ホームレスから人気画家へ★犬と紡いだ奇跡の友情
どん底の人生を送っていた孤独なホームレス。
そして、行き場を失った一匹の犬。
そんな彼らの出会いが、やがて思いがけない奇跡を生むことになる……
「厄介者」
2009年。
イギリス・ロンドンには、様々な理由でホームレスとなり、路上生活を送っている人も多く、39歳のジョン・ドーランもそんなホームレスの1人でした。
彼は既に、20年にわたる路上生活を続けていました。
幼い頃に親に捨てられたジョンは、引き取られた祖父にも「厄介者」扱いをされ、虐待を受けて育ちました。
ドラッグに溺れ、まともな仕事に就くことも出来ず、盗みに走っては刑務所暮らしという悪循環でした。
さらには、ホームレスの仲間からも「厄介者、うっとおしい!」と罵られ、馴染めずにいました。
居場所もなければ、頼る家族や友人もいない、生きる希望など無い、まさにどん底の人生でした。
犬のジョージとの出会い
そんなジョンも何とか、自治体が提供するホームレスの簡易住居に入ることが出来たのですが、ある日、同じ施設で暮らしていたホームレスのベッキーが訪ねてきて、飼っていた犬を押しつけて帰って行きました。
ベッキーは、ペット禁止の公営住宅に移れることになり、犬をジョンに押しつけたのです。
これが、ジョンと犬のジョージの出会いでした。
ジョージは、3歳のスタッフォードシャー・ブル・テリア。
ところがこの犬は、とんでもない居候でした。
ジョージは、ジョンの言うことを全く聞かなかったのです。
留守番をさせると部屋中を荒し回り、仕方なく一緒に外へ連れて出ると、せっかくお金を恵んでくれそうな人がきても、吠えて追い払ってしまいます。
「お前のせいで、誰も近寄って来ねえじゃねえか。どうしてくれるんだ、バカ犬!」
ジョンは、ジョージがいるとろくなことがないと、鎖を外してジョージを追い払いました。
厄介者……
一人の女性がジョンのところにやってきました。
「あら、かわいいわね」
「えっ!?」
「だってあの子、あなたの犬でしょ?」
いつの間にか、ジョージは戻って来ていました。
「ねえ、その子、私に譲ってくれないかしら?」
「ええっ!?」
「こう言ったら悪いけど、あなたが飼うには手に余るでしょ?(お金を差し出し)これでどうかしら?」
「こんなに……」
それは、ジョンにとって「10カ月分の生活費」に相当する大金でした。
「じゃあ、連れていくわね。さあ、行きましょう」
「これで、あの犬ともおさらばだ。とんだ厄介者だったぜ」
「厄介者……」
ジョンは、これで厄介者がいなくなると思いました。
しかしその時、大人の勝手で振り回された、子供の頃の自分とジョージが重なりました。
「厄介者」それは、これまでジョンが何度も浴びせられてきた言葉だったのです。
コイツは俺の友だちです
ジョンは女性を追いかけました。
「ちょっと待ってください。こいつは……」
「な、何よ!?」
「しつけはなってないし、やたら吠えるし、何でもかじるし、本当にどうしようもない犬です。どこへ行っても厄介者扱いされて、こいつは俺と同じなんです。でも、コイツだけが、初めて俺とずっと一緒にいてくれた。コイツは俺の友だちです。ジョージを、大切なパートナーを、売るわけにはいかないんです」
ジョン・ドーランさん >>>
”大人の勝手で振り回された、子どもの頃の自分と重なって、自分も同じことをしていると気づいたんです。ジョージにふさわしい飼い主になろうと思ったのは、あの時からです。”
ジョージのために生まれ変わる
心を入れ替えたジョンは、まず見だしなみを整えることから始めました。
そしてもう1つ、長年断ち切ることができなかったドラッグを止める決心をしたのです。
薬物中毒の更生プログラムを受け、治療を受け始めました。
さらに、生まれて初めての就職活動も開始しました。
しかし、何軒回っても、学歴もなく、ましてや前科があるジョンを雇ってくれる所は、どこにもありませんでした。
ジョンは公園のベンチに座り、ジョージにパンを与えました。
「ごめんな、俺のせいでお前に、こんなもんしか食べさせてやれない。やっぱり俺なんかが、何をやってもダメなんだ。こんな飼い主でごめんな。ごめんな、ジョージ……ううう」
そんな時、公園で無防備に置かれているカバンが目に入りました。
つい、そのカバンから財布を盗もうとした時、ジョージが吠えたのです。
ジョン・ドーランさん >>>
”以前だったら、安易に盗みに走っていたと思います。でも、自分が捕まってしまったら、ジョージの世話は誰が見るんだ、そう思うと、もう罪を犯すことは出来ませんでした」
路上で絵を売るストリート・アーティスト
しかし、ジョージを養うためには、物乞いを続けなければなりません。
その日もジョンは、ロンドンの街角に向かっていました。
その時、ジョージが突然、ジョンを引っ張って走り出しました。
ジョージが立ち止まった先には、路上で絵を売るストリート・アーティストの姿がありました。
「絵か……。ジョージ、俺さ、これでも子どもの頃は、結構 絵がうまかったんだぞ」
成績があまり優秀では無かった少年時代、唯一 学校の教師から褒められたのが、絵を描くことでした。
ジョージが吼えるのを見て、ジョージが絵を描くことを勧めているように感じました。
「こんな俺でも、出来ると思うのか?」
ジョージのスケッチ
それからというものジョンは、来る日も来る日も絵を描き続けました。
なけなしのお金でペンや紙を買い、路上から見える街の景色を、ひたすらスケッチしました。
しかし、素人の絵が簡単に売り物になるはずがありません。
ジョンの絵は、3ヶ月が過ぎても、1枚も売れませんでしたが、それでも描き続けました。
そんな彼らの姿は、いつしか街で馴染みの光景となり、興味を持った写真家が2人の姿を撮影しました。
そして、気づけば季節は冬へと移り変わっていました。
「今日は特に寒いなジョージ。(着ていたジャンバーをジョージに着せ)これでどうだ、あったかいだろ?」
すると、一人の女性がやってきました。
「かわいい。ねえ、この子の写真撮ってもいい?」
「どうぞ」
「(お金を入れて)これはお礼ね」
「お前の方が稼ぎがいいな」
愛嬌たっぷりのジョージの姿は、いつの間にか街の話題になり、写真を撮ろうとする人が次々と訪れるようになりました。
ふとジョンは、ジョージのスケッチを始めました。
それまで、風景しか描いたことのなかったジョンにとって、初めて描く動物の絵でした。
そしてこのことが、思いがけない転機となります。
ホームレスが描く可愛い犬の絵
「そろそろ帰るか、ジョージ」
そこへ、一人の女性が声をかけてきました。
「ねえ、あなた……」
「はい!?」
「この絵は、あなたが描いたの?」
「ええ、そうですけど」
「これ、おいくら?」
「ええっ!? 買ってくれるんですか!?」
「これでいいかしら?」
ジョージを描いた絵が売れました。
ジョンが自分の腕で稼いだ、初めてのお金でした!
「ジョージ、売れた、売れたよ! お前の絵が売れたんだぞ」
それ以降、ジョンが描いたジョージの絵は、少しずつ売れ始めました。
「見たか、また売れたぞ。俺、才能あったんだな。わかってるさ、モデルがいいからだよな」
ホームレスが描く、可愛い犬の絵の噂は瞬く間に広まり、ジョージの絵は、更に客を呼びました。
アーティストのシティズン・ケーン
2012年、路上で絵を描いては売るという生活が2年程続いた頃……
「君が、ジョン・ドーランだね?」
「ええ、そうですけど」
「君に頼みがあるんだ」
ジョンに頼みがあると声をかけてきた男性は、アーティストのシティズン・ケーンでした。
彼はこれまで、数千点に及ぶ作品を世に送り出し、ロンドンのストリート・アートの世界では、知らぬ者がいない大物でした。
「今、ロンドンで活躍しているアーティストを集めて、大きな展覧会をやろうと思っているんだが、そこに君も、是非 参加して貰えないかな?」
「ぼ、僕がですか?」
シティズン・ケーンさん
”ジョンのような無名の新人を抜擢するのは初めてのことでした。でも、噂を聞いて彼の絵を見に行ったとき、すぐにファンになったんです。彼の絵は、街の隅々まで驚くほど精巧に描かれていて、どこか人を惹きつける魅力がありました。”
ホームレスは、ついに本物のアーティストに
2013年9月。
そして、ついにこの日、ジョンにとって初めての展覧会が開かれました。
参加したのは、著名なアーティストばかりで、展覧会は大きな評判を呼び、多くの客が押し寄せました。
しかし、その中で一番の売り上げを記録したのは、なんとジョンでした!
出品された彼の絵は全て完売、実に300万円以上もの売上を記録したのです。
それは、新人としては前例のない驚異の金額でした。
その後ジョンは、パリやサンフランシスコでも個展を開催、これまでに4000点以上の作品を売り上げています。
人生のどん底にいたホームレスは、ついに本物のアーティストに生まれ変わったのです!
ジョン・ドーランさん >>>
”ジョージがいなかったら、私は今、刑務所の中だったでしょう。どんなに人生が絶望的に見えても、希望は常にそばにある。そのことをこの子が気づかせてくれました。私にとってジョージは、最高のパートナーです”
現在のジョンは?
ホームレスから一転、プロのアーティストへと変貌を遂げたジョンさんは、今もジョージと一緒に、路上で絵を描いていました。
ジョン・ドーランさん >>>
”私の原点はストリートですから、アパートを借りられた今も、こうして路上で描いているんです。この方が落ち着くし、インスピレーションが湧くんですよ。”
ジョンさんは現在、次の個展に向けて、新しい作品を制作中です。
そんな彼には、最近大きな変化があったといいます。
ジョン・ドーランさん >>>
”私には兄弟がいるんですが、警察に厄介になっていた頃は会うこともできませんでした。でも、アーティストとして活動できるようになって、初めて兄弟を個展に呼ぶことができた。家族ともう一度つながることができたのも、全部ジョージのおかげです。”
【時に出会いは人生を変える。ジョンはこれからも、心に残る絵を描き続けるだろう、最高のパートナーと共に!】
(了)
[出典:2016年6月9日放送「奇跡体験!アンビリバボー」]
コメント
ジョージ.ドーランの絵はネットでは買えないのでしょうか?