六尺棒(ろくしゃくぼう)は、古典落語の演目の一つ。
原話は不明だが、文化4年口演記録が残るところから、かなり古い噺であることがわかる。
主な演者には初代三遊亭遊三や5代目古今亭志ん生などがいる。
あらすじ
道楽息子の孝太郎が吉原からご帰還。
「あーあ、『床屋行ってくる』で十日間、吉原になだれ込んで居座っちゃったな。ちょっと長居だったよねぇ。親父、怒ってるだろうな…。
でも、うちは番頭さんがしっかりしているから大丈夫だ。出かける前にちゃんと打ち合わせしておいたから、きっと親父に黙って入れてくれるはず。
よ、家に着いた。戸口を…開かねぇぞ。鍵がかかってるよ」
戸口をどんどんたたく。やがて声が聞こえてくるが、それがなんと親父の声!
「ええ、夜半おそくどなたですな? 商人の店は十時限り、お買い物なら明朝願いましょう」
「いえ、買い物客じゃないんですよ。あなたの息子の、孝太郎でございます」
「ああ、孝太郎のお友達ですか。手前どもにも孝太郎という一人の倅がおりましたが、こいつがとんだ道楽者で、毎晩、夜遊び火遊び。
あんな者を家に置いとくってえと、しまいにゃこの身上をめちゃめちゃにしかねません。
末恐ろしいから、あれは親類協議の上、勘当いたしました。と、どうか孝太郎に会いましたなら、そうお伝えを願います。」
「勘当…。参りましたね。私は一人息子ですよ、私を勘当したら身代どうするんです?」
「そんなこと、お前が心配する必要はない!! …とお言伝を願います」
「だいたいね、『できが悪い』だなんて言ってお叱りになりますがね、私はなにも頼んで産んでもらったのではないのです。
あなた方が勝手に産んだんじゃないですか。それなのに”製造元”の不備を省みず、私ばかり糾弾するのは筋違いというものですよ?
出来がよければ受け入れて、悪ければ捨てるというのは身勝手だ…」
「やかましい!! 他人事に言って聞かせりゃいい気になりやがって!!
世間を見てみろ。たとえば隣の孝蔵さんは、親孝行で働き者じゃないか。
親の具合が悪ければ、『肩をたたきましょう』『腰をさすりましょう』、風邪をひけば『お薬を買ってまいりましょう』と尽くしてくれてるじゃないか。はたで見ていても涙が出らァ。少しは世間のせがれを見習え」
「そうですか…分かりました。勘当、結構です。できるものならやって見ろってんだ。
そのかわりね、どこの馬の骨とも牛の骨とも分からないヤロウに、この身代持って行かれるのはシャクですから火をつけます。放火します。
ちょうど袂にマッチがありますから、ひとつここに転がってる空き俵に火をつけて…」
マッチに火をつけてみせたから、戸のすきまから様子をうかがっていたおやじ、さすがにあわてだす。
「あれじゃ本当にやりかねないぞ。あのヤロウ…そうだ、ここに六尺棒があるから、こいつを使って向うずねでもかっぱらってやる! このヤロウ!!」
幸太郎、これはたまらんと逃げだして、抜け裏に入ってぐるりと回ると家の前に戻った。
いい具合に、おやじが開けた戸がそのままだったので、中に入るとピシャッと閉め込み、錠まで下ろしてしまった。
そこへおやじが腰をさすりながら戻ってくる。
「おい、開けろ」
「ええ、夜半おそくどなたですな? 商人の店は十時限り、お買い物なら明朝願いましょう」
「野郎、もう入ってやがる。客じゃない、お前のおやじの孝右衛門だ」
「ああ、孝右衛門のお友達ですか。手前どもにも孝右衛門という一人のおやじがありますが、
あれがまあ、朝から晩まで働いて、金儲けばかりに励みやがって困っております。
ああいうのをうっちゃっとくってえと、終いに日本中の金を集めかねません。
『宵越しの銭は持たない』という、江戸っ子の信条に反する極道者ですから、あれは親類協議の上あれは勘当いたしました…とお言伝を願います」
「勘当…。親父を勘当してどうするんだ?」
「そんなこと、お前が心配する必要はない!! …とお言伝を願います」
「幸太郎…、冗談を言ってないで開けておくれ。私は夜中に駆け出して疝気が…」
「やかましい!! 他人事に言って聞かせりゃいい気になりやがって!!
世間を見てみろ。たとえば隣の孝蔵さんの父親は、子供思いでやさしいじゃないか。
せがれさんが風邪でもひいたってえと、『一杯のんだらどうだ?』『小遣いをやるから、女のとこへ遊びにでも行け』。
はたで見ていても涙が出らァ。少しは世間のおやじを見習え」
「何を言やがんだ…。そんなに俺のまねをしたかったら、六尺棒を持って追いかけてこい!」
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