日本橋新材木町の城木屋の娘、お駒は非の打ちようのない美人の評判娘。それに引き換え店の番頭の丈八は四十を越えた醜男。この丈八がなぜかお駒に惚れてしまった。色目を使ったりするが、お駒はまったくの無関心、無頓着。無愛想だ。
ついに丈八は艶書をお駒の着物のたもとへ忍ばせるが、お駒の着物をたたんでいた母親のお常に艶書が見つかってしまう。お常からきびしく叱られ、この噂が店中にも広がり丈八は店にいたたまれず、店の百両を持ち出し上方の方へ逐電してしまう。
丈八はしばらくして上方から府中(駿府)、江戸へと戻って来る。お駒が近々婿を取ると聞き、いっそお駒を殺して自分も死のうとお駒の寝所に忍び込む。あいくちでお駒の胸元を突こうとしたがお駒が寝返りをうち狙いがそれて気づかれ、泥棒と騒がれて逃げ出す。あわてて愛用の狼の上あごの根付けのついた伊勢のつぼやの煙草入れとお駒への思いの歌を書いた短冊を落としてしまい、それから足がついて召し捕られてしまう。
丈八を取り調べるのは名奉行の大岡越前だ。越前から事の始まりはと聞かれ、
丈八「そもそも国の始まりは大和の国。郡(こおり)の始まりは宇陀の郡。島の始まりは淡路島。寺の始まりは橘寺。棒の始まりは鹿島、香取。香取とは香(にお)い取る、棒は木辺に奉ると書く」と棒使いの口上を並べ始める。
越前「控えろ、そうではない。駒の始まりを申せという」
丈八「そもそもコマ(独楽)の始まりは菅相丞(かんしょうじょう)菅原道真公、筑紫博多の島へご流罪のおり……何ぞよき慰みやなきやとお尋ね……梅の古木を切り刻みこれに金の心棒をつけ、コマと名づけて差し上ぐる。……七日七夜回ったとあるが手前のコマは左様には回らん。明けの六つから暮れの六つまでは回る。これを名づけて日暮しのコマ……」と、今度は松井源水独楽(コマ)回しの口上を言い立てる。
越前「控えろ、そうではない。駒に恋慕の始まりを申せ」と、「娘子を駿河細工と思えども駕篭の鳥にて手出しならねば」と丈八の書いた短冊を突きつける。
丈八「白状申し上げます。もとはと言えば東海道五十三次から出ましたことでございます。はじめお駒さんの色品川に迷い、川崎ざきの評判にもあんな女子を神奈(かんな)川に持ったなら、さぞ程もよし保土ヶ谷と、戸塚まいてくどいても首を横に藤沢の、平塚の間も忘れかね、その内大磯、こいそとお駒さんの婿相談、どうぞ小田原になればよいと、箱根の山にも夢にも三島、たとえ沼津、食わずにおりましても原は吉原、いまいましいと蒲原立てましても、口には由比かね、寝つ興津、江尻もじりいたしておりましたわけでございます」
越前「東海道を巨細(こさい)にわきまえおる奴。してその方の生れは」
丈八「駿河の御城下で」
越前「不忠(府中)ものめ」
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