あらすじ
せがれに家を譲って楽隠居の身となったある商家のだんな、頭を丸めているが、心は道楽の気が抜けない。
お内儀(かみ)には早く死なれてしまって、愛人でも置けばいいようなものだが、それでは堅物の息子夫婦がいい顔をしない。
そこで、ピカピカ光る頭で、せっせと吉原に通いつめている。
今日も出入りの髪結いの親方といっしょに、夕方、紅灯の巷(ちまた)に繰り出した。
洒落っ気があり、きれい好きなので、注文しておいたヒゲ剃り用の剃刀を取りに髪結床(かみゆいどこ)に寄ったところ、親方が、吉原も久しぶりだからぜひお供を、ということで話がまとまったもの。
ところが、この親方、たいへんに酒癖が悪い。
いわゆる「からむ酒」というやつで、お座敷に上がってしこたま酒が入ると、もういけない。
花魁(おいらん)にむりやり酌をさせた上、てめえたちゃ花魁てツラじゃねェ、普通のなりをしてりゃあ化け物と間違えられるだの、こんなイカサマな酒ェのませやがって、本物を持ってこいだのと、悪態のつき放題。
隠居がなだめると、今度はこちらにお鉢が回る。
ツルピカのモーロクじじいめ、酒癖が悪い悪いと抜かしゃあがるが、てめえ悪いところまでのませたか、糞でもくらやァがれとまで言われれば、隠居もがまんの限界。
大げんかになり、こんな所にいられるもんけえ!と捨てぜりふを吐いて、親方はそのまま飛び出してしまう。
座がシラけて、隠居は面白くないので早々と寝ることにしたが、あいかたの花魁がいっこうにやってこない。
しかたなくフテ寝をして、夜中に目が覚めたとたん、花魁がグデングデンになって部屋に飛び込んでくる。
「だんな、お願いだから少し寝かしておくれ」と、ずうずうしく言うので文句をつけると、
「うるさいよ。年寄りのくせに。イヤな坊さんさよ」と、今度は花魁がからむ。
隠居は
「おもしろくもねえ。客を何だと思ってやがる。こんな奴には、目が覚めたら肝をつぶすような目に会わせてやろう」
持っていた例の剃刀で、寝込んでいる花魁の眉をソリソリソリ。
こうなるとおもしろくなって、髪も全部ソリソリソリソリ。丸坊主にしてしまった。
夜が明けると、さすがに怖くなり、ひどい奴があるもの、隠居、はいさようならと、廓を脱出。
一方、花魁。
やり手婆さんに、お客さまがお帰りだよ、と起こされ、寝ぼけ眼で立ち上がったから、すべって障子へ頭をドシーン。
思わず頭に手をやると……
「あらやだ。お坊さん、ここにいるじゃない。」
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