『伊勢参宮神乃賑』(いせさんぐうかみのにぎわい)、通称『東の旅』(ひがしのたび)は、喜六と清八による伊勢参りの道中を描いた一連の上方落語である。『伊勢参宮神之賑』の表記もある。
●大坂から奈良を通って伊勢へ
『発端』⇒『奈良名所』⇒『野辺』⇒『煮売屋』⇒『七度狐』⇒『うんつく酒』⇒『常太夫義太夫』⇒『鯉津栄之助』⇒『三人旅浮之尼買』
●伊勢神宮にお参りをし
『間の山お杉お玉』⇒『宮巡り』
●近江・京都を廻って大坂に戻ってくるまでの道中
『軽石屁』⇒『これこれ博打』⇒『高宮川天狗酒盛』⇒『矢橋船』⇒『宿屋町』⇒『こぶ弁慶』⇒『走り餅』⇒『京名所』⇒『三十石夢乃通路』
↑が、多くの演目によって構成されている。
『野辺』から『法会』⇒『もぎどり』⇒『軽業』⇒『軽業講釈』と続ける道程もある。
ほとんどの演目は喜六と清八の二人が主人公であるが、『軽業講釈』『こぶ弁慶』『地獄八景亡者戯』(登場する軽業師が『軽業』と同一人物とすれば)などは主人公が異なり、『東の旅』に接続された「外伝」とも位置づけられる噺である。
この『伊勢参宮神乃賑』(東の旅)や『兵庫船』(西の旅)などの旅ネタと呼ばれる一連の道中噺は、元々基礎訓練のための前座噺で、前座が張扇と小拍子を用いて賑やかにしゃべる。
3代目桂米朝一門では入門するとまずこの『東の旅』より『発端』を習い覚える。
⇒ 桂米朝口演(口上 発端 煮売屋 七度狐)
⇒ 桂米朝口演(口上 発端 もぎどり 軽業)
タイトルと簡単なあらすじ
▼前口上
「ようよう上がりました私が初席一番叟で御座います」~小拍子と張扇を用いての口上。
▼発端
喜六と清八が伊勢参りに出かける。大坂から出立し、東へ、玉造~深江~暗峠。
▼奈良名所~旅は奈良に入る。
⇒ 三遊亭百生(二代目) 奈良名所 口演
▼大仏の眼
大仏の中に落ちてしまった眼を直そうと子供が大仏の中に入って…。『奈良名所』でサゲる時に使われる小噺。
▼野辺
野辺へ出てくると、伊勢参りからの帰りとみられる陽気な一行とすれ違う。清八が後付けを始め…。
▼煮売屋
喜六と清八が、変な煮売屋で休息する。
⇒ 桂文枝(五代目) 煮売屋 口演
▼七度狐
ひょんな事から狐の恨みをかい、何度も何度も化かされてしまう。
⇒ 桂米朝口演(口上 発端 煮売屋 七度狐)
⇒ 桂枝雀 七度狐 口演
▼うんつく酒
造り酒屋で暴言を吐いた後、酒屋の姦計に引っかかって捕らえられてしまうが…。清八の弁舌が見物。
⇒ 柳家小さん(五代目) 長者番付(うんつく酒)
▼常太夫義太夫
義太夫語りと三味線弾きだと偽り、土地の庄屋に歓待してもらうことに。
▽法会
村の鎮守様の法会に遭遇。露天商の描写から、がまの油売りの口上に入る。現在は『がまの油』として独立して演じられることがほとんど。
▽もぎどり
続いてうさんくさい見せ物小屋のインチキ興行でひどい目にあう。現在はしばしば『軽業』の前半部分として演じられる。
▽軽業
軽業の舞台を見学する。指二本と扇子で軽業の模写をする芸が見どころ。
⇒ 桂米朝口演(口上 発端 もぎどり 軽業)
▽軽業講釈
軽業の隣は講釈場。講釈師が一席語り始めるが、隣の騒音で聞こえなくなってしまい、軽業師と喧嘩になる。
⇒ 桂文枝(五代目) 軽業講釈 口演
▼鯉津栄之助
大和三本松の鹿高の関で、領主の倅の名に通じる「こいつぁええ」と言う言葉を禁じられる。ところが喜六はその禁句を言ってしまい…。
▼三人旅浮之尼買
源兵衛を加え、三人で伊勢明星の宿に宿泊。女郎を買う事になるが喜六ひとりが尼さんに当たってしまい…。『三人旅』とも。
▼間の山お杉お玉
伊勢間の山にいた女芸人に、他所では価値のなかった仙台銭を投げつける。
▼宮巡り
伊勢神宮の名所巡り。4代目桂文我によって蘇演された。
▼軽石屁
鈴鹿峠で清八に家来扱いされた挙句、籠賃を騙し取られた喜六が、珍妙な方法で意趣返しをする。
▼これこれ博打
賭場で身ぐるみ剥がれた後、神様のふりや、盗人に会ったふりなどしながら、飲み食いをせしめる。
▼高宮川天狗酒盛
多賀大社に向かう道中、宿を夜逃げし、盗人の一味に出会った二人は…。
▼矢橋船
近江矢橋と大津を結ぶ船の中で、平家の秘宝である名刀「小烏丸」を探す侍二人と遭遇。
⇒ 桂米朝 矢橋船 口演
▼宿屋町
大津に宿泊。客引き女と二人のやり取りが見どころ。
▼こぶ弁慶
宿屋の壁土を食べた男が、壁の中に塗りこめられていた大津絵の武蔵坊弁慶に憑依される。初代笑福亭吾竹作と伝える。
⇒ 桂枝雀 こぶ弁慶 口演
▼走り餅
逢坂の関で乞食に絡まれた侍を助けた二人は、名物走り餅をおごってもらうが、侍は突然しゃっくりが止まらなくなり…。
▼京名所
『三十石夢乃通路』の発端として演じられる。
▼三十石夢乃通路
京と大坂を結ぶ三十石舟の船上を描く。
⇒ 桂枝雀 三十石夢乃通路 口演
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