あらすじ
上野広小路の御成街道には、お侍相手の武具店が多くあった。
そのうちの一軒に、細身の大小、羽織袴、白足袋に雪駄履き、白扇をにぎった人品の良い侍が立ちよる。
店の主人がもてなそうとすると「いや、今日は墓参の帰りじゃ。
供の者にはぐれたのでここで待たせて貰おう」と店先の床机に腰をかけ、しばしの休息。
腰からタバコ入れを取り出し、銀無垢の煙管(きせる)に上等なタバコを詰めて一服。
店に出してある鶴の絵に目を留め「これは良い絵じゃ」、店の主人は「お目が高い。
落款はありませんが、これは文晁(ぶんちょう)の作だと思います」
「文晁でなければ、かような絵は描けまい。文晁は名人だ」。
煙管の手入れが良く、感じたはずみで火玉が飛んで袴へ落ちた。
主人が「お袴が焦げます」と心配すると、侍はあせらず「なあに、これはいささか普段の袴だ」とおうようなもの。
そこに連れの者が現れ連れ立って帰って行った。
この一部始終を見ていた落語国の愛すべき軽い男。
自分も同じ事がしたくなり、長屋の大家に袴を借りにいく。
大家から「袴が必要なら祝儀か不祝儀か、どっちなんだ」
「そうなんです。むこうから祝儀が来て、こっちから不祝儀が来てぶつかって……喧嘩になって仲裁をしている。仲人(ちゅうにん)だから袴が必要」と解らない答え。
それでもヒダも無いぼろぼろの袴を借りると、印半纏に袴という不思議な格好で、先程の店へ。
職人言葉と武士言葉がデタラメに混ざった話し方で、先程の武士と同じ挨拶をして、店の主人が不審がるのを、むりやり床机に腰掛けた。
汚い煙管を出して、粉ばかりになったタバコを詰めて吸い始めた。
「これは結構な鶴の絵じゃなあ」
「はい文晁かと存じます」
「ブンチョウ?いや鶴だろう」と答え、笑われる。
やがて、侍の真似をして煙管の火玉を吹き上げようとしたが、ヤニが詰まって飛び出さない。
思いっ切り吹くと火玉がキリキリッと飛び出し脳天に落ちた。
「親方、これはいけません。頭に火玉が落ちました」
「なあに、心配するな。普段の頭だ」。
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