充分、それでいきましょうと二人が納得した。
丸の内の赤井様に百両の集金に行ってくれと、番頭が頼まれたが断って若旦那に行かせようとしたが、旦那は息子を全然信用していない。万が一使い込んだら手切れ金として勘当してしまいましょう。との申し出に旦那も渋々了承する。
帰り道、頭の所によって財布を預け、花魁の事を聞いたが嫁入り修行で針仕事を習っていた。
早い帰りに旦那は嬉しくて涙ぐんでいたが、財布を落としたというと、倅のふがいなさに怒り心頭。
そこに頭が財布を拾ったと届けにきた。
旦那は息子の改心に快く思った。本町の親戚に身を固めさせた方がと言われたばかりだから、番頭も心掛けておいてくれという。頭のところにお礼に旦那が直々に伺う事にした。
頭に礼を言って、にんべんの鰹節の二分の切手と十両の目録を差し出した。切手は受け取ったが、目録はお心だけと返してきた。頭も江戸っ子でエライが、番頭も良く分かった人だと感心。
そこに着飾った器量好しの元花魁・お花さんがお茶を持ってきた。
聞けば、かかぁの妹で見なかったのはお屋敷に奉公していたが、年頃になったので戻ってきた。
当人が言うには、武家は武ばって嫌だし、職人は雑風景で嫌だし、何処か商家にでも縁付きたいと言う。
持参金五百両と箪笥長持ち五棹(さお)、何処か良い縁があったら紹介して欲しい、と頼んだ。旦那は五百両と五棹で目を丸くして、家の徳にはどうだろうと乗り気になった。頭は笑って話に乗らないが、それでは私が貰うと言う気の入れようであった。
めでたく二人は一緒になって、夫婦仲も良く仕事にも精を出し、旦那は裏に離れを建てて隠居した。
ある日、離れにお花さんを呼んで世間話を始めた。
「この間、床屋に行ったら、『お宅のお嫁さんはお屋敷勤めをしていたが、どちらのお屋敷ですか』と聞かれたが、何処なんですか」
「あの~、北国(ほっこく)でざますの」。
「?はぁー、北国とは『加賀さま』の事か。百万石の大名だから御家来もずいぶん多いだろうが、女中の数も多いんだろうな」
「三千人ざますの」。
「参勤交代の時は道中はするのか」
「道中はするんざますの」。
「御駕籠でか」
「あの~、駕籠、乗り物はならないんざますの。高い三つ歯の駒下駄で」。
「女の旅だから朝も遅く発ち夜は早く宿に着くんだろうな」
「なんの、暮れ方に出て、伊勢屋によって、尾張屋によって大和の長門の長崎の……」
「ちょっと待ちな。暮れに出て、伊勢から尾張の大和の長門の長崎なんて男でも歩けない。憑き物でもあったのか、諸国を歩くは六十六部、足の達者が飛脚屋と、お前には六部に天狗が付いただろう」
「いえ、三分で新造が付きんした」。
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