★三笑亭可楽(八代目)反魂香(高尾)

三笑亭可楽(八代目)

『反魂香』(はんごんこう)または『高尾』(たかお)は古典落語の演目の一つ。
原話は、享保18年(1733年)に出版された笑話本『軽口蓬莱山』の一遍である「思いの他の反魂香」。
元々は『高尾』という上方落語で、主な演者に東京の8代目三笑亭可楽や三笑亭夢楽、上方の3代目桂春團治などがいる。

★聴き比べ
⇒ 古今亭志ん朝 反魂香(高尾)
⇒ 古今亭圓菊(二代目)反魂香(高尾)

あらすじ

カーンカーン…カーンカーン…。
夜中に響く鐘の音。
最近、相長屋へ越してきた浪人者が夜通し鉦をたたくので、八五郎は不眠症に悩まされていた。
「もう我慢できねぇ!」ある晩、とうとう頭に来た八五郎は浪人の長屋へ怒鳴り込む。
話を聞いた浪人は、自分の非を詫びると事情を説明し始めた。

「私は元、因州鳥取の藩に属していた、島田重三郎という者でございます。
ある日、江戸勤番の話の種に、仲間数人と吉原遊廓へ行き、かの三浦屋高尾太夫に一目ぼれをしました」高尾も重三郎の愛を受け入れ、二人は「末は夫婦に」という契りを立てる。

その証として、重三郎は高尾に家宝の短刀を、高尾は重三郎に香箱を贈った。
「このお香は、魂を反すと書いて反魂香、またとない名香です」ところが、重三郎が勤番明けで江戸を離れているうちに、高尾は時の仙台公・伊達綱宗に身受けされてしまったのだ…。
「私との操を守ろうとするあまり、高尾は綱宗公になびきません。

とうとう頭にきた公は、高尾を三叉の船中で斬り殺してしまいました」世の無常を感じた重三郎は、自ら脱藩して浪人となり、残りの人生を高尾の供養に費やそうと決意した…。
「なるほど、そんな訳があったんですかい…」ジーンとなる八五郎。
実は彼も、最近女房のお熊を病で亡くしたばかりで、重三郎の苦悩はよーく解る。

「で…その『反魂香』っていう奴なんですが、そいつを焚くと、本当に高尾が現れるんですかい?」重三郎はそうだと言う。
興味を持った八五郎は、一度目の前で焚いてくれと重三郎に頼み込む。
香炉に香をくべると、なんだか妙な雰囲気がしてヒュードロドロ…!『おまえは…島田重三さん…』立ち上る煙の中に、高尾の姿が現れた。
「そちは女房、高尾じゃないか」『取り交わせし反魂香、余り焚いて下さんすな…香の切れ目が、縁の切れ目…』「焚くまいとは思えども、そなたの顔が見たき故。
俗名、高尾。

頓生菩提、南無阿弥陀仏ナムアミダブツ…」一陣の風ともに、高尾の姿は掻き消えて…。
「物は相談なのですが、そのお香…、少し譲ってはくれませんか?」「できません。
これは高尾が現世に残した形見であって…」「そうでしょうね。
…ところで、そのお香、なんていうんでしたっけ?」「反魂香です」「ありがと!!」自分で買えばいいんだ。
そう思った八五郎は重三郎の長屋を飛び出した。

そのまま薬屋へと駆けて行き、店じまいをしていた親父を捕まえると「アレをくれ!」。
当然、薬屋は何の事だか分からない。
「ワカラネェ? えーと…あれだなぁ、あれだ…あら?」あんまり慌てていたせいで、八五郎は肝心の品物の名を忘却していたのだ。
「仕方がねぇ。そこの棚に並んでいる奴を、右から順に読んでくんねぇ」並んでいるのは伊勢浅間の『万金丹』に、越中富山の…。
「反魂丹!? それだ!!」…本当は反魂香である。

だが、八五郎はそれに気づかず、反魂丹をしこたま買い込むと店を飛び出した。
「ありがてぇ、ありがてぇ!」戸を突き破るようにして家へ飛び込み、火鉢を持ってくると炭をくべて団扇でバタバタ…。
「これでかかぁに会える! うれしいねぇ、かかぁはなんて言うかな?」『おまえは、島田』…じゃない、それは隣だ。
『おまえは、やもめの八五郎さん』かな。

俺は「そちは女房、高」…それも隣だ。
「そちは女房、お熊じゃないか」かな?。
楽しい想像をめぐらせ、火鉢のケツを一生けん命バタバタ…火種を入れるのを忘れた。
「いけね」慌てて火種を入れ、十分に火が起こったところで、八五郎は薬を一つまみくべてみる。
「ゴホゴホ…! 煙りは出てくるけど、なかなか女房が出てきやがらねぇ。
量が少ないのかな?」とうとう自棄になった八五郎。

薬を袋ごと放り込むと、途端に火事場まがいに煙がドーッ!!「ゴホ…ゴホ…!!」むせていると、裏口で戸をたたく音がする。
「あの野郎…恥ずかしいってんで裏口から来やがった。『そちゃ、女房。お熊じゃないか?』」

「違うよ、隣のお崎だよ。さっきからきな臭いのは、お前の家じゃないのかい?」

概要

原話は、店員との恋を引き裂かれた大店のお嬢さんが、乳母の勧めで起請を火にくべると…と言う内容。
それに『傾城反魂香』のエッセンスを加えることで、現在の形が出来上がった。

前半の重三郎の重厚な語りや、幽霊の出現などで陰鬱になった雰囲気が、八五郎が薬屋に飛び込んだ途端に明るくなる場面の対比は秀逸だ。
幽霊が出てくる噺全体に言える特徴だが、高尾の幽霊が登場して『うすドロ』が鳴り出したあたりで芝居がかりになる。

反魂香と反魂丹

くわしくはこちらの項に譲るが、『反魂香』とは焚くとその煙の中に死者が現れるというお香の事。
一方、『反魂丹』は中国伝来の腹痛止めであり、これを焚いてもなにも現れないのは当然のことだろう…。

上方版「高尾」

上方の演出では、重三郎は世をはかなんで出家しているという設定。
東京版との最大の違いは、重三郎と高尾の悲恋が『傾城反魂香』という芝居として知れ渡っていることであり、文句を言いに来た男が坊主と芝居を見比べて「芝居の方がえぇ男や」と文句を言う件が存在している。

この怒鳴り込んでいく男は吉兵衛という名前であり、とにかくやかましくて口の悪い設定。
『反魂香』をせびって断られた時の反応も異なっており、東京版では素直に引き下がっていた男が、上方版では坊主をしみったれと散々罵倒したあと薬屋へと飛んでいく。

坊主の語りが途中で芝居がかり(当然ハメモノが入る)になるなど、演出にも細かな差があるので聞き比べてみるのも一興だろう。
三代目桂春團治の演じる高尾の亡霊の出は、上方色豊かな色気が漂い評価が高い。

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