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警視庁公安部の秘密組織ZERO-日本赤軍重信房子逮捕までの軌跡

   

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実録!!日本警察の秘密組織…極秘捜査官ZERO

「日本赤軍逮捕」

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2000年11月8日、世界の報道はアメリカ大統領選「ブッシュ対ゴア」一色でした。

しかしこの日、日本では急遽、トップニュースが差し替えられたのです。

「日本赤軍逮捕」

70年代から80年代に世界を震撼させた国際テロ組織「日本赤軍」は、長年 潜伏先さえ分からなかったのですが、その幹部のうちの1人が逮捕されたのです。

数々の重大事件を引き起こしたテロ組織を、ついに解散へと追い込んだ歴史的な逮捕劇だったのですが、地球上のどこに潜伏しているかさえ分からない彼らを、どうやって警察は探し当てたのでしょうか?

コードネーム「ZERO」

全ての始まりは、逮捕の10年前に下された「日本赤軍を日本国内で逮捕せよ」という極秘指令からでした。

「日本に密入国するという保証はなく、どこへ隠れるかも分からない、それでも捕まえなければならない」という不可能を可能にした正に、「ミッションインポッシブルな作戦」。

そこには、犯人逮捕の際に報道陣に姿を現わす表の捜査官とはまったく別の、6人の裏の捜査官が存在していました。

彼らに極秘指令を下したのは、警察内ですらその任務を知る者はほとんどいないという秘密の組織・コードネーム「ZERO」。

これは、秘密組織「ZERO」の指令によって、10年の歳月をかけ赤軍幹部を追い込んだ捜査官の、壮絶な逮捕劇です。

「公安」

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あなたは、「公安」という言葉をご存知でしょうか?

「公安」とは、公共の安全を維持するために設けられた警察内の一部門の呼び名です。

各都道府県の警察に存在し、事件が起きてから捜査するのではなく、日本の安全を脅かすテロなどの大事件を未然に防ぐために、危険な団体の動きを日々追跡しています。

公安の捜査内容は機密性が重視されることから、全てが解決しても、明らかにされることはないといいます。

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そんな厚いベールに包まれた公安の中でも、特に秘密性の高い捜査を行う組織が「ZERO」。

「ZERO」とは通称であり、そのような名前の部署があるわけではないとされますが、この逮捕劇を始め、数々の事件を調査、長年 公安を研究してきた作家、麻生 幾(あそう・いく)氏の証言に基づいて、知られざる「ZERO」の捜査に迫りました。

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Zero(上) [ 麻生幾 ]

本来は決して明かされることのない事実ですが、今回特別に麻生氏がカメラのインタビューに答えてくれました。

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Q.「極秘の指令をどのように取材されたのですか?」

麻生氏)「取材の方法については言えません。ただ、とにかく重要なことは、オウム真理教の事件にしかり、グリコ森永事件にしかり、(私が)あらゆる情報を徹底的に勉強していることを、(公安)関係者の方に理解してもらえるかどうかです」

麻生氏の証言によると、「ZERO」は全国の警察を束ねる警察庁の警備局という部署内に存在するといいます。

「日本赤軍を日本国内で逮捕せよ」

今から25年前の1991年 夏、「ZERO」の幹部がある場所へ向かいました。

そこは大阪ですが、府警本部でもなければ、所轄でもなく、大阪府警本部の近くにある古い雑居ビル。

そこに、何の表札もなく、ただ「302」と番号だけふられた部屋がありました。

倒産した企業から大阪府が買い取ったビルの一室、そこが、今回 活躍する男たちの作業拠点になります。

召集がかかった大阪府警の公安課に属する6人の捜査官たちに下された指令は……

「一度しか言わない。日本赤軍を日本国内で逮捕せよ」

日本赤軍とは

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日本赤軍は、学生運動から派生した過激派集団の1つで、世界各地で多数の無差別テロ事件を起こしていました。

共産主義革命という過激な政治思想を背景に、1972年にはイスラエルのテルアビブ空港で銃を乱射、24人を死亡させました。

11 さらに1977年には、パリから羽田空港に向かう日航機をハイジャック。
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バングラディシュのダッカ国際空港に強制着陸させると、乗客・乗員151人を人質にとり、当時服役中だった赤軍メンバーの釈放を要求。

人命を優先した日本政府は、超法的処置で6名の服役囚を釈放、治安を守るべき警察にとっては屈辱でした。

「密入国している可能性がある」

さらに、逃亡を続ける幹部を、警察はその後 捕まえることができずにいました。

なぜなら、革命という過激な政治的思想を掲げる彼らは、その後 潜伏していたパレスチナで、ゲリラから英雄視され、守られていたからです。

しかし……

「日本赤軍の幹部が密入国している可能性があるとの情報が入った」
「今さら何しに来るんや」

1991年に勃発した湾岸戦争、アメリカを主力とする多国籍軍が入ってきた中東は、潜伏先として最適な場所ではなくなっていました。

そこで、新たな活動拠点として警察が睨んだのが、日本。

かつて安保闘争などの学生運動に参加していた人間、日本赤軍にとって支援者になりうる存在が一番多い場所でもありました。

追及班6人の闘い

政府は、日本赤軍幹部の帰国を極めて恐れました。

なぜなら当時は、「麻原彰晃」という統率力のある教祖のもと、「オウム真理教」が危険なテロ集団に変貌していた時期。

もし、カリスマ性のある赤軍指導者が帰国したら、麻原と組み、大規模なテロを企てる可能性もあるからです。

日本の安全を守るため、是が非でも幹部を逮捕し、集団を壊滅させたい……

「密入国したら国内で捕まえる。これは(日本赤軍)壊滅へのチャンスなんだ」

捜査の拠点となったのは、日本赤軍の支援者が多い大阪。

「奴らは、いつ密入国し、どこに隠れるかもわからない。だがそれでも、捕まえなければならない。日本赤軍の支援者になりそうな人間を徹底的に視察(マーク)しろ。もし幹部が密入国したら、匿うのは彼ら支援者だ」

「当然や」

「潜伏場所を突き止め監視、指紋など逃亡犯である証拠を掴む。これまで視察しなかったような人間まで、徹底的にすべて突き上げろ。君たち追及班にかかっているぞ」

「はい!」

「ZERO」の司令を受けた、追及班6人の闘いが始まりました。

「わかっているだろうが、この作業はたとえ同僚の警察官にも他言無用だ。徹底した裏の作業だ、いいな!」

過酷な公安の任務

同僚の警察官のみならず、最愛の家族にさえも話すことはできません。

3日間も自宅に帰らず、妻から浮気を疑われても、本当のことを釈明できないのです。

在職中、10年にわたり公安として勤めた元警察官・犀川博正(さいかわ・ひろまさ)氏に伺いました。

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犀川氏)「家族にも捜査の内容は話せません。人に話すということは、組織を裏切ることになるし、仲間を裏切ることにもなるからです」

マークした数は数百人に

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日本赤軍の支援者になる可能性があるのは、かつて学生運動に参加していた者、しかし当時、日本中に2万人以上はいたといいます。

在職中、10年にわたり公安に務めた元警察官、犀川博正氏によると、当時学生運動に参加していた人たちを警察は把握していたといいます。

Q.「当時 学生運動に参加していた人たちを、警察は把握していたんですか?」

犀川氏)「もちろん把握していました。1960年代末から学生運動が活発に行われていたので、どういう連中が学生運動をやっているのかという時に、ほぼ全て、警察は彼らの身元を特定することはできたと思います」

しかし、いつもは普通の生活をしている者も多く、支援者かどうか簡単には見分けがつきません。

追及班にできることは、膨大な数の候補者を徹底的に見張ることでした。

不審な人物をかくまっていないか、マークした数は数百人にのぼるといいます。

6人が同時進行で、長期間、一人当たり何人も追いました。

鍵を握る人物「坂田孝一(仮名)」

「班長、もう少し人数を増やしてくれるように、上に掛け合ってくれませんかね」
「言ってはみますけど、難しいと思いますよ。事件が増えて、各部署とも人員不足なんですよ」

しかし、一つだけ結論を言うなら、膨大なリストの中に、鍵を握る人物が1人いました。
最初は、1人の捜査官がリストアップした、何十人もの対象者の1人にすぎませんでした。

坂田孝一(仮名)、30代の公務員です。

日本赤軍との接触は確認されていませんが、学生時代 大学寮の賃上げ反対闘争に参加、公安のリストに名前が載っていました。

坂田は勤務態度も真面目で、人付き合いも良く、問題は見当たりませんでした。

この時点で班長は、「日本赤軍と関係があるとは思えない」と思いましたが……

そういう人間を外し、対象者を絞れたら楽なのですが、決して対象から外すことはありませんでした。

テロリストにしても、警察にマークされていない支援者を好む可能性が高いからです。

この時点で、赤軍逮捕の指令が下ってからすでに、5年が経過していました。

坂田に不審な行動が……

5年が経った1996年のある日、マークしていた坂田の行動に変化がありました。

坂田が、お盆や年末年始などの休みのたびに、中国へ渡航を重ねているのです。

日本赤軍の政治的拠り所である共産主義、それを掲げる中国に何度も行っていました。
班長は、坂田のマークを強化するように指示を出しました。

無数の対象者を片っ端から見張りながら、気になる者はマークを強化していきます。

さらに坂田に、不審な行動が……

たびたび銀行で、ドイツマルクを買い求めていました。
統一間もない当時のドイツには、日本赤軍と志が同じ過激派集団もあるなど縁が深く、ドイツマルクは活動資金にしやすかったのです。

「旅行は中国、買う紙幣はマルク、どういうことなんでしょうか?」

「仮にそいつが支援者だとしたら、中国で日本赤軍に接触し、活動資金としてドイツマルクを渡しているとか……」

「作業玉」

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そして尾行を続けているうちに、かつて公安がマークしていた、ある左翼系の集会にも参加したのです。

「次の集会にも顔を出すなら、自分、参加してみましょうか?」
「ダメだ。行動確認中に集会で顔を覚えられたら、追尾(尾行)しづらくなる」
「すいません」
「この集会なら、参加していた人間を知っている。そいつに探らせる」
「本当ですか?」
「作業玉かい?」

作家の麻生氏によると、「作業玉」とは、情報を提供してくれるだけでなく、捜査官の思い通りに行動してくれる協力者のことだといいます。

作業玉を作るのは、「ZERO」の極秘指令を行う上でも、極めて重要な仕事、長期間の地道な作業が必要ですが、麻生氏の証言をもとに、簡単な作業玉獲得の一例を説明します。

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「作業玉」獲得の一例

まずは、どんな情報を集めたいかによって、それまでの人脈を使い、作業玉にふさわしい人物を選定します。

例えば、左翼思想の映画上映会に顔を出すなど……

そして、些細なきっかけで接触を試みます。
当然、警察官という身分を隠して親しくなります。

さらに、時間をかけ、協力者に相応しい人間がどうかを探ります。

こちらを裏切るような人物ではないと確信を持つと、信頼関係を築いたのち、ひたすらターゲットの弱み、あるいは、困っていることを探します。

例えば「借金」。

そして、ターゲットに救いの手を差し伸べて、信頼させるのです。

その後も、何かにつけてターゲットが困っていると、救いの手を差し伸べ続けます。
時には、1年以上もかけて関係を構築することもあるといいます。

「俺、お世話になりっぱなしで、感謝しても感謝しきれません」

「これからも、困ったときはお互い様や」
「ありがとうございます」

「実は、俺もちょっと困っているんだ」
「何でも言ってくれよ。俺に出来ることがあるなら何でもやるよ」

「実は俺……公安なんだ」

そして、関係が構築されたところで、身分を明かします。
ターゲットは驚きつつも、これだけ親身になって助けてくれる男に応えたい一心で、心を開いてしまうのだといいます。

「わかった。任せてくれ」

麻生氏……
「作業玉というのは、公安の協力者運営担当官(捜査官)と同じ考えが出来て、思う通りに動いてくれる存在、いわば分身のような固い信頼関係で結ばれている。だから、時に1人の作業玉を獲得するのに10年を費やすこともあります。だからこそ、日本赤軍の指揮官を国内で逮捕するこの作業は、慎重に時間をかけたのです」

作業玉からの坂田の情報

指令から6年の1997年、作業玉からある情報が入りました。

坂田は、指令と同時期、1991年に結成された日本赤軍の活動を支援する団体のナンバー2だといいます。

つまり坂田は、幹部と接触している可能性があったのです。

しかし彼は、集会に参加したり、時折中国に行くものの、他に不審な点はなく、日本赤軍幹部の密入国は確認できず、指令から7年の月日が経っていました。

「絶対にあきらめるな!」

指令から7年が経った1998年年末、追尾班はささやかな打ち上げをしていました。

「俺たちのやってることって、意味があるんでしょうか?どんなに調べたところで、日本赤軍の幹部が密入国しなければ何にもならない。もうここに来て7年ですよ」
「7年か、まるでセミだな、ははは」

「お前ら間違ってる!奴らは既に日本に入ってるんだよ!俺たちの視線内に入ってないだけだ!」

班長は、大学時代は応援団に入っていた熱血漢で、部下思いな男でした。

「絶対にあきらめるな!」

しかし、赤軍幹部の入国は、8年経っても、9年経っても確認できず、虚しく時は流れました。

「誰かを匿っている可能性があります」

そんな中、2000年5月、マークしていた坂田に動きがありました。
5月末、彼は銀行のATMで、現金の振り込み作業を行っていました。
同じ光景は翌月も続きました。

「坂田が振り込みするような家族は?」
「いません、クレジットは銀行の引き落としが多いし、月末に振り込むとなると……」

「自信を持って言ってみろ!」
「誰かを匿っている可能性があります」

「よし、振込先 特定する」

しかし、秘密捜査ゆえ銀行の協力は得られない、一体どうするのでしょうか?

「さて、俺の出番かな」

「横目技術」

坂田が振り込みをする機械の隣に立った、追及班のベテラン刑事。
正面を向いたまま、ATMで振り込みを行う坂田の番号を確認していきます。

横についたてがある場合は半歩下がるといいますが、熟練した公安捜査官は、目を動かさずに180度以上見ることができるため、手の動きが見えるのです。
これを「横目技術」といいます。

坂田と共に現れた中年女性

振込先は、とあるマンションの管理会社でした。

そして振り込んでいたのは、その会社が管理するマンションの401号室の賃貸料であることも確認、坂田の家族とは全く関係のない部屋だったため、誰かをかくまっている可能性が高まりました。

追及班は、401号室とマンションの玄関が見渡せる向かいの部屋を視察拠点とし、出入りする人物を24時間、ビデオカメラでチェックします。

しかし、どれだけ待てども、誰も現れません。

「ひょっとして、囲ってた愛人に逃げられちゃったんじゃねえのか、坂田は」

張り込んでから10日が経ったこの日、坂田が現れました。

続いてすぐ、薄いサングラスをしてバックを持った中年女性が現れました。

「愛人にしちゃ老けてるし、母親にしちゃ若すぎるな」

しばらく観察すると、坂田がその女性に何度となく、ペコペコと頭を下げていて、その姿はあまりにも異様でした。

「あの女が見せた笑顔の口元、見覚えがある……重信房子!」
「なんだって!?」
「重信房子って、日本赤軍のリーダー……」

「昔の面影がある。重信が好んで履いた黒のパンタロンなど、服装の趣味も同じだ」

「重信房子」

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日本赤軍リーダー「重信房子」

明治大学に在籍中、学生運動に参加、赤軍派と呼ばれる過激派に加わりましたが、内部での争いに嫌気がさし、1971年、仲間と共に日本を脱出、中東の地で「日本赤軍」を結成しました。

彼女がリーダーとなって統率すると、それまで殺人などには手を染めていなかった男子学生や若者たちは、とたんに殺人集団と化しました。

計り知れない影響力を持つ、最強の女テロリストでした。

「外事警察」

実は、公安部門のうち、国外捜査を担当する「外事警察」は、以前から重信逮捕を目指し、海外で極秘作戦を展開していました。

アテネに重信が現れると聞けば、捜査官が現地のレストランで実際に働きながら潜入捜査、しかも1年間も!

結局、重信房子は現れず、徒労に終わりましたが、こうした苦労は1つや2つではありませんでした。

「本人の可能性が限りなく高い」

逃亡から30年、かつての重信の写真と監視カメラに映った女性を比較しましたが、あまりの変わりように同一人物とは認識し難かったのです。

撮影された写真は、警察庁の「ZERO」本部にも送られました。

「ちょっと、重信とは思えないな」
「しかし、当人は絶対の自信を持っております。画像分析、お願いいたします」

すぐに、警察庁 国際テロ対策室と科学警察研究所で、顔認証分析が行われました。

結果、「本人の可能性が限りなく高い」と判明したのです。

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重信房子のタバコの吸い方

しかし、指紋など他にも決定的な証拠が必要でした。

ドアノブや部屋から出されたゴミから、指紋は採取できそうですが、彼らの捜査は完全秘匿。

麻生氏……
「完全秘匿の捜査ゆえ、「ZERO」の作業員たちはテレビの刑事ドラマのように、まず、アドレス(被疑者が住んでいる場所)には絶対に近づかない、人目についたり、被疑者と遭遇する可能性が1%でもあれば、そのような行為は一切やらない、たとえ時間がかかろうとも、相手に少しでも”におい”を感じさせるだけで全てが終わります」

そんな時、追及班にある作業玉から通報がありました。

それは、重信房子のタバコの吸い方についてでした。

彼女はタバコを吸う時に、「パイプを吸うように手のひらを上に向ける」クセがあるというのです。

「中年女性の追尾(尾行)を開始しろ」
「タバコの吸い方、確認します」

「焦るな! 追尾(尾行)の目的を取り違うな。あくまで視察下におき、所在を見失わないため。そして、絶対に気づかれてはならん」

「我々が狙っている”におい”が少しでも感じられたら、日本を出ちまう。すべてが水の泡だ」

「よって追尾(尾行)方法は、完全秘匿」

完全秘匿の尾行の方法

完全秘匿の尾行には、いくつかの約束事があります。

相手が振り返るなど、少しでも気にしたらその時点で尾行は中止、その方法は、刑事ドラマで見るものとは全く違うといいます。

尾行の間隔は最低100m、それは可能なのでしょうか?

公安の尾行のプロ捜査官たちは、被疑者の周囲を取り囲んでいます。
いきなり走り出すことを考え、大胆にも被疑者の前を歩く者、100m後ろを歩く者、見失いかけた時は、単眼鏡を一瞬だけ使って確認します。

さらに、通りの反対側後方から歩く者、通りの反対側ですれ違う者、角を曲がると、他の捜査官が後を追います。

その顔ぶれを小刻みに変えて尾行するのです。
1人が見失っても支障をきたさないように、四方八方から10人以上で、時には100人以上で尾行することもあるといいます。

「重信と同じです」

尾行を始めて10日、依然、本人と断定する証拠をつかめませんでしたが、中年女性がタバコを取り出し吸いだしました。
その吸い方は、パイプを吸うが如く、手のひらを上に向けました。

「重信と同じです」

この瞬間、全員が確信を持ちました、重信房子本人だと!

恐れていた事が……

残された任務は指紋確認でしが、なかなか指紋を採取するタイミングがありません。
しかも、外出の機会がめっきり減り、採取できるチャンスは激減しました。

そんな頃、恐れていた事が起きました。
女を見失ってしまったのです!

見失った場合は、無理に走って追いかけたりせず、尾行は中止、数日後に再開するといいます。

「きっとまた、マンションに戻ってきますよ」
「そうとは限らん、他の支援者のところに移った可能性だってあるんだ」

捜査は10年目に突入していますが、決定的な証拠はつかめないまま尾行にも失敗、積み重ねた努力は水の泡となってしまうのでしょうか?

「このチャンスを逃すな!」

ターゲットを見失ってしまった追及班。

「焦るな、あきらめるな! 彼女が重信なら、30年逃げ続けている。気持ちで負けたら勝負は終わりだ! 必ず401号に戻ってくる。視察を続けるんだ!」

そして、見失ってから3日後の2000年11月7日、中年女性はマンションに戻ってきました。

すぐに外出しますが、手には缶コーヒーを持っていました。

「缶コーヒーも持ってる」
「詳しく!」

「黒のロング缶」
「このチャンスを逃すな!」

3人の捜査官で尾行を始めた直後でした。
中年女性は、持っていた缶コーヒーをゴミ箱に捨てました。
あとは、そこから指紋を採取するのみです。

「空き缶、回収」

回収された缶は、直ちに大阪府警本部に運ばれ、鑑識課によって付着した指紋の分析が始まりました。

その後も尾行を続け、午後6時、彼女は高槻市のホテルにチェックイン。

そして、日付は変わり午前2時、指紋が警察に保管されていたものと一致、中年女性は重信房子でした。

偽装結婚しているため本名は奥平房子、まさに 日本赤軍の最高幹部でした。

「あとは、表の奴らの仕事だ」

「明朝、チェックアウトを待って被疑者を確保せよ」

最大のクライマックスとも言える逮捕の任務を任されたのは、あの男たちではありませんでした。

同じ公安でも「検挙班」と呼ばれる捜査官たちが担当するといいます。

「俺たちはあくまでも裏の人間よ」
「あとは、表の奴らの仕事だ」

「ZERO」の指令を受けた追求班は、決して犯人や世間に顔を覚えられてはいけない、最後まで完全秘匿!

「……はい、そうです」

2000年11月8日 午前10時半、ホテルのロビーに重信が現われました。
しかし捜査官にとって、簡単に身柄を確保できない理由がありました。
もしピストルを持っていたら、市民に危害が及んでしまうからです。

人気のない場所に移動した、その時……

「よし、行くぞ!」

重信を囲む捜査官たち。

「奥平だな」
「違う……」

「奥平だな」
「……はい、そうです」

2000年11月8日、重信(奥平)房子 逮捕。

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こうして、重信房子の逃亡生活は終わりました。

逮捕後、意気消沈するでもなく、ガッツポーズを見せた彼女の心理は、いかなるものだったのでしょうか?

「10年か……セミより長かった」

その頃、あの6人の男たちは、マンションを見張っていた部屋で、重盛逮捕の知らせを受けました。

「重信房子を確保した」
「よしっ!」

「君たちのおかげだ」
「10年か……セミより長かった」
「そろそろ俺も引退するか」

捜査官たちが見張っていたあのマンションからは、パソコンやフロッピー、7台の携帯電話、2冊の偽造パスポートが押収されました。

その後の調べで、重信は逮捕の2ヶ月前、関西国際空港から偽造パスポートで密入国していたことが判明しました。

取り調べでは一切を黙秘しましたが、帰国理由としては、国内で新たな活動を模索、さらに 国外へ逃亡中の他のメンバーの帰国を画策する目的だと思われました。

彼女が実行犯であると判明していたのは、オランダ・ハーグのフランス大使館を武装占拠したハーグ事件のみ。

検察はこの事件に関して、殺人未遂罪などで重信を起訴しました。

その後の裁判では、自らの主義や主張を絶対視、多数の生命、身体への危険を意に介さない身勝手な犯行と、懲役20年が言い渡されました。


長年の苦労が実り、日本赤軍のリーダーを逮捕に追い込んだ裏の捜査官たち。

そして、逮捕の翌年、重信房子は獄中で、日本赤軍の解散を宣言しました。

麻生氏……
「重信服役囚を逮捕できた最大の理由は、赤軍の幹部は必ず日本に再上陸していると確信し、そして 日本のために彼らを逮捕するという強い意志を、現場が10年間も持ち続けたことです」

(了)

[出典:2016年6月23日放送「奇跡体験!アンビリバボー」]

革命の季節・パレスチナの戦場から [ 重信房子 ]

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