★笑福亭松鶴(六代目)狸茶屋(金玉茶屋)※たぬきの金玉の大きさは銀杏程度(トリビア)

笑福亭松鶴(六代目)


病気で●んたまの腫れ上がった男がお茶屋に遊びに行った。
二階へ上がりますと、いつもの間に用意がしたある。「どんな女が来んねやろ?」と思いながら、座布団に座って待ってるのも、照れくさい。
というて、先に布団入っとくのも、何じゃ、せからしい思われると、かなん。と、色々と考えて、いっそのこと、先に寝てしまおうと、いびきかいて寝たふりをして待ってます。
そこへやってきたのが、今晩、相手のおやまはん。娼妓さんですな。下で、女将さんとしゃべってる声が、ちょっと聞こえてくる。それから、二階へ上がってくる足音。これ聞いてると、どんな女かいなあという期待と興奮が満ちてきて、いっそう高いびき…

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「ちょっと、お二人さん、寄っていきなはれな。えぇ子揃ろてまんねんし、ちょっと寄っていきなはれな」

「おい、あない言ぅて呼んどるさかい、ここの店ちょっと覗こか?」

「やめときやめとき」

「え?」

「えぇ子が揃ろてる」ちゅうとるやろ。
この時間にえぇ子が揃ろてるわけがないやないか。
えぇ子やったらもぉとぉに仕舞(しも)とぉるのに違いないで。
ろくな女ご居(い)えへん。」

「そぉかてお前、オバハンあないいぅて言ぅてくれてんねや。ちょっと入ってみよや。どっちみちお前、銭出して遊ぶわけやなし、顔だけ見て楽しんだらえぇがな」

「まぁ、そらそやけどな。どっちみちろくな女ごいえへんで。」

「ちょっと、お二人さん、そんなとこで相談してんと、相談やったらわたいとしまひょ~な。ちょっと入っていきなはれな」

「あそぉか。オバハンえぇ子が揃ろてるて、どのぐらいいてんねん?」

「七人(ひちにん)残ってまんねわ、えぇ子ば~っかしでっせ」

「ほぉ~、七人も残ってんのん? ほんでオバハンとこ全部で何人いてんねん?」

「七人いてまんねわ。」

「ほな、全部残ってんねやないか。せやさかい言ぅてるやろ、はじめからもぉ売れてへんねや。よっぽど悪いねんで……、ちょっと見てみ、やっぱり思たとぉりや、なぁ、七人残ってるはずや、よぉこれだけ悪い女ご揃いよったなぁこれ」

「しかしなぁ、そらまぁなるほどお前の言ぅとぉりや、七人とも悪いけど、この悪い中でも辛抱して、ほでお前が今晩一晩泊まるちゅうねんやったら、どの女ご選ぶ?」

「せやなぁ、まぁこの中で一晩辛抱するちゅうねんやったら、そぉか、左から四人(よったり)目か……。お前やったらどの女ごがえぇ?」

「はぁ~、お前、左から四人目か? やっぱし人間の好みて皆違うなぁ。おらぁ左から四人目より右から四人目がえぇなぁおい。」

「アホか、左から四人目と右から四人目やったらおんなし女ごや」

「あぁ、なるほど。ホンに考えてみたら……」

「考えんかておんなじじゃ」

「なるほどなぁ、しかしな、何で俺があの女ごがえぇちゅうたらな、さっきから俺の顔ジ~ッと流し目で見よる、あの目つきの情のあること見てみぃ。あら、ちょっとわいに気があんねんで。」

「アホなこと言え、それやったらさっきから俺の顔ジ~ッと流し目に見とぉんがな。あら、俺に気があるねん」

「そんなことあるかいな、見てみぃなわいのほぉ見てるやろ」

「アホなこと言え、俺の顔のほぉ見てるやないか」

「そんなこと……、あホンになるほど、あの右の目ぇでは俺のほぉ見てるけど、左の目ぇでお前のほぉ見とぉるなぁ。」

「そんな器用な見方できるかい。あら、藪睨み(やぶにらみ)やがな」

「あ、そぉか」

「察するところ、この女ごの親っちゅうのはよっぽど筍(たけのこ)で損しよったとみえるで」

「そんなこと分かるか?」

「おぉ、分からいでか」

「何でやねん?」

「筍で損したさかいお前、あないして藪睨んどぉんねや」

「あぁなるほどなぁ……、ほな、つまり何かい、親が筍で損したさかい、ほで、娘が松茸(まったけ)で儲けてる。」

「よぉそんなアホなこと言ぅわ……」

★こら、今申します「照らし」の小山(おやま)はんの遊びで、もぉこないなったらはっきり言ぃますけど……
これがミナミやとか新町行きますと「送り」の娼妓さんちゅうのがございまして、向こぉ行て不見転(みずてん)で買いまんねんなぁ。
そぉでっさかい、お茶屋の女将さんがよ~っぽどしっかりしてなあきまへんので。

「姐貴、いてるか?」

「まぁまぁ、タァさんやおまへんかいな、長いこと顔見せてやなかったこと。またあっちこっちで浮気してなはんねやろ? 知ってまっせ、いぃえぇな、皆あんたのこと「箒さん、ホォキさん」ちゅうてまんねんで。よぉそんだけ、あっちこっちで変わった女ごはん買いはりまんなぁ、ちょっとは一人に決めはったらどないでんねん。」

「いやいや、そらなぁ、姐貴お前が言ぅとぉり、わいかてな、一人の女ごに決めたいねんけどな、一人の女ごでは具合が悪いねん。済まんけど姐貴、今日も変わった子ぉ頼むわ。」

「何を言ぅてなはんねんな、この前呼んだ子、あの子えぇ子でしたやろ。あんたかて、えらい気に入ってましたやないか。あの子にしはったらどないでんねん? あの子も「今度また、あのお客さん来はったら、お母ちゃん知らしとくなはれや」ちゅうて約束して帰ったんでっせ。あの子にしときなはれ。」

「いやぁ、もぉあの子なるほどな、姐貴の言ぅとぉりえぇねんけどな、わいはもぉ二度とおんなし女ごはあかんねん」

「またそらいったい、どぉいぅわけでんねん?」

「いや「どぉいぅわけ」てね、こんなことは人に言(ゆ)えんこっちゃねん、恥ずかしぃこっちゃさかい……」

「何が人に言(ゆ)えまへんねん?」

「いやいやあのな、せやさかいわいがな、遊ぶ度(たんび)に相手変えるっちゅうのはな……、まぁ姐貴やさかい言ぅけどな、実はわい、子どもの時分から脱腸(だっちょ)やねん。どぉしてもな、そぉいぅわけで皆お前、来た女ごが見て笑いよんねん。」

「何ぼえぇ女ごでもお前、笑われてみぃなあの時に、そらもぉアホらしぃてやってられんでおい。せやさかいな、もぉその知ってるやつ呼んでみぃな、もぉ来るなり顔見て笑いよんのに決まったぁるさかいな、すまんけど変わったんにしてんか。」

「まぁさよか、それやったらそぉとはじめに言ぅてくらはったらよろしぃのに。ほんならな、変わった子ぉ呼びまっさかい」

「あッ、言ぅとくけど、えぇのん頼むで」

「分かってますわいな、あんた面食いやさかい。へぇ、なるべくえぇ子にしまっさかい、いつものとぉり、部屋はいつもの部屋でっさかい、先上がって待ってとくれやす。いぃえぇ、もぉちゃんと用意してまっさかい、どぉぞお二階で待ってとくれやす。」

「ほんなら、二階で待ってるさかい、早いとこ頼むで。」

★二階へ上がりますとちゃ~んともぉ用意がでけてます。
と、用意ができてるさかいちゅうて、まぁどんな女ごはんが来るかいなぁ?ちゅうのが、これまた楽しみでしてどんな女ごに今晩当たるかいなぁ?といぅて、難しぃ顔して待ってんのもおかしなし。

といぅて寝てるわけにもいかんし「あの人、行たらもぉすぐにお布団に入ったはったわ、まぁせからしぃ人」てなこと思われんのも嫌。
といぅて、起きてたらアホみたいに思われるし。いっそのこと寝たふりしてたれ、ちゅうので、お布団の中へ入って、空鼾(そらいびき)かいて寝てますと、下で……

「お母ちゃん、おおきに……、え、何でんのん? 初めてのお客さんでっか、えぇ分かってま。よぉ心得てまっさかい、あんじょ~いたします。またあののちほど、ほな先、お客さんとこ行ってきまっさ。」

★トントン・トントント~ン、と二階へ上がって来た。
この足音聞ぃたらなおさら、大ぉ~きな高鼾かいて寝たふりしてますと、大抵この、こぉいぅとこの女ごはんちゅうは躾がえぇちゅうのか、行儀がよろしぃなぁ、上がって来て立ったまま襖開ける人おまへん。

誰が見てらんでも、いっぺん襖の外で座って襖をばソ~ッと開けて、入ったらまたちゃんと座りまして、元通り閉めますと、入ったとこで「こんばんわ、おおけに……」絶対にこの、お客さんのほぉ正面向いて頭下げんもんで、斜交い(はすかい)にこぉ顔見せるよぉにして

「お客さん、おおけに。こんばんわ」

何で斜交いに頭下げんのんかっちぃますと、こらちゃんと作戦があるんです。斜交いにこぉ相手に顔見せると、鼻が高こぉに見えるそぉですなぁ少々低くかっても。これ、横っから見て見えなんだらもぉ皆目無いんです。 少々低い鼻でも、斜交いに「おおけに」ちぃますと、鼻が高こぉに見える。

「お客さん……、まぁ、よぉ寝たはること。えらい鼾かいて……、お母ちゃん、お客さんよっぽど早よぉから来たはりまんのん? えッ、今来はったとこ? よぉ寝たはんねんわ、おかしぃわ……。ちょっと、お客さん、まぁ、ホンマによぉ寝たはるわ。よっぽどお疲れ筋とみえまんなぁ。」

「ちょっとお客さん、お客さんっちゅうのに……、まぁ、笑ろたはるわ。おかしぃお方、夢でも見たはんねやろかしら? まぁ、分かったわ……、お客さん知ってまっせ、たぬきでっしゃろ?」

「あッ、わいの大ぉきいのん、誰に聞ぃてん?」

[出典:読む上方落語]

【トリビアの泉】たぬきの金玉の大きさは銀杏程度。

*たんたんたぬきのきんたま茶屋

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